パレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区を旅したのは、3年前の年末のことだった。エルサレムから車で向かうと、緑の畑が広がる様子に驚いた。ヨルダン川沿岸のこの地域は、冬でも温暖で降水量も多く潤っている。ヨルダン渓谷の土地は肥沃で、農業も盛んなのだ。異なる宗教による対立が顕著な地域ではあるが、それを忘れさせるように豊かな土地なのだった。

今回は鶏肉と米を大鍋で炊く「カブサ」を紹介する。カブサはアラブの各国で広く食べられる料理で、パレスチナ自治区でも同様だ。アラブで米料理というのも意外ではあるが、たとえばアンマンの市場の屋台でもこの料理が大鍋で作られていたのだから、当たり前に食べられているのだ。

ベツレヘム キリスト生誕の場所に立つ教会へ

ベツレヘムは、イスラエルの都市エルサレムからほんの10㎞ほど南に位置する。活気に満ちた街の中心に、イエス・キリストの生誕の地と言われる「生誕教会」が建っている。

教会の中に入って目を奪われる荘厳な装飾も美しいのだが、ここで見るべきはキリストが生まれたという洞窟だ。キリストは馬小屋で生まれたと言われるが、実際には洞窟であったとも信じられており、その洞窟の上に建てられたのがこの生誕教会なのである。

地下室は、イエス・キリストが生まれた場所で祈りをささげようという人たちでいっぱいだった。薄暗い階段を下りていくと、それほど広くない空間がある。その一角にキリストが生まれた洞窟を見下ろせる穴が開いていた。穴を覗くものは、みな腰を折り、膝をつき、頭を垂れるのだ。

日本人の多くは仏教徒ではあるが、イエス・キリストのことは多かれ少なかれ子供のころから知っているだろう。昔話のような、おとぎ話のような感覚かもしれない。しかし、ベツレヘムにこうして来てみると、本当に存在した人物だったのだとあらためて驚かされる。

キリストが悪魔から誘惑を受けたという「誘惑の山」

ベツレヘムから北東へ50㎞ほどにある「エリコ」という町へ移動した。ヨルダン川にほど近く、緑豊かな土地だ。ここにあるのがイエス・キリストが悪魔から誘惑を受けたという「誘惑の山」だ。悪魔の誘惑にイエス・キリストが試された場所と聖書にしるされており、その山の中腹には「誘惑の修道院」がある。

イエス・キリストは、このような土地に生まれ生きたのだとあらためて思い知らされる。より実感をもって、その存在が重く感じられた。一方、山を登るケーブルカーは圧倒的にのんびりとしていて、見渡す限りの土地は豊かですがすがしい。

ビジターセンターに立ち寄り、ビュッフェ式の料理で昼食にした。ひよこ豆をボールにして揚げたファラフェルや、色彩豊かな野菜、そして米と一緒に調理した料理も皿に取った。これが自分にとって最初の「カブサ」になった。

スパイスで香り良く炊く鶏と米:「カブサ」のレシピ

カブサは、アラブ各国でそれぞれ自国の料理だと信じて食べられているようで、特別な食事というよりは、自宅でもよく食べる料理らしい。基本の材料はシンプルで、鶏肉と米とトマトにスパイス。そこに作り手によってアレンジが加わる。今回はジャガイモと玉ねぎも炊き込み、彩りよくラディッシュを飾る。

材料:4人分
・水 300ml
・鶏肉 もも肉1枚、ドラム4本 もも肉は4つに切る
・植物油 大さじ1
・じゃがいも 1個 150g(小サイズ) ダイスに切る
・玉ねぎ 1/2個 100g(小サイズ) 粗みじん切り
・シナモンパウダー 2つまみ
・クローブ パウダー小さじ1/4 または3個
・カルダモン 小さじ1/4
・コリアンダー 小さじ1/4
・プチトマト 8個
・トマトペースト 大さじ1
・チキンコンソメスープ顆粒 小さじ1
・塩 小さじ1
・米 1.5合
・黒こしょう 適量
・ラディッシュ 1個 葉はとりわけ、薄切りにする

一緒に煮込むスパイスは、4種類だけ。量も少ないが、これでしっかりとアラブらしい味に仕上がる。

作り方:

1. 鶏肉は、塩を振り(二つまみ位)おいておく。

2. フライパンを火にかけ、植物油を温めて鶏肉の表面にカリッと焼き色がつくまで焼き、取り出す。

3. そのままのフライパンに、玉ねぎとジャガイモを入れ、玉ねぎが透明に薄く色づくまで炒める。

4. スパイス、トマト、トマトペースト、チキンコンソメを加え、合わせながら香りが立つまで2分ほど火を入れる。

5. 米を加えて全体に混ぜたら、鶏肉をのせる。強火にかけて沸騰したら、蓋をして弱火で水分がなくなるまで20分程炊く。水分がほぼなくなったら蓋を開けて、2分ほどそのまま火にかけるとうっすらとおこげができる。火を止め蓋をして10分蒸らす。

6. 黒こしょうを振り、ラディッシュを飾る。

今回使用した鍋は、大きめのすき焼き鍋だ。サイズもちょうどいいし、熱の蓄えがしっかりしていてよく炊けた。

材料を下準備して、火にかけてしまえは30分ほどで完成する簡単さだ。日本で手に入る調味料で作れるので、ぜひトライしてほしい。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/