2018年に開港したイスタンブールの空の玄関、イスタンブール空港。夜明け前には世界各地から国際線の飛行機が到着して、また各地へと飛び立っていく巨大なハブ空港だ。東京からなら直行便で13時間。ここでヨーロッパ各国へ乗り換える客も多い。まさに東洋と西洋が出会う国際都市なのだ。
まだ眠い目をこすりながらバスに乗り込み、ヨーロッパ大陸側を南下してエジェアバトという港町へ。そこからフェリーでダーダネス海峡を渡り、アジア大陸側のチャナッカレへ向かう。ここから南の海岸線はエーゲ海に臨む。トロイ遺跡も近い。エーゲ海を挟んで西へ200㎞ほどでギリシャだ。
海峡を渡り、ヨーロッパからアジアへ
温暖なこの地域はトルコの中でも屈指のリゾート地だ。ビーチ沿いにはプールを備えたホテルが建っている。9月のこの頃でも海を楽しむ人たちがいた。翌日の朝早く海辺を散歩する。エーゲ海は波が静かで穏やかだ。ふんわりとした朝のひかりが美しい。
海を渡って南へ行けば地中海につながり、そこから東にはシリアやレバノン、イスラエル、そして南にはエジプトやアフリカ大陸の国々。西側のギリシャの向こうはイタリアなのだから交通の要衝なのだと実感する。
あらためてトルコの地図を眺めてみる。トルコの北側は黒海に面している。その黒海を囲むのは、旧ソビエト連合の国々、ロシア、ジョージア、ブルガリア、ルーマニア、モルドバ、そしてウクライナ。黒海から外海に出るには、まずはボスボラス海峡からマルマラ海に出る。このボスボラス海峡はイスタンブールの街を東西に分けていて、最も狭い幅が660mほどだ。マルマラ海を南へ進んで、ダーダネス海峡を抜けてエーゲ海に出る。トルコの中を通らせてもらっているといったルートなのだ。こんなに地政学的に重要な土地は他にはないだろう。
Köfte/キョフテはトルコの国民食ともいえるミートボール
ランチ時、エーゲ海を望むレストランのテラスでキョフテ(Köfte) を食べた。キョフテはトルコの国民食ともいわれていて、300以上のレシピがあるとも言われている。Köfteの意味は、今ではミートボール(肉団子)だが、その語源は肉を挽くとか捏ねるという動作を指すのだとか。
香辛料の香りがしてエキゾチックな味わい。固くもなく柔らかくもなく牛肉を使ったタネは適度な捏ね具合だ。青唐辛子、玉ねぎ、トマト、イタリアンパセリに、ポテトと炊いた米が付け合わせ。シンプルながらおいしい組み合わせだった。この店ではオーブンで焼くのだという。肉汁が閉じ込められていておいしい。
オスマン帝国と共に各地に広がったキョフテ
イスタンブールに戻って、老舗と言われているキョフテの店に出かけた。ここのキョフテは炭火で焼く。トマトと唐辛子のスパイシーなディップアジュルエズメといただく。こちらはラムで肉のうまみがしっかりとしており、炭の香ばしさが加わって、シンプルながら味わい深かった。
さて、キョフテの起源については諸説あるようだが、古くからペルシャで食されていたことは確かだ。中東、東欧、北アフリカの地中海沿岸、南アジアといった広い地域にキョフテ(または多少発音が異なる)この料理はあるのだが、それを広めたのはオスマン帝国だったともいわれている。キョフテが食されている国は、南アジアを除けば、オスマン帝国の支配が及んだ地域ということになる。古くから交通の要衝であったトルコ、西と東を結ぶトルコという歴史を思えば納得できる。
レシピ:Domates Soslu Köfte トマトソースのキョフテ
今回紹介するのはトマトソースのキョフテだ。煮込みハンバーグといった印象だが、スパイスのクミンがエキゾチック感をプラスする。
材料:
・パン粉 1カップ 荒いもの
・牛挽き肉 350g
・ニンニク 1個 潰しておく
・玉ねぎ 1/2 おろす
・タマゴ 1個
・クミン 小さじ1 粉
・パセリ 大さじ2 みじん切り
・塩・コショウ 少々
・小麦粉 少々
・オリーブオイル 大さじ1
・ライス
<トマトソース>
・トマト缶詰 1カット
・トマトペースト 大さじ1
・砂糖 小さじ1/2
・塩・コショウ 少々
・水 100㏄
作り方:
1. ボールに牛ひき肉、ニンニク、玉ねぎ、を入れてよく混ぜ、パン粉を加えて更に混ぜ、タマゴ、クミン、パセリを入れて、塩・胡椒を少々入れてまた混ぜる。
2. 1を俵型に成形して上下をかるくつぶし、小麦粉をまぶす。
3. フライパンにオリーブオイルを熱し、2を並べて表面を焼いて、キッチンペーパーにあげておく。
4. 同じフライパンのまま、トマトとトマトペーストを入れて5分ほど中火にかけトマトが柔らかくなったらし、砂糖、塩・コショウを入れて味を調え、水を加えて沸騰させる。
5. キョフテを戻して蓋をして、弱火で1時間煮込む。
6. ライスとともに、皿に盛り付ける。
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All Photos by Atsushi Ishiguro
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石黒アツシ
20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/