東アフリカ・ケニアの首都ナイロビは5〜6年前から定期的に訪れているが、半年もしくは1年というそう長くはない期間のなかでも変化を感じることができる都市だ。今年6月19日、ナイロビのウェストランズ(Westlands)地区に新しい食のスポットがオープンした。ウェストランズは、ナイロビのダウンタウンに隣接した新しいオフィス街であると同時に、レストランやバー、ショッピングモール、ホテルなどが集中し、地元の若者や海外からの訪問者・駐在員に人気があるエリアである。そのウェストランズの一角に、今回オープンしたのが『ナイロビ・ストリート・キッチン(Nairobi Street Kitchen:NSK)』という名のフードコートだ。

世界のグルメを気軽に楽しむ場所

ナイロビ・ストリート・キッチンという名前から、ケニアの地元料理を扱った少しハイエンドの屋台街のようなものを想像していたが、NSKで展開しているのは多国籍フードだ。NSKは現在11のコンセプトが展開している。ハンバーガーやピザといった定番フードのほかに、ポルトガル、インド、メキシコ、東南アジア、日本といった多国籍フード、加えて、デザート専門店、カフェ・ラウンジ、複数のバーが展開している。見た目は多数のベンダーが展開しているように見えるが、実際は11すべてのコンセプトを一つのベンダーが手がけている。

展開している食のコンセプトは多国籍だが、NSK全体のコンセプトはナイロビというグローバル都市の、クリエイティブでエネルギー溢れる空気感や特徴を捉えた空間となっている。2階建ての構造のどちらの階にも広いテラス空間が設けられ、天候に左右されない屋内でありながらも開放感が十分に感じられる。いくつかのコンセプトは車両やトラックを改造したフードトラックで、テラスからつながる屋外部分に設置されている。また、屋内空間にもコンテナやビンテージ車両が点在し、さまざまな素材感が感じられるアップサイクルが内装のテーマになっている。エントランスホールの壁面には古いドアや窓枠が敷き詰められていたり、バーカウンターには古いカセットセープが敷き詰められていたり、バスルームのシンクには塗装されたドラム缶が使われていたりと、思わず写真を撮りたくなるような仕掛けが施されている。

さらに、いくつかの壁面はギャラリー・スペースとなっており、地元のアーティストが手がける絵やグラフィック・デザインで彩られている。訪問者が、地元のアーティストの作品を目にしたり、入手したりするきっかけを作るのが狙い。展開アーティスト名や連絡先などを簡単に知ることができるようなしくみがあるともっと良さそうだ。NSKの敷地内には、メイド・イン・ケニアの雑貨を販売するコンセプト・ショップも併設されている。

若者による、若者のための場所

NSKコンセプトの仕掛け人は、アリッサ・ポパット(Alyssa Popat)とアルヤナ・ポパット(Alyana Popat)の姉妹。事業を手がけるのは、ポパット一族のシンバ・コーポレーション(Simba Corporation)だ。姉妹の父親、アディル・ポパット(Adil Popat)がCEOを務める同社は、自動車ディーラー事業、高級ホテル展開などのホスピタリティー事業、ファイナンス事業、貿易事業を展開するケニア有数のコングロマリット企業である。アリッサは、ニューヨークのパーソンズ美術大学(Parsons School of Design)で建築学科を卒業。アルヤナは、欧米の大学でビジネスとホスピタリティを専攻したのち、父親の会社のホスピタリティ事業のマネージャーとしての経験を持つ。彼女は、ケニアでポルトガル・ワインを輸入展開するUVA Winesの創業経営者でもある。

強力なビジネス母体が背後にあるNSKだが、その構想から実現までには4年もの歳月を要したという。当然パンデミックの影響も受けたようだ。パンデミックで多くのレストランが打撃を受けた一方で、フード・デリバリーは大きく成長した。現在NSKのウェブサイトは準備中だが、今後デリバリーにも対応する予定のようだ。

NSKは、欧米の主要都市などに存在する、カジュアルだが洗練されたフードコートのコンセプトをナイロビに持ち込むという、消費者に対する新しい価値の提供だけでなく、ケニアの若者に新しい機会を提供する場でもある。NSKで働くのはすべて18歳から32歳の若者たち。NSKはトレーニング・センターのような場所だとアリッサはいう。アジアン・スタイルの手延べ麺を作るなど、一からスキルを身につけた若者が、次のステップに進むためのロンチパッドとしての役割を果たすという意図があるようだ。同時に、NSKはクリエイターたちが彼らの作品を展開するためのプラットフォームでもある。前述のギャラリー・ウォールでは、ケニアのクリエイターたちの作品が紹介されている。NSKでは音楽イベントも展開されるようだ。

ウェストランドには、多様な食と音楽といった「カルチャー」の展開をコンセプトにした場所が、すでにいくつか存在している。代表的な場所の一つが、2015年の大晦日にオープンしたアルケミスト(Alchemist)だ。アルケミストは、NSKと違っていくつかのベンダーがコンセプトを展開しており、頻繁に内容が入れ替わっている。さらに、アルケミストはバー空間が中心で、とくにパンデミック以前は夜のDJイベントに、若者や外国人が集う場所であった。近隣には、飲食店とケニア雑貨のベンダーが集まるAnanasという場所もある。NSKもアルケミストもAnanasも、すべて半分屋外、半分屋内といった開放感ある空間のため、パンデミックが収束仕切らない現在でも、比較的安全に楽しむことができる場所だ。こうした半オープン・エアなクリエイティブ空間に対する需要は、今後も継続しそうだ。

NSKはまだオープンして間もないため、まだ認知度が限られているようだが、若者による若者のための新たな食のスポットとして、そして若手クリエイターが集まる空間として、今後の展開に期待したい。


All photos by Maki Nakata

Maki Nakata

Asian Afrofuturist。
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383