ソフィア空港から地下鉄に乗って30分ほど、中心部のセルディカ駅で降りて地上に出た。初夏のブルガリアは気持ちよく晴れ渡り暖かい。すぐそばには聖ソフィアの塔が建っていた。このソフィア像は、かつてレーニンの記念碑があった場所に2001年に作られたのだ。共和党政権が倒れた1989年から12年後このことだった。頭には冠を乗せ、手に月桂冠のリースを持ち、フクロウが羽を広げてとまっている。それぞれ、権力、名声、英知を意味しているそうだ。

ソフィアの中心部は歩いて回れる距離に多くの歴史的建造物や庭園が点在する。その中でも特に異色なのは3つの宗教、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教の教会、(それぞれシナゴーグ、モスク、チャーチ)が目と鼻の先にあることだ。今回は3つの宗教と、ブルガリアの伝統的なスープ「レシュタ」のレシピを紹介する。

ソフィアの歴史と3つの宗教

バーニャ・バシ・ジャーミイはイスラム教のモスク。ソフィアに暮らす750万人のうち、約1割がトルコ人だ。オスマントルコ帝国がこの地を支配したのは14世紀の終わり。それから500年近くの間、イスラム教をはじめとするトルコ文化の影響を受けた。

ユダヤ教のソフィア・シナゴーグも、夜のライトアップに映えていた。第2次世界大戦下では、ドイツと同盟国でありながらもホロコーストに抵抗しユダヤ人を守り、そして彼らの多くがパレスチナへと移っていったという。

ブルガリアは7世紀までは東ローマ帝国領だったが、その後第一次ブルガリア帝国が成立した。しかし11世紀にはまた東ローマ帝国領となり、12世紀末に再び独立。第二次ブルガリア帝国はオスマン帝国の支配下になる14世紀の終わりまで続いた。その間、東方正教会が広まり、今ではブルガリア正教会の教徒が人口の80%を超える。ブルガリア全土、そして特にソフィアにも、ブルガリア正教会の教会が多くある。

そのブルガリア総主教の本拠地がアレクサンドル・ネフスキー大聖堂だ。完成したのは1912年。壮大で荘厳な建築はソフィアのシンボルの一つでもある。

Cathedral Saint Aleksandar Nevski / 東方正教会

長い歴史の中で、人々が行き交い、支配の体制も変わり続け、ソフィアには様々な文化が影響を与えてきたのだ。世界中で多様性と言われる最近だが、ここにはそのモデルがあるように思われる。

社会主義時代の遺構も残る街並み

夜になれば、聖ソフィアは黄金色に輝いていた。そのソフィアが見つめる先にあるのが国会議事堂だ。旧ソビエト連邦時代に建てられたこのソビエト様式の建物は、共産国だったころは共産党本部だった。ソ連がブルガリアに侵攻したのは1944年。その後ブルガリア人民共和国としてソ連の衛星国家になったが、1989年に共産党政権は崩壊して現在のブルガリア共和国となった。2007年にはEUに加盟している。

美しく整備された街並みの遠く向こうには、ヴィトシャ山が見える。山に見守られるような市内の移動には2路線の地下鉄と、張り巡らされたメトロが便利だ。

街中にはソ連時代の建物も残る。社会主義各国で走っていたチェコスロバキアの自動車「シュコーダ」もまだ現役のようだ。ソフィアにはクラブやライブハウスも多く、若者の文化にも寛容なようで、自由な雰囲気が町のビルボードにも感じられる。

ブルガリアのレンティルのスープ「レシュタ」

今回紹介するレシピは、ブルガリアの国民的スープ「レシュタ」だ。ソフィアのスープショップに立ち寄った際に、店先に並ぶスープの中で一番伝統的なものがどれかと聞いてみると、即答してくれたのがこのレンティルのスープだった。

様々な野菜と共に、レンティル=レンズマメを煮込む。ベースはトマト。シンプルだが、ほっとさせられるスープだ。

材料:4人分

・レンティル(皮なし)  60g 軽く洗ってざるに上げる
・ニンジン  1/2本 3㎜位のダイスに切る
・セロリ  10㎝ 薄切りにする
・キャベツ  3枚 1.5㎝ 四方位に切る
・ジャガイモ  1個 1㎝位のダイスに切る
・にんにく  1かけ みじん切りにする
・トマトペースト  大さじ1
・トマト缶(400g)  1/2缶 ハサミで細かく切っておく
・固形野菜スープ  1個 なければチキンスープで
・塩  小さじ2
・パセリ  適量 細かく切っておく
・黒こしょう  適量
・水  適量
・ひまわりオイル  小さじ1 植物油でも

作り方:

1.  鍋にひまわりオイルを入れて温めたら、にんじん、セロリ、キャベツ、じゃがいも、にんにくを入れて、キャベツがくったりする程度に軽く炒める。

2.  レンティル、トマトペースト、トマト缶、にんにくを入れて、水をひたひたになるまで入れて、その1.5倍くらいになるまでさらに水を入れたら、固形野菜スープを入れて蓋をして沸騰させ、レンティルが柔らかくなるまで煮込む。

3.  塩・こしょうで味を調えたら、器に盛り、パセリを振る。

少しほっこりとした味で、野菜もたくさんとれる。ひまわりオイルは東ヨーロッパではよく使われる。オリーブが育たないためともいわれているようだ。ブルガリアのひまわり油の生産量は32万トン近い。一位はウクライナで440万トンを超える。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/