初夏のアイルランドを訪ねてまず驚いたのは、その気候だった。6月の朝・晩には気温は10度前後まで下がり、日中は20度を超えることは珍しい。一日のなかでも、激しい雨、雨、曇り、晴れ、快晴と目まぐるしく変化する天気。傘をさしたり合羽を着たり、半そでになったり日よけの帽子をかぶったりと、なにかと忙しい。まるで自然にからかわれているような気分にもなる。「妖精の国」ともいわれるアイルランドだが、まさにそこかしこに妖精がいて、かわいいいたずらをしているようにも思われる。

首都ダブリンは都市であるものの昔ながらの街並みで、教会が多く落ち着いた雰囲気だ。観光の目玉の一つは、街の中心部に位置するダブリン大学、トリニティカレッジの図書館だ。

アイルランドが現在の独立国となったのは20世紀の初め。トリニティカレッジはイギリス領であった16世紀の終わりに設立された。その図書館のインテリアは圧巻で、中央の長い廊下の両側に、高い天井まで書架が立ち上がり、功績のある支援者たちの胸像が並んでいる。世界で最も美しい本と言われる装飾文字、装飾的な装丁が施された装飾写本、国宝「ケルズの書」もここに収蔵され、一般公開されている。

アイルランドの食を1日食べ歩く

朝早くから開いているカフェで、アイリッシュのフル・ブレックファストを食べた。イギリスもそうだが、ソーセージ、ベーコン、じゃがいも、焼きトマト、焼きマッシュルームにたまご焼き、パンと紅茶といった料理がしっかりと朝から食べるのがフル・ブレックファスト。カフェオレとバゲットでサッと済ませるフランスの「コンチネンタル」な朝食と比べるとなかなかのボリュームなのだが、一日を始めるためのパワーを体にみなぎらせるという気概の様なものを感じられる。

フル・ブレックファストで特徴的なものは「ブラックプディング」だ。オーツ麦にハーブ、スパイスを豚の血と脂肪と練り上げたものだ。こう聞くと何やらワイルドに感じられるが、食べてみると血の匂いも味もなく、コクのある味わい。穀類によく馴染み食べやすく仕上がっている。豚肉のすべてをきちんといただく、食べつくすという姿勢の表れでもあるという。

港町ハウスでシーフードをランチに

ダブリンからダートというローカル列車に乗って40分ほどで、港町のハウスに着く。アイリッシュ海に臨む港の突端には灯台があり、のんびりとした風景が和ませてくれる。ここではムール貝とえびのワイン蒸をバターソースでいただいた。プリッとした食感もいいムール貝はオーガニック。アイルランドはその持続的養殖に成功した唯一の生産国だ。

アイルランド産の海産物は、世界70か国以上に輸出されて、金額ベースで720億円に上るのだとか。サバ、ニシン、アジ、コダラ、ホワイティング、メルルーサ、ラングスティーヌ、ムール貝、牡蠣、サーモン、五百数種類にのぼる海藻類、カニ類、そしてツブ貝などが獲れるのだという。

小腹がすいたら、フィッシュアンドチップス

ダブリンで1913年に創業した店でフィッシュアンドチップスをテイクアウトした。タラのフリッターとフライドポテトを紙に包んで、そこにモルトビネガーを振ってくれる。かなりジャンクなのだが、タラがあっさりしているのと、爽やかな酸味でそれほど重く感じられない。しかし、おやつにしてはヘビーなことに変わりない。

パブでギネスを飲む

パブでは定食の食事を楽しむことができることが多いのだが、ダブリンで一番のギネスを飲めると言われるパブでは、ビールとちょっとしたつまみ(ナッツなど)以外は扱っていなかった。そして定番はやはりギネスビール。

黒ビールのギネスの醸造所がダブリンにできたのが18世紀半ば。リッチでクリーミー、独特な深い黒色、滑らかなのど越し。地元の大麦を焙煎して、そのうまさが生まれ、そしてホップとギネス酵母で醸造される。そして抽出用窒素混合ガスを使うことで、クリーミーな、滝のように流れる泡を作り出す。日本で買えるギネスの缶にも窒素のカプセルが入っているのに気づかれた方も多いだろう。

アイルランドの伝統料理「牛肉のギネス煮込み」:レシピ

今回は、アイルランドの伝統食の一つ、「牛肉のギネス煮込み」のレシピを紹介する。シンプルな材料で、少しだけ時間をかけて作れば、ギネスの苦みとコクが感じられる、おとなのビーフシチューが出来上がる。

じゃがいもやにんじんを一緒に煮込む場合もあるが、今回はあくまでもビーフのみ。野菜は蒸して別添えにするといいだろう。

材料:2人分
・ギネスビール  350ml
・牛肉  400g  一口大に切る
・玉ねぎ  1個  粗みじん切り
・マッシュルーム  100g  粗みじん切り
・ビーフストックキューブ  1個
・水  100ml
・トマトピューレー  大さじ2
・ブーケガルニ  1袋
・塩・こしょう  少々
・オリーブオイル  大さじ1

1.  牛肉に塩・コショウを揉みこんでおく。

2.  厚手の鍋にオリーブオイルを入れて温め、牛肉を表面に焼き色がつくまで焼き取り出す。

3.  玉ねぎとマッシュルームを入れて、玉ねぎが透明になるまで炒める。

4.  2と3を鍋に移して、ビーフストックキューブと水、ブーケガルニを入れてふたをして10分煮込む。

5.  トマトピューレーとギネスビールを加え、90分煮込む。

6.  塩・こしょうで味をととのえ、イタリアンパセリを飾る


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/