ヨーロッパの国々を回る旅なら鉄道での移動が楽しい。鉄道網は陸続きの各国の都市を結んで、便数も多い。寝台列車を使えば旅の一晩を移動に使うことができて、時間と宿泊費を節約できる。夜行列車は、長い距離ではない路線なら速度を上げればそれほど時間はかからず終着駅に着くのだろうが、あまりにも早朝に到着しても乗客は困ってしまう。そこで、列車は眠りを妨げないスピードで、たまに長い停車時間をとって進む。
今回は、東欧のハンガリー、スロバキア、チェコから中欧のオーストリアで出会ったパプリカを使った料理と、チキンパプリカのレシピを紹介する。
ハンガリー パプリカの米詰めとパンケーキ
ハンガリーの首都、ブダペストの国際列車のターミナルであるケレティ駅に降りると、ターミナルらしくプラットフォームが並ぶ。ここから先へは線路がない終着駅だ。ヨーロッパの主要駅は、それがロンドンやパリであっても、このように始点であり終着であるようなターミナルが多い。日本ではあまり見ないスタイルということもあってか、旅情がくすぐられる。
掲示板にはハンガリー国内、国外の都市へ向かう列車の予定が掲示されている。そういえば日本では外国のことを「海外」ということもあるが、陸続きに国境を挟んで国々が続く土地には当てはまらない言葉なのだと気が付く。
ハンガリーはパプリカの一大生産地で、「パプリカ」というのはハンガリー語なのだそうだ。写真はブタペスト中央市場の食堂の、パプリカに米と肉などと炊いたものを詰めてチーズをのせてオーブンで焼いた料理だ。これは日本でもよく見るパプリカ。もともとは南米原産のパプリカをヨーロッパに伝えたのはコロンブスだったと言われている。
一方、パプリカパウダーの原料となるのは細長いタイプのパプリカだ。これを多用する料理が東欧各地に多い。一見トマトを使ったような色合いだが、寒い土地にはトマトは不向きなのだ。そこでパプリカということになったのだろうか。
「ホルトバージ・パラチンタ」は、 小麦粉で作ったクレープ状の生地を焼き、ひき肉や玉ねぎの具をいためたものを巻いて、パプリカパウダーをベースにしたソースに入れオーブンで焼いたもの。パプリカパウダーには辛いものと辛くないものがあるが、どちらを使うかは好みだ。もっちりとした生地に具はしっかりと、少しスモーキーなパプリカのソースに絡めるとおいしい。さすが、パプリカの歴史的な産地の料理である。完成度が高い。
ブラチスラヴァはスロバキアの首都。その駅は一見どこにでもありそうな駅のように見えるのだが、労働を鼓舞する壁画が残っていたりしていかにも共産圏時代の建物といった趣が残っていてノスタルジックだ。
ヨーロッパの乗り物のもう一つの楽しみが、各都市の中を走るトラムだ。ブラティスラバを走るトラムはかなりレトロで色合いもかわいらしい。
昼時に町の中心のレストランに入って、一番スロバキアらしい料理はどれか尋ねて勧められたのが、チキン・パプリカ。チキンがパプリカベースのソースで煮込まれて、周りにあるのは小麦粉とじゃがいものイタリアのニョッキに似た「ハルシュキ」だ。合わせて食べると、もっちりとしたハルシュキに、チキンとチキンの味がプラスされたソースがいい。
ヨーロッパの古い列車だと、3列の座席が向かい合った個室が並ぶものもある。これがまた、昔のヨーロッパ映画で見たようで趣がある。車窓の景色を追いながら到着したのはウィーン。さらにそこからローカル線でトゥルンという田舎町へと向かった。
ウィーンで活躍し若くして亡くなった画家、エゴン・シーレは幼少の頃、父親が駅長を務めるこの駅舎の2階にすんでいたのだそう。それを訪ねたくて足を運んだのだが、ちょうど昼時に広場にあるレストランでおすすめを聞くとまたしてもチキンパプリカを進められた。やはりハルシュキが添えられていた。
レシピ:チキンパプリカとハルシュキ
今回は東欧と中央で勧められた気軽な料理、チキンパプリカとハルシュキを紹介したい。日本のどこでも手に入る食材で、出来上がりの姿から想像するよりも手がかからず簡単だ。
材料:2人分
<チキンパプリカ>
・鶏もも肉 1枚(400g前後)一口大に切る
・塩・コショウ 少々
・玉ねぎ 1個(みじん切り)
・パプリカ 大さじ1
・塩 小さじ1
・コショウ 一つまみ
・水 250㏄
・チキンコンソメ 顆粒 小さじ1
・サワークリーム 60ml
・オリーブオイル 大さじ1
・パセリ 大さじ2
<ハルシュキ>
・ジャガイモ 2個
・小麦粉 120g
・塩 少々
・たまご 1個
作り方:
<チキンパプリカ>
1. 鶏もも肉に、塩少々、コショウ少々を振っておく。
2. 鍋にオリーブオイルを入れて温め、玉ねぎを入れてうっすらとあめ色になるまで炒め、鍋から出しておく。
3. そのままの鍋に、鶏もも肉を皮目を下にして入れて焼き目をつけ全体に焼き目をつける。
4. 2のたまねぎを鍋に戻したら、水とパプリカ、チキンコンソメをいれて沸騰したら、15分煮て、塩・コショウで味を調える。
<ハルシュキ>
1. ジャガイモの皮をむいたら6つくらいに切って、小麦粉、卵、塩と共にフードプロセッサーに入れてペースト状にする。
ジャガイモからの水分に合わせて、小麦粉の量を調整しながらいれて、もったりした状態にする。
2. 水を沸騰させて塩を加えたら、2をフォークで小さく取りながらいれて、浮かび上がったらざるにあげる。
皿にチキンパプリカとハルシュキを盛り、サワークリームを載せて、パセリ、パプリカ(分量外)を振る。
ハルシュキはジャガイモと小麦粉なので、市販のニョッキに代えてもおいしくいただける。
—
All Photos by Atsushi Ishiguro
—
石黒アツシ
20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/