ポルトガル人がマカオにやって来たのは16世紀の初め。明王朝との交易の拠点とすることが目的だった。1887年にはマカオはポルトガルの領土となり、それから100年以上経って中国に返還されたのは1999年のこと。実に500年近くにわたってポルトガルの強い影響下にあったということになる。

日本との関係でいえば、マカオはヨーロッパとの中継貿易港でもあったし、キリスト教布教活動の拠点でもあった。あのフランシスコ・ザビエルはスペイン人だが、ポルトガル王の命の元、日本にも布教に来た。今でもマカオのサン・ジョセ修道院にはザビエルの右肩の骨が納められている。

日本に伝来したポルトガル由来の食べ物も多い。例えばカステラ、天婦羅もマカオを経由して日本に伝わった。日本への影響も大きいマカオの食文化はポルトガルの影響もあってかなり独特で、世界の他のどこでも見ることができないから魅力的なのだ。

観光とカジノが中心の経済

あらためてマカオを地図で見てみる。中国本土から続くマカオ半島の南端部分がマカオの旧市街。そこから南に海を渡ってタイパ島、その先にコロアン島がある。実際にはタイパ島とコロアン島の間は1980年代から埋め立てが始まり、90年代末には地続きになった。その埋め立て地はコタイと呼ばれる新しい地区だ。だからマカオは北からマカオ半島、タイパ、コタイ、コロアンという4つの地域に分かれる。

マカオのGDPの約8割、政府歳入の8割以上は観光とカジノ産業が占める。中国への返還後にもカジノ産業は拡大し続けている。巨大なインテグレイテッド・リゾート(IR)が立ち並ぶのは、埋め立て地のコタイだ。マカオ全体で、2012年にはラスベガスの4倍以上の売り上げ(約375億米ドル)になったという。

庶民の市場「紅街市(レッドマーケット)」

「紅街市」(レッドマーケット)はマカオ半島の旧市街にある、古い建物が立ち並ぶごみごみとした印象の下町の台所だ。魚、肉、野菜と新鮮な食料品が並ぶ。乾物屋には干し鱈が並んでいた。ポルトガルの「バカリャウ」だ。塩につけて干した鱈をつかっ料理はポルトガルの伝統料理。マカオでもよく食べられている。

レッドマーケットの周りは屋台を中心とした市場が軒を連ね、やはり様々な食材を売る店がひしめき合う。鴨や鴨、鶏や豚の中華風のローストが色鮮やかに店先に吊るされているのはいかにも中華圏といった光景だ。亜熱帯気候ということもあって、立派なドリアンも売られていた。ちなみにドリアンが漢字で「金枕」と書かれるのだと初めて知った。

マカオで食べるポルトガル料理

マカオの南端、コロアンのビーチにある「Miramar」(ミラマー)は1986年にオープンしたポルトガル料理の人気店だ。香港に住む人たちがわざわざ訪れるほど、その料理には定評がある。

あさりのワイン蒸し、バカリャウを使ったコロッケ、シーフードのリゾットはいずれもポルトガルの代表料理だ。どれもポルトガルのオリジナルの味を大切にして料理されている。魚介についていえば、マカオではポルトガルよりも南の海のものを使うので、よりダイナミックに感じられる。

これが水につけて戻した、身の厚い干し鱈バカリャウのソテー。ヨーロッパの保存食として生まれたバカリャウ。本来、一年中新鮮なシーフードに恵まれた亜熱帯でわざわざ食べる必要はないのかもしれないが、一度塩につけて干からびた鱈を水につけてゆっくり戻したものには、生の鱈以上の旨味がたっぷりで、やはり旨さが激増している。

さてミラマーは、店内は大きな円卓もあって、中華風のインテリアだ。価格もリーズナブルで、雰囲気もカジュアル。ぜひ足を伸ばすべきポルトガル料理が旨い店の一つだ。

歴史的フュージョン料理、それがマカオの食文化だ

こちらはマカオ半島の旧市街、内港と呼ばれる港のそばのマカオ料理レストラン「Litoral」(リトラル)だ。100年以上前からのレシピを基にしているという家族経営の店で、伝統的な料理に定評がある。

マカオ料理の定番中の定番と言えば、次の3つの料理と言ってもいいかもしれない。

Baked Duck Rice(ダックライス)は、鴨肉と腸詰をフライパンで焼き、それを鴨から出た出汁に玉ねぎと香辛料加えてつけて、鍋に蒸した米を敷き、鴨肉と腸詰をのせ、また米、そしてカモ肉と腸詰というようにレイヤーにしたのちにオーブンで焼いたもの。ポルトガルのリゾット料理に似ていますが、腸詰を使うところが中華風だ。

African Chicken(アフリカンチキン)は、揚げた鶏肉をココナッツをたっぷり使ったカレーソースで煮込んだもの。1950年代にマカオでリタイアしたポルトガル人が始めたレストランで、南アフリカの「Piri piri」という料理を提供し始めたのが最初だと言われている。その味は日本人でも好きになる優しい辛さだ。

マカオの家庭料理の代表が「Minchi」(ミンチ)。豚、鶏、牛などのひき肉を炒めて、甘いしょうゆで味付けしたもので、角切りのフライドポテトと合わせ、炊いたご飯と目玉焼きと一緒に食べる。家庭によって味付けの具合はいろいろだそうだ。おいしさは見た目通り。これも日本人にはたまらない一品だ。

日本に帰ってミンチを作ってみた

日本に帰ってからミンチを作ってみた。豚と牛の合いびきに玉ねぎを、ラードで炒めて、醤油にニンニクと少しの砂糖で味付けする。フライドポテトは食感を大切にするために、あえてひき肉とは混ぜなかった。材料も手順も簡単。なるほどこれなら暑いマカオでも長時間火を使わずに、さっと調理できる。何度かつくるうちに、我が家の家庭の味に落ち着くのかもしれない。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/