仏教国で社会主義国、そして内陸国であるラオスを訪れたのは数年前の4月のこと。ラオスの正月「ビーマイラオ」の頃だった。ラオスでは西暦と陰暦の正月も合わせて3回の正月がある。このビーマイラオはその他の年中行事を含めても一年で最も大切にされていて、ラオス全土で新しい年を祝うのだそうだ。

ラオスの正月ビーマイラオの托鉢

首都ビエンチャンから北へ400㎞、ルアンパバーンはその旧市街が世界遺産に登録されている。古くからの街並みには人々の生活があり、点在する寺院には敬虔な仏教徒の祈りが息づいている。

ラオスに住む人々の多くは上座部仏教徒なので、早朝には修行僧たちが托鉢のために歩く姿がみられる。(日本もそうだが、大乗仏教では托鉢はしない。)特にこの時期には王宮に多くの街の人々と修行僧が集まり、盛大に托鉢が行われる。まだ明けたばかりの朝焼けの空から指す光が、僧侶たちがまとう鮮やかなオレンジ色の袈裟を鮮やかに浮き立たせ、だんだんと朝の日が眩しくなってくる。数百人が集まっているが、声を上げる者もなく穏やかだ。

熱狂の水かけ祭りで一年の幸せを祈る

元旦から3日間、広い通りにはトラックが連なって、荷台に積んだ水桶から沿道に入る人たちに水をかける。沿道にいる人同士も水をかけあい、狭い裏通りに入っても、大人も子供も互いに水をかけあうのが水かけ祭りだ。

一年で一番暑い時期だから水に濡れることは何の問題でもない。もともとは仏像や年長者の健康を願って水を掛けるという習慣だったが、今ではプラスチック製の水鉄砲で、だれかれ構わず水をかける大騒ぎになった。

水かけ祭りには特にルールがあるわけでもなく、ただただ無邪気に水を掛けあう。そして、夕方5時頃になれば、通りにいたみんなはそれぞれの家に帰っていく。遅くまで騒いだり、妙に無茶をしたり、羽目を外すようなことはないのである。

新鮮な食材が並ぶ市場

旧市街にある市場に出かけてみると豊かな食材が並んでいた。内陸国であるから売られている魚は淡水のものだ。辛い料理も多いので数種類の生の唐辛子も並ぶ。粉にした唐辛子は、辛みのためのものと風味を足すものといった特徴があるものが売られていた。肉類は近隣の生産地から持ち込まれているので新鮮だ。

露店が並ぶ市場の一角にテーブルを出す食堂があった。米の麺をスープに入れ肉みそをかけた辛い麺料理「カオソーイ」が人気のようだ。肉とハーブを炒めた料理「ラープ」を蒸したもち米とたべる客もいる。

一般的な家庭の台所は家の軒下にあることが多く、炭を使って火を起こしている。鍋に湯を沸かして、植物の葉で編んだ籠でもち米を蒸す姿をよく見る。ラオスではもち米が主流だ。

夜になって、街の食堂でラープを食べた。新鮮なハーブをたっぷり使って豚肉を炒めた温かいサラダのようなものかと想像していたが、その味わいが深いので驚いた。今回はラープのレシピを紹介する。

レシピ:ラオスのフレッシュハーブと豚肉の炒め物「ラープ」

一年を通して暑いラオス。新鮮な野菜、ハーブ類はいつでも手に入る。この料理ではいわゆる出汁、魚介系も肉系も一切使わなのだが、生のハーブ類とライムのおかげで奥深い味わいに仕上がる。

ラオスでは、料理にナムパーという魚醤が使われるが、これはタイやベトナムで製造されたもの。ラオス特有のものにはパーデークと呼ばれるものがあるが、タイのナンプラーやベトナムのニョクマムとは異なり淡水魚を使う。今回は日本で手に入りやすいナンプラーを使う。

使うハーブは、パクチー、ミントとバジルだが、下に記載した量は目安なので、増減はあっても構わない。ライムジュースは生のライムから絞っても、ライムジュースとして売られている無糖のものを使ってもよい。

材料:2人前
豚のひき肉 200g
たまねぎ 1/4個分
万能ねぎ 2本
パクチー 一株
ミントの葉 1カップ
バジル 1カップ
唐辛子の輪切り 小さじ1
かたくり粉 大さじ1
砂糖 小さじⅠ/2
ナンプラー 小さじ2
ライムジュース 大さじ2
植物油 大さじ1
もち米 1合

作り方:(所要時間20分)
1.たまねぎは薄切りにする。パクチーは最後に生で使う葉先を4つくらいとっておき、根の部分はみじん切り、後はざく切りにしておく。もち米は通常の米と同様に炊いておく。
2.フライパンを中火にかけ、植物油を入れて熱し、豚ひき肉とパクチーの根をいれて火を通す。

3.かたくり粉、唐辛子の輪切り、砂糖、ナンプラー、ライムジュースを加えて、軽く炒め合わせる。

4.玉ねぎ、万能ねぎ、パクチー、ミントの葉1/2カップを加えて、さっと混ぜ合わせる。

5.皿に盛って、ミントの葉の残り1/2カップ、スイートバジル、とっておいたパクチーの葉先を飾る。

もち米を炊いたものは「カオニャオ」と呼ばれる。上の写真でもち米を入れているのはティップカオという籠で、食堂などでは一人にひとつ運ばれてくる。

一口分のカオニャオを手に取り小さく丸めて、その上下を潰してラームの具をのせて食べる。もちもちとした食感のもち米に、香り豊かなラームがよく合う。豚肉以外に、鶏肉、牛肉、魚などでも作られる。

ひき肉にたっぷりのフレッシュなハーブとライムに、魚醤のクセのある香りがアクセントになって爽やかでありながらコクがあり、日本では祭事食ともいえるもち米も嬉しい。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/