北欧は、スウェーデン、デンマーク、ノルウェイ、フィンランド、アイスランドの5カ国だが、このうちそのアイスランド以外を訪れたことがある。スウェーデンのストックホルムのイメージは、他の3カ国の首都と比較すると、「ワイワイと賑やかで圧倒的に明るい」という印象だった。街は活気にあふれていて、旧市街は観光地として賑わっているし、観光客慣れした人々は、フレンドリーで屈託がない。

見ごたえのある建築物が点在

ストックホルムには必見の建築物が多い。ストックホルム市立図書館は、20世紀スェーデンの名建築家グンナール・アスプルンドの作品だ。円形に配置された多階層の書架に並ぶ書籍が、中央のホールの高い天井のデザインと照明の柔らかい光に照らされて、何かを知りたいと集まる人たちを、優しく受け入れてしっぽりと包んでくれるような印象だ。

また、ノーベル賞の晩餐会が開催されることで有名なストックホルム市庁舎の中でも必見なのは黄金の間だ。金箔をはったモザイクが煌びやかで、奥の壁の中央にはスェーデンのメーラン湖の女王が描かれている。この部屋ではノーベル賞のティーパーティーが開催される。それにしても煌びやかだ。建築家ラグナル・エストべりが設計し完成したのが1923年というから、比較的新しい建造物といえる。(ちなみに、日本の金閣寺は1397年に建立された)

さて、ストックホルムの街の中を移動すると橋が多いことに驚く。調べてみると、市には14もの小島があり、運河は市の面積の30%もあるそうだ。あらためて地図を見れば、ここはバルト海にもほど近い複雑に入り組んだ入り江なのだと気が付く。ここから海へと乗り出していったバイキングの歴史がある国なのだ。

ストックホルムへヘルシンキからフェリーで

ストックホルムには、フィンランドのヘルシンキから大型フェリーに乗って一晩かけて到着した。(実はそれほど距離がないので、夜中には停船して時間稼ぎをするのだそうだ。)バルト海沿岸の国々を行き来するのはフェリーが安くて便利だ。ロシアのサンクトペテルブルクも、エストニアやリトアニアまでも航路がある。

フェリーのデッキでビールを飲みながらバルト海沿岸の景色(このフェリーは大海原に出たというわけではなく、沿岸を進むと言った航路であった)を眺めていると、中世の人々は「海の向こうに住む、誰か違う文化の人たちに会ってみたいな」と思っていたんじゃないかと想像させられる。

さて、船内のブッフェはかなり豪華でダイナミックだった。北の海の海産物よりも、何しろ目を引くのは種類もボリュームも多い肉料理だった。そしてみんなよく食べる。日本でブッフェは「バイキング」と呼ばれたりもするが、これは日本独特な表現で、高度成長期に帝国ホテルが使い始めたのだそうだ。

スェーデンに来たらこれを食べるべき!という家庭料理

図書館から歩いてすぐの場所にあり、旨いスェーデン料理と定評がある「Cafe Tranan」に出かけた。Trananは「鶴」という意味だ。この辺りは市街地の北部に位置し、住宅地が始まるあたりで観光客はそれほど多くなく、テラス席のあるオープンな空間にもテーブルが並び、地元の人たちで賑わっていた。

ウェイターに、この店で一番スウェーデンらしい食べ物は何かと聞いてみると、「ミートボールやアンチョビ入りのジャガイモ料理なら有名だしどこの店にもあるから、Biff Rydberg(ビフ・ライドバーグ)がいいんじゃないかな。牛肉のステーキみたいなものだけど」というので、迷わずオーダーしてみた。

Biff Rydbergは、19世紀後半にストックホルムで一番と言われたホテル「Rydberg」で考案されたものだという。もともとは、残り物の肉をジャガイモ、玉ねぎと炒めた「Pyttipanna(ピッティパンナ)」という料理だったが、それをアレンジして上等な肉を使い、素材それぞれを別々に調理し、皿の上に混ざらないように盛り付けてハイレベル料理に仕立て上げ、「Biff Rydberg」と名付けたという。そして、ホテルの顧客に人気になった。

もともと伝統的に家庭でも食べられていた料理という違いこそあれ、PyttipnnaもBiff Rydbergも、材料と作り方を調べみればほぼ変わりはない。今回はこの料理のレシピを紹介する。

食後に、同じウェイターにおいしいと伝え、どうやって味付けをしているのかと聞いてみると「うちではウスターソースを使うんだよ」と教えてくれた。調べてみると、ほとんどBeff Rydbergのレシピの材料に確かにウスタースースが並んでいる。なるほど、多くの種類の食材を使うことなくウスターソースでコクと旨味が出せるなら、家庭でも作りやすいはずだ。

レシピ:ビーフ・ライドバーグはある意味サイコロステーキ

今回のレシピ作成で使用したのはイギリスの「Lea&Perrings」のウスターソースだが、もちろん国産のものを使用して作っても同じようなおいしさになる。

Cafe Trananではホースラディッシュを細かく切ったものを添えていたが日本では手に入りにくいので割愛。マスタードクリームは粒マスタードを使う。マスタードクリームと卵黄をつけながら食べる。

材料:2人分
・牛肉サーロイン 350g 1.5㎝位のダイスにカット
・ジャガイモ(中) 2個 1.5㎝位のダイスにカット
・玉ねぎ 1個 粗みじん
・バター 40g
・塩・コショウ 適量
・パセリ 適量 みじん切り
・ウスターソース 大さじ1
・卵黄 2

<マスタードクリーム>

・粒マスタード 大さじ1
・クリーム 50㏄
・蜂蜜 小さじ1

作り方:
1. 牛肉に塩・コショウで下味をつける。
2. マスタードクリームの材料を、ホイッパーでもったりとするまで混ぜ、冷蔵庫に入れておく。

3. フライパンを中火で温めバター20gを溶かしたら弱火にして、ジャガイモを入れ、軟らかくなって表面に焼き目がつくまで焼き、取り出す。

4. バター20gを同じフライパンで温め、玉ねぎを入れて塩少々を振り、透明になるまで弱火で炒め、取り出す。

5. そのままフライパンを中火で温めたら牛肉を入れて、ミディアムレアに火を通す。ウスターソースを回しかけて1分ほど炒めて、蓋をして5分寝かせる。

6. 皿に、牛肉、じゃがいも、玉ねぎを、それぞれ混ざらないように盛り付ける。

調理のコツ:
• 牛肉の下味はしっかり目につけておく。
• ジャガイモはゆっくりと弱火から中火で火を入れ。バターの味をしっかりと含ませ、やわらかくなったら中火で表面にしっかりと焼き色を受ける。
• 取り出したじゃがいもと玉ねぎは、冷めないようにアルミホイルをかけるなどして火のそばに置いておく。

それぞれの材料を別々に調理するのは少し面倒だが、食べる時にはそれぞれのテクスチャーが感じられる。卵黄とマスタードソースが牛肉にもじゃがいもにも合う。玉ねぎも加えてまた別のソースになるのが面白い。


Beef Rydberg (Biff Rydberg)

All photos and recipe by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/