薄くのばした肉を揚げてカツレツにした料理は「シュニッツェル」と呼ばれ、オーストリア、ドイツ、ポーランドなど東ヨーロッパではポピュラーだ。オーストリアでは特に、「ウィンナー・シュニッツェル」と呼ばれる。

料理名に地名をつけるということは、特にその土地の伝統に培われた独特の食材と調理法を知らしめることを目的にする場合と、他にも似たものがあるからあえて地名をつけておこうという場合と、あるいはその両方の場合があるように思われる。果たしてウィンナー・シュニッツェルの場合はどうなのだろう。

居酒屋のように比較的リーズナブルな料金設定のバーでも、比較的庶民的な食堂と言ったレストランでも定番メニューのウィンナー・シュニッツェル。家庭で作られることも多いという。実際食材は手に入りやすく、調理法もシンプルだ。今回はウィーンの老舗レストラン「フィルグミュラー」のシュニッツェルをオマージュしたレシピを紹介したい。

薄くのばして揚げる理由

薄くのばした肉を「ウィンナー・シュニッツェル」たらしめるものは一体何かと言えば、それほど堅苦しい決まりはないようだ。薄くのばした肉に衣をつけて揚げた料理。肉は仔牛でも豚肉、鶏肉でもいい。

ウィーン中心部の博物館・美術館が並ぶミュージアムクォーターからすぐそば、クラッシックなウィーン料理をモダンな雰囲気の中で楽しめる「Glacis Beisl」でウィンナー・シュニッツェルを食べることにした。

大きめの皿に2枚のシュニッツェルがのり、半月型に切られたレモンが添えられている。圧倒的にシンプルなプレゼンテーションである。そしてなんとなく貧相にも見える、飾り気のない皿だ。衣にはかなり細かいパン粉を使っていて、表面には派手さはなく、これもなんとなく心もとないのである。

しかしそれは見た目だけのことだった。

シュニッツェルを一口大に切って口に運ぶと、香ばしい衣のさっくりとした歯触りに続いて、口の中に仔牛の香りが広がる。衣が淡白な肉質を補うようでもあり、かえって仔牛の旨さを引き立てているようでもある。なるほど、これは繊細だ。厚切りの肉をわしわしと噛むようなワイルドさとは全く異なり、とても軽やかなのである。クラッシック音楽なら荘厳なシンフォニーではなく、軽やかなワルツと言った印象なのだ。「なぜ肉を薄くするのか」と考えてみた。見た目を大きくして、目にもおなか一杯になるからではないのかといった現実的な答えがあるのかと思ったがそれはどうも違うようだ。ただ単に「こうするとおいしい」ということなのだと気づかされる。

シュニッツェルのバリエーション

手前がバースペースで、奥がレストランというしつらえの「Alt Wiener Gaststätte Beim Czaak」という店に、遅めのランチを求めて入ってみた。早い時間からご婦人たちがちょっと飲みながら何やら話し込んでいる様子。

ここのシュニッツェルは、アスパラガスに乗せられた、鶏肉のシュニッツェル。仔牛のものと比べると、更に軽い印象で外を歩き回る日のランチにちょうどいい。バルサミコをベースにしたソースも爽やかだ。

1884年に発行されたレシピ本に、初めて「ウィンナー・シュニッツェル」という名称が使われた。ちょうどフランツ・ヨーゼフ1世の時代だ。この料理は、1857年に北イタリアのオーストリア帝国領であるロンバルディアからウィーンに伝わったと言われている。現在のロンバルディア州はミラノが州都であるということは、あのイタリア料理「ミラノ風カツレツ/コトレッタ」がウィーンにもたらされたのだ。しかし、そのたった2年後にはイタリア統一戦争に敗北してロンバルディアを失った。そして料理の名称は「ウィンナー・シュニッツェル」に。オーストリア帝国の意地のようなものが感じられる。

中央ヨーロッパの広い地域で食される

ポーランドのクラコフで入ったポーランド料理店「Chopskie Jadlo」にもシュニッツェルがあった。名前は「コトレット・スハボヴィ」というから、「ロース肉のカツレツ」だ。肉はやはり薄くのばされている。

中央ヨーロッパではシュニッツェルはどこでも食べられているようで、ドイツでもシュニッツェルという名前でポピュラーなメニューの一つだという。フランスでは「コートレット」という。そして、日本のカツレツは、明治時代にフランスからやってきた。浅草などではやはり肉を薄くのばした「カミカツ」があるから、イタリアからフランス経由で日本にやってきたことになる。

レシピ:ウィンナー・シュニッツェル

ウィーンの老舗「Figlmüller」のウィンナ・シュニッツェル(写真上)はそのサイズに驚かされる。とはいえ肉は薄く、普通に食欲があるなら食べ切ることは難しくない。使う調味料は塩だけでこしょうも使わないようだ。今回はこのシンプルなシュニッツェルを手本にしてみよう。肉は豚のロース肉を使う。

材料:二人分 (上の写真の肉は一人分)

・豚ロース肉 200~250g 2枚
・パン粉 1カップ
・小麦粉 1カップ
・たまご 1個
・塩 1/2
・レモン 1個
・植物油 適量

<strong>作り方:
1. 豚ロース肉を肉たたきで4㎜の薄さまで伸ばす。

まず、ロース肉を2枚に開く。

ラップに挟んで、肉たたきで中央から外側へと叩いて広げていく。引くタタキがなければ空き瓶でも良い。

2. 塩全体に振り、下味をつける。
3. 2の豚肉の両面全体に小麦粉をしっかりつけて、卵を溶いたバットの中に入れて両面を浸し、さらにもう一つのバットに入れたパン粉の上において全体につける。

4. フライパンに植物油を入れて180度に熱し、3を入れて3分揚げて、ひっくり返してさらに2分程度、きつね色になるまで揚げる。

5. 皿に乗せ、くし形に切ったレモンや、好みの野菜を添える。

今回は約4㎜、このくらいの薄さになった。

パンにはさんでシュニッツエルサンドにすれば一気に食べやすくなる。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/