南アフリカのケープタウンの自然スポットとして、平らに広がる山頂の景観がユニークなテーブルマウンテンがよく知られているが、その麓に広がるカーステンボッシュ国立植物園(Kirstenbosch National Botanical Garden)も魅力の一つ。国立植物園は、ケープ植物区保護地域群(Cape Floral Region Protected Areas)の一部として、2014年にUNESCOの世界遺産に登録された。多様な植物に溢れる、アフリカ大陸の中で最も美しい庭園の一つとも評されるカーステンボッシュは、地元住民や観光客に人気のある場所だ。

アフリカの植物の20%が集中するケープ植物区

UNESCOのウェブサイトによると、世界遺産として登録されている、ケープタウンの北側から東ケープ地区のポートエリザベスまで南アフリカの南部に帯状に広がる地中海性気候の地域は、面積はアフリカ大陸の0.5%を占めるに過ぎないが、アフリカの植物の20%が集中する。約9,000種の生育植物のうち69%が固有種で、1,736の絶滅危惧種である。カーステンボッシュ植物園が位置する西側地区は、東に比べてより多様な植物が生育する。植物園がウェブで公開しているリストによると、園内においては、1978-2009年にかけて約1,050種の植物が記録されている。

カーステンボッシュに生息する植物は、大きくフィンボス(潅木)と森に大別される。
さらに植物園で観察されるフィンボスは、ヤマモガシ科(The protea family)、ツツジ科(Ericas)、サンアソウ科(Restios)の3種。南アフリカの国花であるヤマモガシ科のキングプロテアは、スーパーマーケットの生花売場やテキスタイル商品のモチーフなどでよく見かける人気の品種だが、植物園では多品種のプロテアを始め、さまざまな色や形状の植物を楽しむことができる。

1世紀かけて構築された庭園のランドスケープ

植物園の地域は、もともと半ノマド的な生活様式のコイコイ人たちの移動ルートの一部だったが、1652年にヤン・ファン・リーベック(Jan Van Riebeeck)がケープ植民地を設立して以降、欧州人の植民と土地の略奪が開始。カーステンボッシュ(意味:カーステン家の森)という名前が記録に登場したのは、1795年とされる。1895年、ケープ植民地首相のセシル・ローズがカーステンボッシュの地域を買収したが、土地は手入れされることなく放置されていた。

その後、英国人植物学者ヘンリー・ハロルド・ウェルチ・ピアソン(Henry Harold Welch Pearson)が南アフリカに移住し、彼の功績があって1913年にカーステンボッシュ国立植物園が設立された。放置されていた土地が、植物園として発展し、現在のようなかたちになるには大変な労力と時間を要した。初期段階では、ピアソンが設立後たったの3年で亡くなってしまうという災難、その後も財政難や戦争、火事などに見舞われた。設立から最初の50年ぐらいは、機械などもなく、ほぼ手作業で庭園の開発が行われた。

カーステンボッシュの経営が安定したのは、2000年代。2004年、もともと国立植物研究所だった経営機関が、南アフリカ生物多様性研究所(South Africa Biodiversity Institute)として生まれ変わった。2006年には火事に見舞われたが、資金調達のためのチャリティーコンサートなどの開催が成功し、経営も黒字化。2013年には設立100周年が祝われた。

開放的で自然豊かな憩いの場

南アフリカのロックダウンで、長期間閉鎖されていたカーステンボッシュだが、現在は来場者を受け入れている。ケープタウンの春が始まる9月からは、さまざまな花が開花するシーズンだ。庭園は、潅木や森が広がる散策エリアのほかに、ピクニックを楽しめる芝生エリアや2つのレストランも併設。園内には彫刻作品も点在する。テーブルマウンテンの麓という立地だからこそ、周囲の自然環境も雄大である。

さらに、園内にはアトラクションの一つとして、木々のなかを這うように設計された橋がある。植物園の100周年を機に、2013-14年にかけて設立された「Centenary Tree Canopy Walkway(100周年記念の林冠ウォークウェイ)」と名付けられた橋は、全長130メートル。もっとも高い部分では、地上11.5メートルの高さにある林冠部分の空中散歩を楽しむことができる。Boomslang(アフリカーンス語で「木の蛇」という意味)という愛称で親しまれるウォークウェイは、スチールと木材のみが使われ、木々や植物の生育を邪魔しないような設計になっている。ウォークウェイの真ん中部分からは、テーブルマウンテンとケープタウン市の景色を楽しむことができる。橋の幅もゆったりと広く、車椅子でも通行可能だ。

カーステンボッシュの入場料は大人1名、約500円(75ランド)。園内のレストランの料金も、一般的な価格設定になっている。観光客だけでなく、住民の憩いの場としても人気のある植物園。かつ市内からほど近い場所にて、サファリ観光とは違うスタイルでより気軽に豊かな自然環境が楽しめる場所として、カーステンボッシュはおすすめの旅スポットだ。

Ref
The South African National Biodiversity Institute (SANBI)
UNESCO

All photos by Maki Nakata

Maki Nakata

Asian Afrofuturist。
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383