「マカオがポルトガル領だったのは、西暦1557年から1999年までの452年間」と、あらためて確認してみるとその長さに驚かされる。ポルトガル人が種子島にやってきて日本に鉄砲を伝来したのが1549年だから、なるほどと今度は納得させられる。

以前、ポルトガル料理と中華料理の融合から生まれた世界でもマカオにしかない料理について書いたが、今回はマカオの街を歩いて朝・昼・晩と食べた、またまた独特なローカルフードフードと、前回軽く触れたマカオのご家庭の定番料理と言われる「ミンチー」の簡単なレシピを紹介する。

マカオの朝食を60年代から続くカフェで

「地元の人たちの朝ごはんを体験したいなら行ってみたらいいよ」と、地元の人に教えてもらって出かけたのが「南屏雅敘(Café Nam Ping)」だ。集合遺産「マカオ歴史市街地区」の25の歴史的建造物・広場の一つ「聖アントニオ教会」から歩いてほんの5分の古いビルの1階にある。

入り口脇には新聞や雑誌を売る露店が出ていて、朝の情報収集には重宝してきただろう。ウィンドウでは焼き立てのパンをテイクアウトできる。ガラスのドアを開けて入ると、なんとも下町と言った雰囲気で賑わっていた。

カウンターには焼き立てのパンが並び、買い求める客が後を絶たない。それにしても、内観も什器もレトロで和まされる。この店がオープンしたのは1960年代だそうだから、もう60年は経っているのだ。

メニューに「三文治」と書かれていた。ポルトガル語と英語が併記されているので、それがサンドウィッチだと分かる。挟む具の種類はいろいろあって、焼き豚とハムとオムレツを挟んだのが「南屏三文治」だ。

厚めにスライスしたパンに分厚いオムレツ、その真ん中に中華系の焼き豚と西欧のハムが挟まれて、見た目にボリュームがあるものの、全体がふんわりとしていてそうでもない。温かくてほっとするおいしさだ。そういえば中華系の食では冷たいものを食べないというから、サンドウィッチも暖かいものが好まれるのだろう。

そしてせっかくなのでもう一品頼もうとメニューを見ると、「出前一丁」と書かれた料理のリストが並んでいる。英語では「Macaroni」と表記されている。焼き豚やチキン、ハム、魚のつみれなどが具になるらしい。周りを見回してみると、サンドウィッチや焼き立てパンとコーヒーという客ばかりで、麺類を食べている人はいないが、せっかくなので「辣魚」、スパイスの効いた鰯のバージョンをオーダーしてみた。

マカオでは、十数種類の異なるスープの出前一丁があるというが、これは麻辣バージョンらしくピリリと辛い。そこにドーンと乗った鰯は、缶詰から出したままの姿で、唐辛子系の辛さがあるオリーブに漬けられていたもののようだ。

味はまったく想像通り。がっかりもない代わりにビックリもないのだが、これがカフェメニューだということは驚きだ。そういえば缶詰と言えばポルトガルでも特産品で、マカオの食料品店にも土産物屋にも様々な食材のものが並んでいた。ということは、これはポルトガルと日本がマカオで出会った料理ということになるのかもしれない。

マカオの「猪排包」はポルトガルの「ビファーナ」か!?

さて、朝食をしっかりとって旧市街を散策してから、美味しくて人気だと聞いていた「ポークチョップ・バン」、ポークチョップを挟んだパンの店へ出かけた。残念ながらこの店は開店前で食べれなかったので、こちらもおいしいと評判の「新武二廣福潮美食」で食べることにした。

漢字では「猪排包」書くこの料理、食べていると思いだしたのはポルトガルのリスボンで食べたビファーナだ。同じような丸いパンに豚肉を挟んだものだ。違いは猪排包は肉を焼いているが、ビファーナは煮こんでいること。猪排包も少なからずポルトガルの影響があったに違いない。

夕食は娼館が並んでいたという福隆新街でミンチーを

港へと続く坂道のひとつ「福隆新街」は、昔は娼館が並んでいた通りで、古くから営業する中華料理店も多く並んでいる。敷居が高そうな雰囲気のある店もあるが、かなり庶民的な店もあり、様々だ。

薬膳茶を売る店もあって、体内の熱を取り除くという「五花茶」をいただいた。苦みもあるがしっかり甘みもつけてくれていて意外に飲みやすい。

日が暮れると、しっとりとした雰囲気になる。「老地方」というマカオのお母さんの味が人気だという店に入った。

前菜に何かを食べようと店員に相談してみたら、鱈のコロッケ「馬介休球」がいいという。運ばれてくるとこれはまさにポルトガルの干しだら「バカリャウ」のコロッケ「Bolinhos de bacalhau」だ。鱈の旨味を感じながら、ホクホクとおいしい。

メインには「免治(ミンチー)」をオーダーした。牛肉と豚肉のひき肉をシンプルに炒めて、揚げたジャガイモとご飯と一緒に盛ったワンプレート料理で、簡単にすぐ出来るということで、どこの家庭でも作られるのだという。これは全く、子供が喜びそうな料理だ。味付けはそれぞれの家庭で少しづつ違うというから、これはまさに「お母さんの味」ということになるのだろう。もちろん「お父さんの味」という場合も。

マカオのご家庭の定番!ミンチーのレシピ

日本ならどこでも手に入る材料で作れるミンチー。フライパン一つで出来るので簡単だ。牛と豚のそぼろご飯といったイメージで、気軽に作れるのがいい。

材料(二人分):
・合いびき肉 250g
・砂糖 小さじ1/2
・醤油 小さじ1
・大さじ1
・コーンスターチ 小さじ1/2
・にんにく 1かけ みじん切り
・玉ねぎ 1/2個 みじん切り
・ラードまたは植物油 大さじ1
・じゃがいも小 2個(合計200g程度) 8mmの角切り
・たまご 2個
・塩・胡椒 少々
・白米 1合分を炊いておく

作り方:
1. 合いびき肉に、醤油小さじ1、砂糖、コーンスターチをまぶしておく。
2. じゃがいもを180℃の油で色よく揚げておく。
3. 目玉焼きを作っておく。
4. フライパンにラード(油)を入れて温めて、にんにくを焦げないように炒める。
5. 2を強めの中火にして、合いびき肉を入れて、ほぐしながら表面の色が変わる程度に炒める。

6. 玉ねぎを入れて中火にし蓋をして、焦げないようにたまに混ぜながら全体に火を通したら、醤油大さじ1をまわしかけ、塩・胡椒で味を整えて火を止める。

7. 皿に白米を盛り、2のジャガイモ、6のミンチを乗せ、目玉焼きを乗せる。

ミンチーの量は多めなので、保存して食べてもいい。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/