「インドラ・ジャトラ」は、ネパールの首都カトマンズで、毎年9月に1週間続く祭りだ。カトマンズの王宮広場「ダルバート広場」で開かれる催しには、身動きが取れないほどの人々が集まり、賑やかを通り越してかなりの密集状態になる。2018年に訪れた。

インドラ・ジャトラとクマリ

ネパールの国家守護神である女神「タレジュー」が人の形を借りた象徴としてこの世に存在するのが処女神「クマリ」だ。クマリは幼い少女の中から様々な条件に照らして選ばれ、初潮を迎えるとその役割を終える。クマリはダルバート広場に面した「クマリの館」に住んでいる。儀式以外で外出することはないそうだ。

インドラ・ジャトラとはインドラ神の祭りで、この期間にクマリが乗った山車が、カトマンズの旧市街を練り歩く。クマリの館の前には、館から出てくる姿を一目見ようという人が集まる。ところが実はそれが至難の業で、ダルバート広場まではどうにかたどり着いたとしても、クマリの館には近づくことさえができないほどの人の多さなのだ。とは言え、地元の人たちは無理やりどうにかしようということもなく、なんとなく遠巻きにそのワイワイとした雰囲気を楽しんでいるといった様子で全く平和的なのだ。

さて、普段のダルバート広場は観光地とはいえ随分のんびりとした雰囲気で、王宮やネパール仏教の寺院の歴史深い姿は素朴で温かみが感じられる。ヒンズー教のシバ神の化身の一つ「カーラ・バイラブ」の像には、特に祈る人たちを多く目にした。カーラ・バイラブは6本ある手に刀や生首をもつ恐怖の神とはいえ、その姿は寓話的で親しみが持てる。

カトマンズ盆地、登山、3つの王宮

カトマンズはヒマラヤ山脈の南、カトマンズ盆地にある。中心部の旧市街の一部であるタメル地区にはレストランや安宿も多く観光客が集まるが、通りにはトレッキングの装備を扱う店も多く並び、ここがヒマラヤ登山への始まりなのだと実感させられる。整えられた中庭が美しい老舗ホテル「カトマンズ・ゲストハウス」には「Yuichiro Miura Room」があった。三浦雄一郎が遠征で投宿したのだという。

さて、ヒマラヤ盆地にはカトマンズ、パタン、バクタプルに3つの王宮がある。マッラ王朝時代に3人の王子がそれぞれ王国を築いたのだ。そして三兄弟は競うようにしてそれぞれの王宮などの建築物を作り上げたという。そのひとつ、パタンに出かけた。カトマンズから乗り合いバスで30分ほどだ。

ここにも王宮広場「ダルバート広場」は、カトマンズのものに劣らず、建ち並ぶ歴史的な建物はどれも趣があった。応急から少し離れた住宅の建物に囲まれた中庭に入り込むと、数人の男たちが料理をしていた。聞けば、インドラ・ジャトラのお祭りで食べるものをみんなで作っているのだという。巨大な圧力なべからは激しく蒸気が上がっていた。スパイシーな香りが漂っている。

ネパールのカレーとは

カトマンズに戻り食料品店を覗いてみた。比較的小さな店が、街の通りが交差するあたりに集まっている。野菜を売る店の日本に行ったことがある店主が、最近自家製の豆腐を売り始めたと言っていた。パンを売る屋台もあり種類も豊富だ。様々な香辛料とお茶を売る店では、チャイを入れるための茶葉も売られていた。「ウバティー(日本でもチャイに使うスリランカ産の紅茶)なのか」ときくと「いや、これはネパールティーだよ」と答える。生産量は少ないが、ネパールの紅茶のクォリティは高いそうだ。

さて、一般に「カレー」といえばカレーライスのカレーのことだが、インド、スリランカ、パキスタン、バングラデシュなどの「カレー圏」での意味合いとしては「おかず」なのかもしれない。スリランカでもインドでも、ご飯に合わせる香辛料をきかせた主菜も副菜も、大きなくくりではカレーとして扱われていた。ネパールでも同様で、「チキンカレー」というよりは、「鶏肉を使ったおかず」といったイメージだ。

スリランカのカレーはかつお出汁を使っており、日本人にも馴染みのある濃厚な旨味が感じられる。インドのカレーは玉ねぎをローストして、ドライな香辛料を合わせていて、いかにもカレーらしい。タイなどのインドシナ半島にもカレーはあるが、フレッシュなハーブにフレッシュな唐辛子を使い辛いのだが、ココナッツミルクやパームシュガーなども使って甘味とのバランスが絶妙だ。

さてネパールのカレーはというと、シンプルな香辛料を使ってササっと作る炒め煮と言ったらいいかもしれない。よく使われる香辛料はのはターメリック、クミンとコリアンダー、それに生姜、にんにく、花椒だ。油で炒めた鶏肉と玉ねぎとトマト、そこに香辛料を加えて香りを出したらさっと煮る。それだけで旨い鶏肉のおかず、いわゆるチキンカレーが出来上がる。

レシピ:ネパールのチキンカレー

インドカレーのレシピなら、まずは玉ねぎを数十分炒めるところから始まるが、ネパールのカレーならそれだけの数十分で出来上がってしまう。驚くのは使う油の量が多いことだ。今回は現地で聞いたレシピの半量で作るが、これでしっかりおいしい。

使う香辛料はターメリックとクミン。チリパウダーは好みで増やしてもいいだろう。パクチーはなくても構わない。バスマティ米を使えば本格的だが、日本の米でももちろん合う。

材料:2人分
・鶏肉 250~300g (むね肉でももも肉でも両方でも) 一口大に切っておく
・植物油 30ml
・玉ねぎ 中1個 薄切りにしておく
・ターメリック 小さじ1/2
・チリパウダー 小さじ1/2
・クミン 小さじ1/2
・トマト 中1個 ざく切り
・ローレル 1枚
・塩 小さじ1/2
・水 120㏄
・バスマティ米 1カップ 炊いておく
・パクチー 1株 粗みじん切りにしておく

作り方:
1. 鍋に油を温めて、中火で鶏肉を入れ火を通す。
2. ターメリックを入れて鶏肉全体に行き渡らせて、鶏肉が茶色になるまでしっかりと炒める。
3. 玉ねぎを加えて透明になってきたらトマトを加えて、
 そこに香辛料(チリパウダー、クミン、ローレル)をいれて、蓋をして弱火にし、5分火を入れる。
4. 蓋をあけて、水を入れて沸騰させたら、蓋はあけたままで強火で10分煮込む。
5. 皿にバスマティ米と共に盛って、パクチーを添える。 

バスマティ米以外は、一般的なスーパーマーケットでも手に入る材料だし、作る手順も簡単なので気軽に試してほしい。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/