アメリカという国は捉えどころがない。マゼランがその大地を発見(あくまでも西欧からの視点だが)してから、様々な国から移民が渡り「人種のるつぼ」と言われたるつぼの中で溶けて一つになるのではなく、様々な食材がその形をとどめたまま混ぜ合わせられるサラダのように、特徴の異なる人々が一つの場所に共存する社会だというのだ。

大手ハンバーガーチェーン、飲料メーカーなど、アメリカ全土で広く受け入れられ成功した食産業は世界各国に進出し成功している。異なる文化的背景をもつ人たちが暮らすアメリカ国内で、どのような人にも受け入れられやすい画一化した食事が生まれ、それがアメリカ人たちの起源である国々に輸出されていったのだ。まずはアメリカ国内で異なる民族が受け入れた食事が、それぞれの民族の起源の国で成功したのは必然であるようにも思われる。

さて、そのようなグローバライズされてきたアメリカの食が世界に拡大してきた一方で、アメリカ国内には各地に固有の料理というものがあるのだろうか。中華のデリバリーも、タコスの店に寿司屋も、ピザ屋にハイエンドなフレンチも、アメリカの都市ならどこにでもあるが、「アメリカ南部料理」といえば一つの地域性のある料理のジャンルと言えるだろう。

ハーレムに響くゴスペルとジャズ

真夏のニューヨークを3週間かけて食べ歩いたのは2016年ことだった。ニューヨークの気候は東京と似ていて、晴れた夏に動き回れば気温と湿度の高さにはぐったりとさせられる。午後の陽ざしが陰りだす頃に、ハーレムに出かけた。ハーレムには南部からやって来た人々が移り住んだ場所として知られる。

べセル・ゴスペル・アッセンブリーはハーレムのコミュニティのための教会で、週末には人々が集まりゴスペルが披露される。土曜日の夕方、建物に入ると残念ながらゴスペルが聞けるのは日曜日の朝なのだと、案内の人が教えてくれた。ホールはひっそりとして、夏の明るい光が窓から差し込んで厳かな雰囲気だった。ここがゴスペルの響きで溢れるのだと思うとワクワクしてくる。

さて、8月の終わりには、マーカス・ガーウェイ・パークの野外ステージでは、8月の後半に開催されるチャーリー・パーカー ジャズフェスティバルの演奏が数日間に渡って盛り上がる。

昨年生誕100周年を迎えたチャーリー・バーカーは1955年に35歳で亡くなるまで、多くの名演奏を残したジャズ・サキソフォニストのレジェンドだ。ニューヨークのシティ・パークス・ファンデーションがチャーリー・パーカーの名前を冠した、完全に無料で楽しめるこのフェスティバルを最初に開催したのは1993年のことだった。それから毎年開催され続けている。

ゴスペルでも歌われる黒人霊歌をボーカリストが歌いだすと、客席のオーディエンスの多くが立ち上がって歌い始めた。それもそれぞれが対旋律でハーモニーを醸し出し、海上が一体となって空へと響いていく。ステージも、客席も一つになって、迫力があるグルーブが渦巻いた。

元人気モデルが営む南部料理の店へ

日が暮れ始めるまでジャズを楽しんだ後、マルコム・エックス・ブルバードをセントラルパークまで歩いて、そばにある南部料理の店「ミス・マミーズ・スプーン・ブレッド・トゥ」に入った。この店は1970年代にVougなどのファッション誌を飾ったモデル、ノーマ・ジーン・ダーデンが腕を振るう店だ。シンプルで清潔感溢れる店内は彼女の思い出の写真も飾られて、静かで落ち着く。出される南部料理は、彼女の妹がレシピ本を出版したほどの本格派で、クリントン元大統領も訪れたことがあるという。

この店で特に食べたかったのがルイジアナ名物の「ガンボ」だ。シーフード、肉などを煮込んだ料理で、小麦粉とオクラのとろみが独特な家庭料理だ。店に入ってオーダーしたが、「残念だけどもうないかも」と言われたものの「大丈夫、一人分ならできますよ」とキッチンに確認してくれて一安心。トウモロコシ粉を使ったコーンブレッド、シーフードガンボ、フライドチキンにアップルパイまで、これぞ南部料理という自慢のラインナップで注文した。

どの料理も、ダイナミックながらほっこりさせられる。コーンブレッドは優しくふっくらと、シーフードたっぷりのガンボはいかにも鍋から注いできたばかりの熱々で、しっかりとした味が付いたジューシーなチキンをカリッとした衣がつつむフライドチキンはダイナミックでかぶりつくのが楽しい。飾り気のない素朴な見かけのアップルパイは、シナモンが効いてしっかり甘く、これぞデザートといった満足感がある。

そうして日本に帰ってからも、たまにガンボを作るようになった。特にトマトの風味とシーフードの旨味が濃厚なものが好みだ。少し手が込んだレシピだが、その分おいしいので試していただければと思う。

レシピ|ルイジアナのシーフードとソーセージのガンボ

材料:2人分

・エビ 中10尾
・塩・こしょう 各一つまみ
・乾燥タイム 小さじ1/2
・ニンニク 2かけをみじん切り
・オリーブオイル 大さじ1
・玉ねぎ 1/2個 (8mmくらいの角切り)
・ピーマン 1個(8㎜位の角切り)
・セロリ 薄切りにして大さじ2
・小麦粉 大さじ2
・トマトペースト 大さじ2
・カイエンヌペッパー 少々
・ケイジャンパウダー 小さじ1/2
(タコシーズニングでもOK)
・トマト缶(ダイス切り) 1/2
・スモークソーセージ 160g 1センチ幅に切る
・チキンスープ 2カップ
(顆粒のものを使って指示に従った量で作る)
・オクラ 4本(8㎜幅に切る)
・青ネギ 大さじ1

作り方:

1. エビの殻をむいたら(殻は取っておく)、かたくり粉(分量外)を振って揉み、汚れが出たら水で流し水けを切り、ボールに入れて塩・コショウ、タイムと小さじ1/2分のニンニクをも揉みこんでおく。
2. エビの殻にトマトペーストをまんべんなく塗って、フライパンにのせて中火にかけ、香りが出てきたら弱火にして、表面が乾いてくるまで乾煎りしする。(多少焦げても漉すので大丈夫)。そこにスープ2カップを入れて10分煮込んだら、ザルで濾す。

3. オリーブオイルを中火で温め、玉ねぎ、ピーマン、セロリを加えて炒める。全体にしんなりしたら弱火にして、小麦粉を入れてよく混ぜて、全体に粉がなじむまで炒める。カイエンヌペッパー、ケイジャンパウダーと、残りのニンニクを入れて、1分炒めたら、トマト缶を入れて、さらにソーセージを加えて火を通す。
4. 2を加えて、具がひたひたになるように水(分量外)も加えて、沸騰させたら弱火にして、とろみがつくまで煮込む。塩コショウで味を調える。
5. 輪切りにしたオクラを入れて、柔らかくなればエビを加えて2分ほど煮る。皿に盛ったら青ネギを散らす。

炊いた米にもパンにもよく合う。辛いものが好きならカイエンヌペッパーは多めにしてもいいだろう。味の決め手は炒めて取るエビの殻とトマトの旨味だ。せっかくだからソーセージは燻製が効いた太目のものがいい。一年を通して楽しめる。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/