南北に長い社会主義の仏教国

ベトナムは南北に1665㎞と、日本のように縦に長い国土だ。本州が南北に1500㎞だから、その大きさはイメージしやすい。北部は亜熱帯性気候で四季があり、南部は熱帯モンスーン気候で雨季と乾季がある。ベトナムの中部に位置するホイアンは、古くから交易で栄えた港町で、「ホイアンの古い町並み」は、ユネスコの世界文化遺産に登録されている。日本からの直行便があるビーチリゾート、ダナンに最寄りの国際空港があり、そこから乗り合いバスに乗って40分ほどで、独特な黄色に彩られた「黄色の街」とも呼ばれる古都に到着した。

オールドシティに建ち並ぶ、多くの木造家屋の壁は落ち着いた黄色に塗られている。ホイアンは日本との関係も古く、1600年代には規模の大きな日本人街があったという。「来遠橋」は日本橋ともいわれる木造の屋根付橋で、当時日本人が作った趣のある姿は、今でも人気の観光ポイントの一つになっている。

ベトナムの体勢は共産党独裁だが、1986年に市場経済を導入し対外開放化も進んできた。日本経済との関係も深い。最大多数の宗教は仏教。ベトナムは日本と同じ大乗仏教で、小乗仏教のインドシナ半島の他の国々で見られる托鉢をする僧侶の姿はない。

アンソニー・ボーディンも納得のバインミー

アンソニー・ボーディンは、ニューヨーク出身のシェフであり、作家であり、世界の食べ物を紹介するテレビ番組のホストで、日本でも放送された番組の一つ「アンソニー世界を食らう」では、世界のリアルな地元料理を食べ歩いた。彼が特に好んだ国の一つがベトナムで、ホイアンにもおすすめの店がある。

ホイアンの食品市場の少し北にあるのが、Bánh Mì Phượng(バインミー フーン)という名のバインミー専門店。古い民家にある間口5mほどの小さな店だ。朝食に出かけてみると、既に大勢の客たちで賑わっていた。

「バインミー」はフランス人が伝えたパンに、葉野菜やハーブ、大根、にんじん、ハムや肉、レバーパテなどを挟んだサンドウィッチ。パンはバゲットと同じ見た目だが、それほど硬くなく、皮は薄くぱりぱりと食べやすい。ここの具の中でもバーベキューポークのものは一番人気で、しっかりと焼き目が付いたものと、塊肉で焼かれたジューシーな肉の厚めのスライスが惜しげもなく挟まれている。チキンもしっとりと旨そうに焼けているし、オムレツも挟んでくれて、バリエーションは16種類。魚醤、ニョクマムをベースに、砂糖、チリ、酢を合わせた「ヌクチャム」というソースが爽やかさをプラスする。店頭には様々な具材が並び、注文をすれば目の前ですぐに作ってくれる。地元の人たちはテイクアウト、旅行客は奥のテーブルで食べる人が多い。

何より肉が旨いのだ。都市部では簡単にハムを挟んでいる店が多いが、ここは朝から「ごちそう感」が半端ないのである。これを食べておけば一日動けるなといったボリュームと満足感が、3000ドン(約150円)と嬉しい。

Bánh Mì Phượng(バインミー フーン)

市場の食堂街でホイアン名物のカオラウ

オールドタウンは広くはないので、徒歩でゆっくり散歩するにはちょうどいい。中華系の影響を受けた寺院や、古い商家など、エキゾチックな建物が魅力的だ。古い町並みの南側にはトゥボン川が流れていて、河畔の風景も美しい。

ホイアン市場は、オールドタウンの中心にある。建物は大きな体育館ほどのホール。外の川沿いにも生鮮食品が売られている。ホールの半分は、50近い屋台が並ぶ食堂街だ。(フードコートと呼ぶには、あまりにもローカルな雰囲気がありすぎる)。その中にある「Ms Hoa」(ミズ ホア)という店で、ホイアン名物の麺料理「カオラウ」を食べることにして、カウンターのベンチに腰を下ろした。目の前のケースには食材が並び、女性が手際よく作ってくれる。バインミーもそうだが、下ごしらえが準備されているので、あとは盛り合わせて調味料を加えていくだけだから、カオラウはすぐに目の前に置かれた。

ベトナムの麺料理と言えば、柔らかい米の麺であるフォーが一番知られているが、カオラウの麺、材料も同じく米。断面は四角くうどんほどの太さでしっかりとしたコシがある。具はチャーシューに、豚の皮を揚げたものとレタス。チリとチリソースで辛さは好みで調整する。豚ベースの魚醤を合わせたスープは汁なし麺ほどの量だ。シンプルながら、麺の食感がいい。

ホイアン市場

路上でおやつにバインベオとバインボロック

オールドタウンの通りは比較的狭く、バイクや自転車の往来はあるものの、自動車はあまり入ってこない。そんなのんびりとした街の歩道に出ている屋台で、なにやら可愛らしく、おいしそうなものが売られている。周りにはベトナム特有の小さなプラスチック製の赤い椅子に囲まれ、真ん中で何やら作っているのだ。他の人が食べているものを見ながら、頼んでみた。葉を編んだお盆にのせてくれて、それを空いてる赤い椅子の上に乗せれば、テーブルになる。

直径4㎝程の浅い皿に入っているのは、米粉の粉を入れて蒸したもので、茶色のほうは砂糖入り、白いほうはプレーンで、そこに海老を煮詰めてとったソースをかけ、豚肉の皮を揚げたものと揚げ玉ねぎを乗せてくれる。ヌクチャムはお好みの量を自分で。つるつるとした食感は名古屋のういろうに似ている。若い女性客は、一人で6つ食べていたが、一つの量はほんの少しなので、それぞれが食べる量を調節出来て便利だ。

バインボロックは、タピオカ粉で作った皮に海老と玉ねぎ、入れて蒸したもので、ハムを数種類、揚げ玉ねぎを乗せてヌクチャムを掛けて、チャイブを振れば出来上がり。こちらはさらにつるつるとしている。ハムの塩気と動物性の油がほんのり全体に回って、小さいながらも「一食」といった完成度だ。

バインベオは1個5000ドンで25円もしない。バインボロックは30,000ドンで140円ほど。

バーンバックは別名ホワイトローズ

トゥボン川は、この辺りの川幅が30mほど。夜になれば、その両岸にランタンの炎を灯したレストランに人が集まってくる。観光客が乗るボートは川面を行き交って、夢のような光景だ。嬉しいのは、おかしなBGMがないこと。静かに話す人たちの声、ボートのオールが水をかく音などが耳に入ってきて気持ちがいい。Restaurant 27 の2階のテラスに座った。

ホイアンで食べるべきものの中でも、Bánh Vạc(バーンバック)は特に独特だ。米粉の生地を丸くのばして中央部に寄せながら豚肉の具を包んだもので、ひとつひとつが花のように見えるという。これも蒸したものを、ヌクチャムで。夜、橋を渡った南側の河畔のレストランで、のんびりいただいた。

茹で鶏を使うチキンライスはベトナムのどこでもポピュラーだが、Com Ga Hoi An(コム ガー ホイアン)はここならではの一品。粗めの千切りにした青パパイヤが独特で、鶏の茹で汁で炊いたご飯と、しっかりとした肉質のチキンとのコンビネーションがいい。ベトナム中部から北部まででよく使われるハーブがミント。爽やかな香りがプラスされるので、味に変化が出て面白い。

旅行客向けの店とはいえ、ホワイトローズは79,000ドン(370円ほど)、チキンライスも同じ値段とリーズナブルだった。

Restaurant 27 

ナイトマーケットの俵おにぎりはスィーツだった

川の南側の通りでは毎晩ナイトマーケットで盛り上がる。立ち並ぶ夜店の一つで、緑色の葉に包まれた俵型のおにぎりが並んでいる。何か聞いてみるとスィーツだという。オーダーすると網の上で焼き始めた。焼き色がついたくらいで火からおろし、皿にのせて切り、ココナッツをシュレッドしたもの、ピーナッツ、砂糖、練乳をたっぷりとかける。このおにぎり、中にはバナナが入っていた。甘いご飯というとちょっとどうかと思われるかもしれないが、おはぎを思い出してほしい。甘いご飯もおいしい。しかしながら、おなかがいっぱいになることも確かだ。夜遅めに、一人で食べるのにはたっぷりすぎる量かもしれない。10,000ドンで50円ほど。

昔から残る街並みは、邪魔になるビルなどもなく穏やかな風景で、静かな水面を行き交うボートに、うつりこむランタンの光。訪れる人たちもなんだかのんびりと優しく、妙な躍動感などはなくて心が休まる。ダナンの開放的な太陽の下のビーチリゾートから少し離れて、ふっと気を抜きに足を運ぶのもいいだろう。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/