ベトナムの首都ハノイは温帯に属していて、2月は冬の終わり。気温は昼でも10度台と意外な涼しさだ。日本の冬が乾燥しているのとは異なり、霧雨が降ったり霧が立ち込めて、しっとりとしている。ハノイの旧市街には古い建物が多く残っている。狭い通りには街路樹が植えられ、どこも風情がある。その中心には、1周するのに30分もかからない小さなホアンキエム湖があって、人々が集う。

薄曇りの朝から昼にかけて、ぼんやりとした湿気の多い街を歩き、その雰囲気を写真に収めた。

ベトナムの主食の一つはコメの麺で、様々なスープと具材で朝から晩まで楽しめる。米麺を使ったヌードル・スープ(汁麺)のバリエーションについては以前紹介したが、今回は米麺を2種類の豚肉のBBQと一緒につけ麺にする「ブン・チャー」と、魚の油鍋に合わせる「チャー・カー」の2つを取り上げたいと思う。

オバマ前アメリカ大統領が訪れたブン・チャーの店

2016年、当時の現役大統領オバマ氏が訪れたのが、ホアンキエム湖の南の地区にある「Bún chả Hương Liên(ブン・チャー・フォン・リエン)」だ。ニュースにもなったので覚えている人もいるかもしれない。「オバマ氏がベトナムでフォーを食べた」と伝えたメディアもあったが、実際に食べたのは「ブン」という麺。生春巻きのように薄く平べったく作った米粉の麺を8㎜程度の幅に切ったものがフォーで、ブンはところてんのように突き出してつくる断面が丸い麺だ。

ブン・チャー・フォン・リエンは、間口が4メートルだが奥行きがあって2階もあり、テーブルと椅子が並んでいる。タイル張りの白い壁は清潔な印象で、天井には大型の扇風機が吊るされていた。ちょうどお昼時を少し過ぎた時間でさほど込み合ってはいなかったが、次々と客が入って来てはまた出ていくという調子で活気がある。

メニューを見るとオバマ氏の写真と共に「コンボ・オバマ」というメニューが目立っている。

オバマ氏も食べた麺料理と春巻きをいただく

ブン・チャとネム・ハイ・サンにハノイビール1本がセットになったものでがコンボ・オバマで、実際にオバマ大統領が食べたメニューだそうだ。違うのはビールがボトルだったこと。オバマ・コンボは缶で提供される。

ブン・チャは、豚肉をつくね状にしたものと、薄くカットしたものを炭火で焼き、ニョクマム、ライムジュース、砂糖と唐辛子をベースにしたつけ汁に入れる。ベトナムの大葉、レタス、パクチーと共に、茹でてある細いブンの麺を、そのつけ汁につけながら食べる。

焼かれた肉には甘辛い下味がついていて、食べているうちにスープにコクが浸み出てくる。ハーブからの香りは爽やかで、すっきりとした気分になる。ブンのつるっとした喉ごしがいい。好みでにんにくと唐辛子を入れながら、味の変化を楽しみつつ食べ進めた。

ネム・ハイ・サンは、豚肉と野菜を合わせて練った具と、蟹と海老肉を重ねたものをライスペーパーにくるんで揚げたもの。サイズは長さ10cm直径6㎝位あるので、ボリュームたっぷりだ。しっかりとした下味がついていて、そのままいただく。パリッとした皮にジューシーな豚肉と野菜の合わさった具、そこに更にシーフードのテクスチャと旨味が加わって、なんとも贅沢な春巻きの一種である。これはすっきりとした飲み口のハノイ・ビールによく合う。

いずれも日本のベトナムレストランでも食べることができる場合があるので、見つけたらぜひ試してみて欲しい。

Bún chả Hương Liên

夕方から夜へと活気のある旧市街を歩く

ハノイの旧市街は朝から晩まで活気にあふれている。街頭でいくつかの床屋を見かけたし、モノを売る人たちも多くて、屋外が楽しいのだ。夜になると、歩道に出した小さなテーブルと椅子に座って、談笑しながら食事をする人たちがそこかしこに。それらの日常が、なんだかとても可愛らしい。

残念ながらコロナの影響で開催されていないが、夜になれば毎夜マーケットが開かれて、多くの人が集まるのだという。

「油鍋」とはいえヘルシーな魚とブンとたっぷりの野菜

もう一つ、ハノイならではのブンの料理が「チャー・カ」だ。「ハノイ名物の油鍋」などと紹介されていることもあるので、グラグラと煮えたぎる油の中に具材を入れるようなものを想像していたのだが、実際にはかなりヘルシーな料理であった。

チャー・カーのセンモンテン、「Chả Cá Thăng Long(チャー・カー・サン・ロン)」に出かけた。ここもハノイの他の大半の店と同様に、間口が狭く奥行きがある。テーブルが並び、忙しそうにウェイターたちが立ち働いていた。

材料を運んでくれたウェイターが、目の前で調理してくれる。ターメリックに漬けてから、あらかじめ炭火でほんのりと焼いた白身の川魚を、炭の入ったコンロの上に乗せたアルミのフライパンにたっぷり目の油をひいて焼く。表面がカリッとしてきたら、ねぎとディルを加えてしんなりとするまで火を通す。

茹でてあるブンの麺を椀に取り、その上にフライパンから具を乗せ、その上に、ピーナッツに、ねぎ、パクチーとミントをトッピング。ここでもベトナムの万能ソース、ヌク・チャムをかけていただく。

香ばしく揚がった魚とディルとねぎの香りがよく合う。「油鍋」とは名ばかりで、実際にはそれほどの油は使わないのだ。そして、新鮮な生のハーブと野菜が爽やかな旨味を加えて、複雑な旨さに混じりあう。

ブンが入っている椀におかずを乗せていくというのは、まるで白米を飯椀にいれて、おかずを取って載せるといった感覚で面白い。

Chả Cá Thăng Long

日本に帰ってチャー・カーを作ってみた

チャー・カーを日本で作ってみた。材料はどこでも手に入りやすい。本来はナマズや雷魚を使うのだが鱈をつかうことにした。やっぱり味の決め手はハーブ類とヌク・チャム。レシピを書いたので、トライしてみて欲しい。

チャー・カーのレシピ

All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/