ご存知の通りベトナムは社会主義国だが、なんだかあっけらかんとしていて全く重苦しさが感じられないのである。南北に長く東西に細い国土の真ん中あたりにある、古都フエを訪れて、郊外の農村をバイクで回るツアーに参加してみた。街の中心を出ればすぐに田園や畑が広がり、小川では男たちが魚を取り、小さな市場では賑やかに買い物をする女性たちがいた。

先進国の生活レベルと比較すればベトナムのそれは低いとする人もいるだろうが、皆がお互いを知る小さなコミュニティの中で、物質的な豊かさはなくとも毎日新鮮な食料を得て、すぐそばにいる顔がわかる隣人に必要とされる仕事をしているだろう人たちを見ていると、とても安らいだ気分になる。とは言え、旅人にはわからない苦労もあるのだろうが、確かに日本の都市部にはない、マネージャブルなリアル・コミュニティが魅力的なのだ。東京や世界の大都会に生活するということは、人間がストレスなく消化できる量をはるかに超えた情報を相手にしながら生きることなのだと気づいた。

ベトナムのフエ郊外にある農村へ

フエの市街地からバイクに乗ってほんの15分ほど、車がやっとすれ違えるほどのローカルな道にはいる。両側には農地が広がり、住宅、寺院、商店などが点在する。通りに向かって野菜や果物を売る店で、様々な商品を並べた台の奥に座る年配の女性にカメラを向けると、曇りのないすっきりとした笑顔をくれた。見慣れない赤い果物は何かと身振り手振りで尋ねると、一つ食べろとやはり手ぶりで言う。食べてみればりんごだった。決していい形ではないリンゴだが、みずみずしくていかにもリンゴという味でおいしい。

農道と並行して用水路には、日本では見かけたことのない網を仕掛ける男たちがいた。1本の竹の垂直に立て、その先単に3本の長い竹の中央部を括って両端を下へとしならせた、大きな網が括りつけられている。見た感じは、強風に骨が外れた傘を逆さにした様な形状で、その網の部分を川に沈めておき、しばらくすると引き上げる。

しばらく眺めてみた。あげられた網の中には数匹の魚がかかっていて、それを網から外せば、また網を川へと沈める。呑気なようだが、確実に魚は獲れているようで、どうもそれ以上の豊漁などは求めていない様子だ。

小さな市場があった。屋根だけがある吹きさらしの建物だが、寒さが厳しくなることがないこの土地の気候に適しているのだろう。近隣から持ち込まれた新鮮な野菜や果物、魚、肉、豆腐や豆乳などが売られている。

例えばここに並ぶ肉だが、生産地からの距離が短かく、購入後にすぐ調理するのならば冷蔵する必要なないのだと気づく。先進国の都市部では、畜産の地から売られて処理をされて卸売され、遠く離れた小売りのバックヤードでパッケージにされて売られる現代的な流通が当たり前だが、ここではもっとシンプルで無駄のない流通があるのだ。

市場に集まるのはほぼ女性ばかり。一家の台所を切り盛りするお母さんたちがほとんどだろう。市場と通りを挟んだ小屋の様な建物は床屋だった。男性がちょうど剃刀を当てられているところで、なんとも呑気だ。

ベトナムのクレープと言われるバインセオ

参加したツアーには料理の体験も含まれていて、バインセオを自分で作った。バインセオはベトナムのクレープと言われることもあるようだが、薄い生地にひき肉、もやしなどの野菜、海老を具にしてフライパンで焼くので韓国のチジミにも似ている。

使う粉は米粉だ。ベトナム料理には小麦粉よりも米粉のほうが一般出来で、例えば麺ならフォーがそうであるし、生春巻きの皮も米粉から作る。ちなみにフォーは生春巻きの皮のように薄くのばしたものを麺の幅に切ったものだ。

フライパンで焼くバインセオは、米粉のおかげでしっとりというよりはカリッとした仕上がりになる。黄色い色を見て卵を入れるのかと思ったら、カレーにも使うターメリック(ウコン)を混ぜるからだった。

今回はこのバインセオのレシピを紹介する。

レシピ:ベトナムのバインセオ/ Banh Xeo

バインセオは、フライパンで肉やエビなどの具を焼き、そこに米粉ベースのターメリックを入れた黄色い生地を流して丸く焼き、もやしを乗せてから二つに折って作る。

つけダレはベトナム料理には欠かせないたれヌクチャム。ベトナムの魚醤であるニョクマム、ライムジュース、米酢、砂糖、にんにく、唐辛子を常温で混ぜたもので、小さな蓋つきのボトルなどで作っておいておけば後日サラダなどにも使える。

ベトナムでよく食べられていて、日本でも手に入るハーブを付け合わせる。ベトナム北部では大葉がよく使われている。日本のものと見た目も同じで味や香りも変わらない。他のインドシナ半島の国々ではあまり使われないミントもベトナム料理にはよく使われる。

材料さえそろえば所要時間は20分ほどで、気楽に作れる。

材料:
・バインセオ 2枚分
・米粉 40g
・薄力粉 15g
・ターメリック 小さじ1/2
・ココナツミルク 70ml
・水 140㏄
・塩 一つまみ
・万能ねぎ 1本 1.5㎝の長さに切っておく
・えび 80g 頭無し
・豚ひき肉 50g
・玉ねぎ 中1/6個 薄切り
・もやし 80g
・グリーンピース 大さじ1
・ミント 適量
・パクチー 適量
・大葉 適量

・ヌクチャム
・ニョクマム 大さじ3
・ライムジュース 100ml
・米酢 小さじ1
・砂糖 カップ1/2
・にんにく 2かけ みじん切り
・唐辛子 1本 みじん切り

作り方:
1. ヌクチャムの材料を全て混ぜておく。
2. 米粉、薄力粉、ターメリック、水、塩、をボールに入れてよく混ぜ、万能ねぎを加えるたらココナッツミルクを加える。

3. フライパンを中火にかけて植物油を温め、玉ねぎ、豚肉、えび(全て半量)を入れて、海老が色づくまで炒める。

4. 1の生地の半量を入れて、フライパン全体に広げ弱火にして、もやしとグリンピースを乗せふたをして3分焼く。

5. ふたを取り、生地がパリッとしたら、半分に折り皿に盛る

6. 洗っておいたミント、パクチー、大葉を盛る。

• フライパンは26㎝のものを使った。生地は薄めに仕上がる。
• 一人分の分量はそれほど多くなく、おやつと言った軽さになる。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/