フェアビュー(Fairview)は、南アフリカ西ケープ州の都市パールにある、「ヤギの塔」が有名なワイン農場。ワインの他に、チーズやヨーグルトなどの乳製品やデリ製品も生産するフェアビューは、大手スーパーマーケットなどにも商品を卸している、地元では名の知れたブランドでもある。

今回訪れたフェアビューのワイン農場は、ケープタウン市内から車で45分ぐらいの場所で、テイスティングルームやデリショップ、レストランなどが併設されており、ちょっとした日帰り旅が楽しめる場所だ。筆者が滞在する南アフリカは、今年3月末からロックダウンを開始。行動規制や経済活動の制限がかかり、長らくアルコール販売も禁止されていたが、段階別の緩和政策によって、8月末現在、フェアビューなどのワイナリーも訪問客の受け入れを始め、本格的な営業再開に踏み切っている。郊外の広々とした空間は、ウィズ・コロナ時代の観光スポットとしても、魅力を保ち続けるはずだ。

ヤギがくつろぐ開放的な空間

フェアビューの入口すぐの駐車スペースを囲むよう設計された農園のフロント・スペースは、ヤギたちのための空間だ。筆者が訪問した際は、3〜4頭の大人のヤギが遊具の周りで休んでいる様子しか観察できなかったが、ヤギのための空間には、道路を覆うように作られた小さな橋や、螺旋状の「ヤギの塔(Goat Tower)」が配置され、彼らが自由に動き回れるような場所になっている。運が良ければ、子ヤギと触れ合うこともできるようだ。

ヤギたちのための空間を抜けると、中庭の噴水があり、その奥にテイスティング・ルームやデリショップが入った建物、そして、その横にレストランがある。そしてその奥や周囲には、農地が広がっており、晴れた日を過ごすのには、非常に心地よい、開放的な空間である。

満足度の高いテイスティングが魅力

テイスティングを楽しむ場合、コースの選択肢は4つある。6種類のチーズを楽しむコース(R20 / ¥126)、ワイン6種とチーズ6種のペアリングを楽しむコース(R40 / ¥251)、ワイン6種、チーズ4種、デリミート2種のペアリングを楽しむコース(R60 / ¥377)、8種のワインと8種のチーズのペアリングに、焼きたてパン・オリーブオイルがついたコース(R80 / ¥ 502)だ。この最後のコースは、「マスター・テイスティング」というコース名が付いており、他のバーカウンターのテイスティングとは別の空間にて、テーブルに着席したレストランスタイルでのテイスティングが楽しめる。

ティスティング・バー

南アフリカの通貨、ランドの価値が相対的に低いこともあるが、どのコースも日本や欧米での市場価格に換算すると、テイスティングとは言え、非常にリーズナブルな価格設定となっている。西ケープ州には、多くのワイナリーがあるが、場所によってはフェアビューの3倍以上の価格設定をしているハイエンドなワイナリーもあるので、地域市場で見ても、比較的お手軽なワイナリーだといえる。

マスター・ティスティング用の部屋

筆者が選択したコースは、6種類のワインとチーズのペアリングを楽しむ「スタンダード・テイスティング」。6種類のワインは、さらに2タイプのセレクションから選ぶことができる。1つは、白・ロゼ・赤4種という、フェアビューの人気ワインをセレクトしたもので、もう一つは、白2種、赤4種で少し変わったテイストをセレクトしたもの。選択したのは後者。南アフリカならではの品種であるピノタージュを使った数量限定の「Broken Barrel(割られてしまった樽(注:樽限定のニュアンスを含む名前)」という人気ラベルや、スペイン系の品種のブドウを使った赤ワインなどが含まれた。

6種のチーズは、牛のチーズのみだったが、時期によってはヤギのチーズが提供される場合もあるとのこと。ワインやチーズ、ペアリングの知識がなくても、スタッフがわかりやすく解説をしてくれる。テイスティングしたワイン、チーズは、全てデリショップやオンラインショップにて購入できる。

広々としたバーカウンター型のテイスティングスペースの奥には、アート作品の展示販売があり、その奥には、マスター・テイスティング用のレストラン空間が広がる。落ち着いてはいるが、全体的には敷居が低い、贅沢すぎない、心地の良い空間だ。

多くの受賞歴を誇る歴史あるワイナリー

リーズナブルで、高品質の商品・サービスを提供できる背景には、フェアビューの歴史と実績がある。フェアビューの歴史は、白人が土地に入植した1693年に遡る。その後、1699年に初めて農場でワインが生産された。時は流れ、本格的にフェアビューが事業として拡大した背景には、リトアニア出身の移民、チャールズ・バック1世の功績があった。彼は1937年に現在のフェアビューの場所を買い取り、ワイン生産と輸出事業を拡大。1955年に、息子の一人であるシリルが受け継ぎ、現在は、孫のチャールズ・バック2世が事業を継承している。90年代は、チーズ生産や販売も拡大。バック2世は、南アフリカのワイン業界における注目の事業家の一人として、2006年には南アフリカの『サウス・アフリカ・ワイン・マガジン』から、同国のワイン産業において、ネルソン・マンデラ元大統領につぐ、2番目に影響を持つ人物として評価された。また、フェアビューは、数々の受賞歴を誇り、2017年には南アフリカで最も数多く表彰されたワインメーカーとなった。

現在、フェアビューはパールにある350ヘクタールのワイン農地のほか、ダーリン、スワートランド、ステレンボッシュの3カ所に、合計230ヘクタールのワイン農地を保有。ワインは、オーストラリアや欧米に輸出され、2016年以降、自社のオンラインショップも展開している。日本でも一部のオンラインショップなどでの取り扱いがある(ヴィンテージ以外の商品の日本での販売価格は2000円前後)。

現在GDPの1%程度である観光産業を、10%程度まで引き上げるという目標を掲げていた南アフリカ。10月1日から観光客の受け入れを再開したが、観光産業が活性化するまではもう少し時間がかかりそうだ。ステイホームでも機会があれば、ケープタウンの空の下で過ごすヤギのことを想像しながら、ぜひフェアビューのワインを味わっていただきたい。


All Photos by Maki Nakata

Maki Nakata

Asian Afrofuturist。
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383