ニーダーザクセン州の南西に位置するゾーリング・フォグラー地域は、ヴェーザーベルクランドに広がる多彩なアウトドアアクティビティのメッカ。今夏、花咲く草原、絵のように美しい渓谷、古代の高層湿原を存分に楽しめる自然遊歩道を歩いた。

自然豊かなゾーリング・フォグラー

ヴェーザーベルクランドは、ニーダーザクセン州、ヘッセン州、ノルトライン・ヴェストファーレン州の3つの州にまたがっている。ハイキングルートは、全長225kmに及び、その中ほどにゾーリング・フォグラー地域がある。

ゾ―リング・フォグラー自然公園案内版

この地域はヴェーザー川に沿って南から北へ約85kmにわたって広がり、ホルツミンデン、ウスラー、ボーデンヴェルダーなど10の村が続くエリアで、16のハイライトルートを提供している。深い森の中、山脈を越えて上り下りするワイルドなハイキングコースもあれば、開けた耕作地や居心地の良い家庭的な村々をゆるやかに走るコースもあり、時間や体力に合わせた楽しみ方ができる。

特に、ゾーリング・フォグラー地域は今年、ニーダーザクセン州で初めて歩きやすい「第1級ハイキング地域」としてドイツハイキング協会より認定された。わかりやすいトレイルマーク、できるだけ自然な路面、ツアー開始前の充分な情報やクオリティの高いホスピタリティをハイカーに提供する完璧なハイキングのための品質保証を満たすものだ。

今回は、ゾーリング・フォグラー地域の「2つの塔」ルートとウェーザーベルクランドのハイキングルート、そしてシルバーボルンでハスキートレッキングを体験した。

ゴムボートで川下りを楽しむ若者たち

ボーデンヴェルダーから周遊する「二つの塔」ルート

集合場所は、メルヘン街道沿いの街ハーメルン駅。ここから先は徐々に風景が変わっていき、ヴェーザー渓谷は広くなり、両岸には牧草地や畑が広がっていく。ヴェーザー川は、夏には静かな村々を結ぶ旅客船が運行され、カヌーやボートでヴェーザーの川を下る人たちでにぎわっている。

ハーメルンから南西20kmのハイキングスタート地点ボーデンヴェルダーへ向かった。郊外に駐車して、そこから周遊する「二つの塔」ルートは、かつての要塞だった塔、そしてビスマルク塔から名づけられた比較的歩きやすいコースだ。行程ガイドによると、全長12㎞のルートで標高275m、順調に歩けば所要時間5時間弱、一部曲がりくねった道や自然あふれる小道が続いているとあった。

ヴェーザー川の広大な景色、レンヌ渓谷、ミュンヒハウゼンの町ボーデンヴェルダーなど、変化に富んだ景観が楽しめる。メルヘン街道沿いの街も通るので、自然だけでなく観光の楽しみも増すに違いない。また少し遠回りして、近郊の歴史的な旧市街の観光スポットの見学も面白そうだ。

天候を考慮して当日は、行程約8kmの「二つの塔」短縮ルートを歩くことにした。まずはボーデンヴェルダー近郊にある標高約275mのケーニヒスツィンネを目指して約2kmのハイキング。

ケーニヒスツィンネまでの標識

古い荘園や、滅多に立ち入ることのできない正教会の修道院を通り過ぎて、急な登坂を進むと、かつて大規模な要塞であった城跡ケーニヒスツィンネが見えてきた。残念ながら雷を伴う激しい雨に見舞われ、周辺の景色はよく見えなかった。

ケーニヒスツィンネからの眺めは雨で見通しが良くなかった

その後、ボーデンヴェルダーまで森の中の細い道を2km弱歩き、幹線道路に出て、そこを横断。ヴェーザー川にかかる橋を渡り、その奥で再び森に入った。雨が止んだのはラッキーだったが、ビスマルク塔への登り道は狭くてしかも蛇行していたので、ケーニヒスツィンネ塔への登りよりも厳しかった。特に最後の100mほどの登り坂は、想像したよりも難度が高くかなり息切れした。

汗をかきながら登った頂上からは、素晴らしい景色が広がった。かつてオットー・フォン・ビスマルクを記念して建てられたこの塔は、花崗岩の巨石でできた円柱で高さ13m。展望台からはボーデンヴェルダーの前を小さなループを描いて流れるヴェーザー川や、村々の景観を満喫できる。

ボーデンヴェルダーへの帰り道は、平坦な林道と畑道を歩いた。途中、ヴェーザールネッサンス様式ベーベルン城に立ち寄った。城は現在、地域の文化センターとして発展し、イベント会場として活気に満ちた場所となっている。

ヴェーザーベルクランドハイキングルート6を歩く

ヴェーザーベルクランドハイキングルートは、メルヘン街道沿いの「鉄ひげ博士」で知られる街ハン・ミュンデンからポルタ・ウェストファリカまで全長225km。ルートは13あり、ヴェーザーベルクランドを南から北へ横断しながら、歴史的な町や城、宮殿、ヴェーザーを一望できる数々の展望台など、変化に富んだハイキングコースだ。

シルバーボルンからシュタットオルドルフまでのルート6に挑戦した。全長22㎞のハイライトは、ホッホゾーリング展望台、メクレンブルフ湿原、のどかなヘレンタール渓谷など。

まずはシルバーボルン近郊から、600m程先のホッホゾーリング展望台を目指した。天気の良い日には、高さ約33mの展望台から周囲の村々の風景を一望することができるそうだが、当日は曇り空であまりよく見えなかった。

展望台を後にして、森の中の細い道を2㎞程歩くと、歴史的な炭焼き小屋を経て、シルバーボルン方向に進んだ。ハイキングルートは道路に沿ってしばらく続き、メクレンブルク湿原を目指した。

ゾーリングで最も大きいこの湿原は、木製の歩道橋を使ってハイカーたちが目指すスポット。63ヘクタールの大きな盛り上がった沼地にある遊歩道は、自然の中を通り、沼の景観が続く。

小さな展望台や湿原の歴史を紹介する案内板を過ぎ、湿原を越えヘレンタールに向かう道中は、緑豊かな草原や牧草地やカウベルを鳴らす牛、ミツバチの鳴き声などアルプスの風情が感じられる。幸運にもエクスムーアポニーや黒ギャロウェイ牛が放牧されているのに出会った。

ヘレンタールに下りた後、ハイキングルートは2つの丘の間の平原を進む。道の両側には、17世紀にはガラス吹き小屋があったという緑の草原が広がっていた。詳しい情報や展示はヘレンタール村の郷土史博物館で見ることができる。

ハイナーデに向かう途中、メルクスハウゼンという村に到着。ハイキングコースはヴェーザーベルクランドのなだらかな丘陵地帯の間にある畑や森の小道を進んだ。ここは風景全体がとてものどかで、道行く人もほとんどいない。

ハイナーデに到着した時点で、ルート6の17km弱を走破した。その後は天候の関係で、先に進むのを諦めた。

夕食・ハイキング後ボリュームたっぷりのシュニッツェルをいただく

シルバーボルンでハスキートレッキング

翌日は、シルバーボルンの大自然の中の牧場「ワイルドファーム」へ。この牧場は、現在16頭のハスキーと10頭のトナカイが、ニワトリやアヒル、ウサギと一緒に暮らしている。ハスキーやトナカイと一緒に冒険するツアーに加え、トナカイに囲まれた幻想的なテントで一晩を過ごすこともできる。

ハスキーとのトレッキングは、ガイドが先導してくれるので道に迷うこともない。まずはリードを取り付けるヒップベルトを装着する。ガイドからハスキーの扱い方について説明を受けた後、ハスキーが待っていましたとばかりに檻の外に。ハスキーとつないだヒップベルトが激しく引っ張られるので、最初は戸惑うが、そのうちお互いに慣れてきて、マイペースで歩くことができる。

約5㎞のハイキング後、牧場に戻り、ハスキーは再び檻の中へ。次は牧場内にいるトナカイのいる檻へ入った。乾燥したコケのような地衣類エサをあげたり、恐る恐る触ったりと、童心にかえりトナカイとのひと時を楽しんだ。

草原の真ん中でトナカイのいる片隅に、とても居心地の良いドーム型グランピングテントがある。冬はテント内に小さなストーブもあるので、一年中いつでも泊まることができるそうだ。

ワイルドファームに隣接するアドベンチャーパーク「ツリーロック」は家族連れに人気

夏はハイキング、冬はウィンタースポーツに人気のヴェーザーベルクランドとゾーリング・フォグラー地域。今回初めて足を踏み入れたが、まだまだ魅力的なスポットがありそうだ。


取材協力:ニーダーザクセン州観光局  

All Photos by Noriko Spitznagel

シュピッツナーゲル典子
ドイツ在住。国際ジャーナリスト連盟会員