「ワインはおいしい料理を引き立て、料理はワインの味を際立たせる。だったら自分の造ったワインにベストマッチする料理と一緒に提供したい。そんな思いから創作料理を作るようになったのです」

こう明かすのは、タウバーフランケン地方でワイナリーを経営するクリスティアン・シュタールさんだ。ワイナリー2代目経営者、そしてファインダイニングキッチンシェフの二つの顔を持つ同氏を訪ねた。

ドイツ南西部タウバーフランケンのワイン

タウバーフランケンは、ドイツ南西部ワイン生産地のひとつ、フランケン地方に広がるマイン川の支流タウバー川に沿って、ヴェルトハイムからバード・メルゲントハイムまでの一帯を指す。

タウバー渓谷の南斜面に開墾されているぶどう畑は、温暖な気候と豊かな水回りに恵まれ、美味しいワインを造る最適な場所にある。隣接するバーデン・ヴュルテンベルク州にも属しているため、バーデン地方のワイナリーもタウバーフランケンに含まれる。

このタウバーフランケンでワイナリーを経営するクリスティアンさんは、ワイン醸造だけでなくキッチンシェフの二役を務める。人気の秘訣は、「オリジナルワインと創作料理のペアリングによるマリアージュ」だ。

ロマンチック街道沿いの温泉街・バード・メルゲントハイム

ワインと相性抜群 地元食材を使った創作料理

11時頃、ワイナリー・シュタールに到着。同ワイナリーは、シルヴァーナー、シャルドネ、リースリング、ミュラー・トゥルガウなど白ワインのスペシャリストとして知られる。早速スタッフがよく冷えたスパークリングワイン(ゼクト)で出迎えてくれた。訪問日した6月末は、朝から太陽がじりじりと照りつける真夏日だったので乾いたのどに冷えたゼクトがひときわ美味しい。

ワイナリー内を見学後、「こちらに着席してください。ランチの用意が整いました」と、スタッフの声が聞こえてきた。前菜が運ばれてくると、それまで雑談で賑わっていた客たちから驚きの声が一斉に上がった。
地元産白身魚ホタルジャコ、ピーマン、ジュズのシャーベット、キュウリとコリアンダーのセビーチェ。さっぱりした味は暑い日にピッタリ。ワインは口当たりの滑らかなショイレーベ白2018年をいただいた。(コース2)

(コース2) セビーチェ

メインデッシュは、茹でたバターポテト、アスパラガス、平茸を添えた牛肉のグリル。ワインはベストオブリースリング2017年をいただいた。2本目のワイン、ワイナリー・シュタ―ルのフラグシップであるリースリングはトロピカルフルーツの上質なアロマが口の中に広まる。(コース5) 肉には赤ワイン?と思いきや、バランスのとれた白ワインは肉の味を引き立ててくれた。

(コース5) メインデッシュ牛肉のグリル

至福の時を過ごしているとデザートを手にクリスティアンさんが食卓にやってきた。「楽しんでいただきましたでしょうか。地域農家の活性化を目指して、料理はできる限り地元の食材を用いています。季節や日によって入手できる食材も異なるため、その都度メニューも変わります」

ワイナリー・シュタールの本拠地は「アウヱンホーフェン」という小さな村にあり、名前を聞いてもどこにあるのかピンとこないかもしれない。こんな隠れ家的なワイナリーを訪問する客はどんな人達?という問いに、クリスティアンさんはこう答えてくれた。

「口コミで知った方が多いです。あるいはワイン専門雑誌やビジネス雑誌の紹介記事で知り、どうしても来たかったという客や、一度訪問した客が次回は友人を誘って再訪するケースもよくあります」

完全予約制の6コースファインダイニングは、ワイン込みで1人150ユーロから(食材や季節により価格変動)。アレルギーやベジタリアンなど個人的な希望は、予約時に伝えると対応してくれる。

持続可能なワイン造りで売上高2000パーセント増に 

 
ワイナリー・シュタ―ルは1984年、地元の銘醸ワイナリーを買い取り、ワイン醸造を始めた。そしてクリスティアンさんは、2005年に両親より受け継ぎ2代目となった。

ドイツワイン業界では近年、親世代から醸造所を引き継いだ若手世代の活躍が目覚ましい。彼らは、親世代の経験や伝統を守り、かつ新たな道を模索し始め、モダンなラベルやデザイン、ワイン試飲ルームの近代化を図った。さらに地球温暖化による環境の変化に対応したオーガニック農法でブドウを栽培する生産者も増えた。こうして若手世代は、個性的なワインを生みだしドイツワイン業界発展に大きな貢献を果たした。

そんななか、クリスティアンさんもオーガニック農法を導入した。当初1,5ヘクタールだった所有ブドウ畑は2代目になると30ヘクタールまで拡張した。タウバー、マイン、シュタイガーヴァルトの各地域で栽培したブドウを用い、現在、年間25~30万本のワインを生産している。ワイン専門店をはじめ、高級レストランやホテルを中心に販売中だ。

ワインケラーにて 年間25万~30万本のワインを醸造する

さらにクリスティアンさんは、親世代から営業していたレストランをワインと創作料理をセットにしたファインダイニングを供する完全予約制に方向転換した。するとオーガニックワインとグルメ料理を提供するワイナリーとして脚光を浴びるようになった。

フランケン地方のワインの象徴とも言えるボックスボイテルボトル(ずんぐりと丸みを帯びた形のボトル)は使用していないそうだが、2代目になってからワインの売上高は、2000パーセントも増えたという。価格は1本8ユーロから38ユーロが売れ筋で、1本75ユーロのプレミアムワインも人気だそう。 

醸造ワインの説明をするクリスティアンさん

自分が美味しいと感じれば、客にも伝わるはず

  

ワイン造りのモットーは「持続可能なオーガニック法で栽培したブドウを用い、極力天然資源を使用すること。そして自分が美味しいと感じれば、客にも美味しさが伝わるはず」(クリスティアンさん)。

2代目となってまもなく、著名なドイツ人ワインジャーナリストであるスチュアート・ピゴット氏により、「2008年ヤング・ワインメーカー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。その後も次々とワイン業界の賞をさらったことや口コミで注文も増加した。

タウバー渓谷には約1100ヘクタールの土地にワイン醸造家が点在し、約65%が白ワイン用のブドウ品種、約35%が赤ワイン用のブドウ品種が植えられている。その中でもシュタールワインは、強い個性を持ちワイン愛好家やレストラン通を納得させる味を生みだしたことが受賞につながった。高級ワインである一方、一般市民に手が届く販売価格も評価されている。

シュタールワインは2018年、ヴォルフスブルクにあるリッツ・カールトンの三ツ星レストラン「アクア」のシェフ、スヴェン・エルヴァーフェルド氏の料理と共に、フランクフルター・アルゲマイネ紙の年間最優秀ワイナリーに選出された。「アクアのワインリストに私のワインが掲載されていることは、大変光栄です」とクリスティアンさん。

同ワイナリーは、ドイツ観光街道の王道「ロマンチック街道」沿いの街ローテンブルク・オプ・デア・タウバー近郊に位置するので、アクセスも思ったより簡単だ。寄り道の旅でする体験は忘れられない思い出になること間違いなしだ。

ドイツ観光王道ロマンチック街道の宝石・ローテンブルク


All Photos by Noriko Spitznagel

ウィンザーホフ・シュタ―ル/Winzerhof Stahl
住所:Lange Dorfstrasse 21, 97215 Auernhofen 
電話:0049-09848.96896
ローテンブルク・オプ・デアタウバーから北へ約24㎞、車で25分ほど。

シュピッツナーゲル典子
ドイツ在住。国際ジャーナリスト連盟会員