変わりつつあるゴールデン・トライアングルとチェンマイのイーペン祭り

「微笑みの国」と呼ばれるタイ。インドシナ半島の根元からマレーシアへと続くビーチまで、南北に長い。その北部はラオス、ミャンマー、と国境を接して中国の雲南省も遠くない。

タイとラオスの間を流れるメコン川と、タイとミャンマーの間を流れるルアック川が合流するあたりは3つの国が接する自然豊かな場所で、「ゴールデン・トライアングル(黄金の三角地帯)」と呼ばれる人気の観光地となっている。ここはかつて19世紀に覚せい剤の原料となるケシの栽培が始まり、世界最大の麻薬密造地帯だった。今世紀に入ってからケシの栽培は取り締まられるようになり、特にタイ側で麻薬製造はなくなり治安も回復している。

タイ北部の古都チェンマイを訪ねたのは、2015年の秋。「イーペン」と呼ばれる祭りが盛り上がる頃だった。この時期、タイの各地では灯篭「クラトン」を川に流すロイクラトンという祭りが開催されるが、イーペンもその一つだ。夜になると光が灯されたいくつもの山車が、街を静かに進むパレードが美しい。川の女神への感謝の気持ちを捧げ、自らの魂を清める祭りだ。

古都であるチェンマイの旧市街は、壁と水路で守られている。寺院も多く、この時期はとくに長い時間祈りを捧げる人たちが多くみられる。街にはオレンジ色の袈裟を身に付けた僧侶が生活しており、ATMで現金を引き出したり、若い僧侶が集まって勉強をしていたりと、彼らの日常生活を垣間見ることができる。ある寺院に立ち寄ると、横になって寝ている仏陀の像があったり、托鉢に使う鉢がならんでいたりと、なんとものんきな雰囲気だ。

農家に教わる伝統料理「カオ・ソーイ」
唐辛子で作るカレー・ペースト

チェンマイの伝統料理のひとつが、「カオ・ソーイ」という麺料理だ。何気なく入った街の食堂で店員さんが勧めてくれて食べてみた。辛いスープに麺、そして揚げ麺もトッピングされて、ご飯もついてくる。近郊の農家で開かれた料理教室に参加して、作り方を教えてもらった。

簡単にまとめてしまえば、カオ・ソーイ用のペーストを作ってそれをベースにスープを作り、茹でた麺を入れて、揚げた麺やパクチー、紫の小玉ねぎをトッピングし、ライムを絞る、という手順。だが、なかなか時間がかかるのだった。

まずは、生の唐辛子からカレー・ペーストを作る。畑で採れる、赤、緑、黄色の唐辛子を使っていくつかのハーブを加え、石のすり鉢に入れ、延々と時間をかけてつぶし、ペースト状にする。唐辛子の色によって、レッド、グリーン、イエローのカレー・ペーストができる。

カオ・ソーイには、レッド・カレー・ペーストをベースに使う。赤唐辛子にコブミカンの皮、レモングラス、ターメリック、しょうがに似たガランガル、シャロット、にんにく、コリアンダーの実などをペーストになるまですり潰し、1時間近くかけてやっとカオ・ソーイのペーストが出来上がった。

ペーストを作るのにかなり時間を要したが、聞いてみれば最近はフードプロセッサーで作る人も多く、作ること自体をせずに、市場で売られているものを買い求める人も多いそうだ。ローカルな市場を覗いてみると、カレー・ペーストのための新鮮な材料も売られていれば、確かに味噌のように盛られたカレー・ペーストも売られていた。

カオ・ソーイは、近隣の国の影響を受けた料理だ。ペーストには、ミャンマーを通りインドから届いた乾燥スパイスをプラスする。これがタイ料理によく使うココナッツミルクと共にスープの味の決め手になる。麺は、インドシナ半島でよく食べられる米の麺ではなく、中国の中華麺を茹でたものと揚げたものを使う。国境が近い町だからこそ生まれた麺料理なのだ。

カオ・ソーイのレシピ

今回は市販されているレッド・カレー・ペーストを使ってカオ・ソーイを作るレシピを紹介する。

スープには顆粒の鶏がらスープ、レッド・カレー・ペースト、カレー粉、ココナツミルク、パームシュガーまたは砂糖、ナンプラーを使う。パームシュガーはヤシからとれる砂糖で、タイ料理で感じる濃厚な甘みがある。なければ黒糖など、味のしっかりした砂糖を使うとよい。

具は、鶏むね肉とむらさき玉ねぎとシンプル。揚げ焼きそばの麺は、パクチーと共にトッピングに使う。最後にライムを絞りカレー粉を振って香りを楽しむ。

材料:2人分

・顆粒鶏がらスープ  大さじ1
・水  400ml
・レッド・カレー・ペースト  大さじ2
・カレー粉  小さじ2
・ココナツミルク  250ml
・パームシュガーまたは砂糖  小さじ2
・ナンプラー  大さじ1
・むらさき玉ねぎ(スライス)  4個分
・鶏むね肉(2㎝程度に切る)  100g
・中華麺(ゆでておく)  2玉
・揚げ焼きそばの麺  1
・ライム  半分
・パクチー  1株

むらさき玉ねぎは水にさらしておく。

鶏むね肉は小さめの一口大に切っておく。

パクチーの根から茎、5㎝位はみじん切りにしておく。

1.鍋に鶏がらスープと水を沸騰させ、ココナツミルク50㏄とレッド・カレー・ベースを入れてよく混ぜる。パクチーの根の部分とすぐ上の茎の部分5㎝ほどをみじん切りにして加え、鶏むね肉を入れて火が通るまで煮る。

2.パームシュガーとナンプラーを入れてよく混ぜ、残りのココナツミルクを入れて沸騰したら、カレー粉小さじ1を入れ、30秒煮る。

3.小玉ねぎを入れて、30秒ほどですぐに火を止める。

4.1人分ずつ器に中華麺を入れ、3を入れたら、揚げ焼きそばの麺を乗せてパクチーを飾り、カレー粉小さじ1/2を振りライムを添える。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/