台湾の食べ物は、なんでこんなに日本人に受けれやすいのだろう。その昔、台湾に大陸から移り住んだのは、海を挟んだ福建省の人たちが多かった。台湾料理のベースとなった福建料理は油を多用することがなく、比較的サッパリと仕上げる。また豊富な海産物を使った料理も多く、出汁や旨味も海鮮系のものが使われる。地理的に見ても、沖縄の先島諸島のすぐ先で、沖縄で豚肉をよく食べるように、台湾でも豚肉を使った料理が多い。唐辛子やスパイスを多用することもなく、いわゆる優しい味付けだ。

今回はそんな台湾料理の中でも、軽く楽しめるもの、スナックやおやつのように食べることができるものを食べ歩く。

朝食なら朝早くから開いている豆漿(とうじゃん)の店で

台北の朝、街を歩いているとなんとなくざわざわとしている店がある。赤地に白い文字で「洪記豆漿大王」と派手に大きく書かれたこの店もそんな店の一つ。店内には長いカウンター。次々と客がやって来ては、豆漿をオーダー。受け取って席につく。そのまま持ち帰る人もいる。

さてその豆漿は、温かい豆乳に黒酢を合わせてうっすらと固めたもので、醤油ベースのたれをかける。中華の揚げパン「油条」をちぎって入れて、しっかりと浸して食べると、豆乳の優しい香りに、ちょっとだけ刺激を感じる黒酢の旨味が、朝の体がだんだん起きてくるようなタイミングに、胃から優しく起こしてくれるような優しさだ。

次の台北への旅では、ホテルに着いたら地図アプリで「豆漿」と探すかレセプションで近くの店を聞いて、翌日の朝食に備えるのもいいだろう。

洪記豆漿大王

朝にいい「水煎包」は野菜が嬉しい

市内中央部から少しだけ南にある台湾大学のそばに、「水煎包」を朝早くから売る店「劉家水煎包」がある。この店は朝5時30分からよる10時30分まで開いている。朝なら朝食にもいいし、一日中何いつでも軽く食べるスナックにいい。

水煎包は、小麦粉の皮に肉や野菜の案を包んで、フライパンで焼いたもの。大きさは5㎝程度のものが一般的で、日本の中華まんより小さめだ。肉餡の豚肉はゴロゴロとしていて、肉の旨味を感じる。ニラやキャベツを具にしたものもあって、野菜をしっかり摂れてうれしい。一緒にいただくドリンクは出来立ての豆乳だ。

ほかにも、同じく小麦粉の粉の皮を使って蒸した「蒸包」があった。具は豚肉か甘い豆の餡。こちらは日本の中華まんに近い。

ホッカホカの水煎包、一つは豚肉でもう一つは野菜、それに豆乳を合わせればかなり完璧な朝食になると思う。

劉家水煎包

まち歩きの合間にほんのり甘い豆花を

東門市場はかなり古い市場で、迷路のような狭い通路に、たくさんの小さな屋台のような店が並ぶ。建物もある意味バラックのようでなんとなく心もとなく、奥へ進めば昼でも薄暗い。

と書くとかなり怪しい雰囲気なのだが、実際に訪れるれば、働く人たちと、ローカルな旨いものと安い衣料品や雑貨を求める人たちがワイワイと集まって活気があって楽しい。

その一角にあるのがおいしいと評判の豆花の店「江記東門豆花」だ。

「豆花」豆乳を凝固剤で固めたもの。温かい鍋から器にとって、茹でた落花生を乗せて、シロップをかけてくれる。シロップの甘みが控えめでちょうどいい。食べ進めると、だんだん体の中から温まってくる。ピーナッツの食感と、ちょっと青臭い香りがアクセントになって、シンプルながら飽きることがない。

このお店のメニューはこの温かい豆花と、冷たい豆花の2つだけ。市場の中でも決してわかり安い場所だし小さな店なのに、ひっきりなしに客がやって来る。なんだか食べるとホッとするのが人気の秘密に違いない。

江記東門豆花

かつお出汁たっぷりの「麺線」はどこかで食べた気がする

台北の西門にある「阿宋麺線」は行列ができる麺線の人気店。麺線は小麦粉でできた素麺のような麺を、熱々の餡掛けスープでいただく麺料理で、その具は豚のモツのこともあれば、牡蠣のこともある。この店はモツを使ったものだ。カウンターで注文すれば、そのすぐ隣のオープンな厨房で盛り付けてくれる。

チリソース、にんにく、黒酢を好みで加えて味を整える。テーブルや椅子はないので、立ったまま食べる。麺は柔らかく、噛まなくてもいいほど。餡掛けの熱々は要注意だ。しっかりと処理されたモツ肉は柔らかく臭みもない。

なぜか懐かしく、食べたことがあるように感じるのは麺が素麺に似ているからということもあるが、ベースの出汁が濃厚なかつおベースだからだ。写真の通り、小椀(S)サイズなら一食として食べるには少なめの量で、おやつにはちょうどいい。

夜の小腹に刺激的な胡椒餅を

台湾の夜と言えば、「夜市」。雑貨に洋服などのお店と共に、屋台の美味しいB級グルメもいろいろ楽しる。特に歩きながら食べるのにおすすめなのが「胡椒餅」。「福州世祖」は饒河街観光夜市日本店があり、士林観光夜市には支店がある。

胡椒がたっぷり入ったの豚肉の餡を、溢れんばかりの大量の葱と一緒に小麦粉の皮に包んだら、熱々の窯の内側に張り付けてパリパリに焼き上げる。この窯、インドのナンを焼くものによく似ている。

店の前には焼き上がりを待つ人たちで行列ができていた。待つこと15分ほど。焼き立ての胡椒餅を、レトロなデザインの袋に入れてくれた。

割ってみると、あんなに詰めたはずの葱はすっかりしんなりとして、豚肉の餡とのバランスが落ち着いていた。ほおばれば胡椒の刺激が口の中に広がる。それでも唐辛子のように後は引かないから、スキっと目が覚めるような辛さだ。

やっぱり大きすぎないのがいい。ちょっと食べる。旨いなと感じたところでちょうど食べ終わる。そんな台湾のスナックのサイズって、人間の欲望をよくわかっているような気がする。もうちょっと食べたいが、これが満足、また食べに来ようという気になるのだ。

福州世祖胡椒餅 士林店

台湾ならではの軽い食事を食べ歩く一日。一度にたくさん食べずに、少しずつゆっくりとあっちこっちへ。次の台北の旅でも、また同じように食べ歩きたいと思う。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/