新型コロナウイルス感染症の影響で、なんとなく旅行にでかけづらくなっている。よほどの理由がない限りむやみやたらと移動をしづらい雰囲気の中、特に都会からないしは都会への移動は、コロナに感染したり人に移したりしてしまう不安よりも、非難を浴びないかの不安の方が大きかったりする人は多いのではないだろうか。

それと同時に、Go To トラベルキャンペーンが始まり、各地方自治体も観光復興支援策に取り組み、普段よりも旅費が節約できて旅行するには良いタイミングとも言える。そんな板挟みとも言える状況の中で、旅行にでかける機会がますます貴重な時間となり、マスクをつけなくて良い時間を少しでも増やし、尚且つ何かを得て帰りたいと強く思うようになった。

コペンハーゲンで知り合った友人から、今年の5月30日にオープンしたばかりの、徳島県は上勝にあるゼロウェイストセンター併設のホテル「HOTEL WHY」へ行かないかと誘いを受け、ホテルのすぐそばにあるマイクロ・ブリュワリー「RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store」も気になっていたので訪れてみることにした。

RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store

上勝町は徳島市から車で1時間、人口1600人に満たない人々が暮らす標高700m以上の山地に囲まれた自然豊な小さな町。2003年に、2020年までに焼却や埋め立てをせずにごみをゼロにする「ゼロ・ウェイスト」宣言をした日本初の町だ。

ここ数年はリサイクル率80%を達成している。町内にはゴミ収集車はなく、町民はここゼロ・ウェイストセンターのゴミステーションにゴミを持ってくるらしく、分別の数は13品目45種類もあるそうだ。資源として売れるものには緑の「入」マーク、処分にお金のかかるものには赤の「出」マークと、それぞれどれくらいのお金に変わるか、またはかかるかが書かれている。丁寧に分別すればするほど価値はあがり、年間250~300万円分ゴミをお金に変えているらしい。

基本的に生ごみは自宅で堆肥化できるように、町が補助金を出して各家庭が少額で電動生ごみ処理機を導入したことによって、ほとんどの家では電動生ごみ処理機かコンポスターを導入しているそうだ。

「HOTEL WHY」は、上勝町の過疎問題をきっかけに、あまり町の中で光が当てて来られなかった「ゼロ・ウェイスト」の取り組みを町外に向けてPRするために、上勝町ゼロ・ウェイストセンターのプロジェクトとしてはじまった。もともと上勝町が社会の中で新たに「環境教育の場」として認識してもらい、人々が定期的に訪れ交流できる導線を作っていくという構想があったからだ。

2018年からゴミステーションも改装が行われ、そこにホテル、リユースショップ、セミナールームやラボなども加わり環境型複合施設となって生まれ変わった。「HOTEL WHY」のコンセプトは「なぜそれを買うのか? 作るのか? なぜそれを売るのか? 捨てるのか?」といった、日常の生産・消費活動に対する問いかけをし、今一度考え直す機会をつくることだ。敷地一帯を上からみると、建築はハテナマークになっている。

Transit General Office Inc. SATOSHI MATSUO

すぐ近くにあるRISE&WINも含め建物は、全て廃材や使われなくなった家具、上勝で伐採したなるべく手を加えないままの杉の木を用いて構築されている。建築設計は中村拓志が主宰するNAP建築設計事務所が手掛け、町の雰囲気を壊すことなく自然と一体となり佇んでいる。

廃材で作られたシャンデリア

到着すると、ホテルがある上勝町ゼロ・ウェイストセンターの “Chief Environmental Officer” を務める大塚桃奈さんが出迎えてくれた。桃奈さんはロンドンへのファッション留学がきっかけで、ファッションが取り巻く社会問題に気づき始め、『サスティナブルやエシカル』というキーワードに目覚めたそうだ。日本へ戻ってきてからたまたま興味をもって訪れた「上勝町ゼロ・ウェイストセンターWHY」でスカウトされ、新卒で就職してまだ間もないが、すっかりこの場所の顔になっている。客の出迎えから施設の説明、部屋の掃除まで全てをこなすそうだ。

到着してまずは上勝町の活動や、上勝町ゼロ・ウェイストセンターの生い立ちからゴミステーションの案内まで丁寧にしてくれた。ホテルのフロントスペースには「くるくるショップ」が併設されていて、町民の人が使わなくなったものを持ってくることができ、そこに訪れた人たちが無料で持ち帰ることができる場所だ。持って帰る場合には測りで重さを測り、そこに置かれているノートに持ち帰るものの品名と重さを記入するだけ。これによって年間町内のおよそ9トン以上のゴミを再利用することができているらしい。

滞在中に自分たちが使う石鹸についてはチェックイン時に必要な分だけセルフで切り分けて新聞に包んで渡してくれる。石鹸は65年続く「無添加石鹸本舗」のもの。

コーヒー豆も同様に、サステナビリティを提案するTADE GG農園の豆をローストする「Little Darilng Coffee Roasters」のものを必要な分だけグラインドしてわけてくれる。

部屋にはコーヒーポットや希望があれば手動コーヒーグライダー、素敵なセラミックのカップやお皿まで用意されている。部屋に備え付けられている消耗品は、ニュージーランド発のブランド「ecostore」の自然由来のシャンプーとリンス、ボディーソープのみだ。使い捨ての歯ブラシや髭剃りなどはなく、宿泊する前日までにそれらがないことについては知らせてくれる。また自分たちが出したゴミについても、細かくわけるように部屋にはゴミ分別セットが供えられている。

ジュースや食べ物が入っていたゴミは、洗うか洗わないかでリサイクルできるかできないかが変わるそうだ。上勝町では花王株式会社とコラボレーションを行い、洗剤の詰め替えパウチのみ単体で回収されており、それらはおもちゃのブロックに生まれ変わり子供が遊ぶスペースに置かれていた。

その日の夜、桃奈さんの友人であるLindaが “INOW” というインターンプログラムをやっていて、インターン生が泊まったりする家での夕食の会に誘ってくれた。その家でも食器や鍋類と同様に、ゴミを洗って乾かす習慣が定着しているようだった。キッチンの奥にもゴミを細かく分別するためのスペースが充分に設けられていた。

これだけ生活に定着させてしまえば不可能なことではないのかもしれない、と思いつつ都会での暮らしで実際にそこまでの時間を作れるかどうかは悩ましいところだ。そんなことを考えながらみんなで屋上へ移動し、スイカ割りや花火を楽しんだ。これぞまさに日本の夏休みといった行いだが、大人になってもこれが楽しい夏休みと思える子供心を忘れずにいたい。既に色褪せているようで色褪せることのない定番の夏の絵だ。

空を見上げると満天の星空。さらには流れ星まで見れて、その状況をますます完璧な夏休みに仕上げてくれた。ホテルに戻ってからも少しの間芝生に寝転んで、10分に1度くらいのペースで流れる流れ星を眺めていた。

翌朝は「RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store」が用意してくれたピクニックスタイルの朝食。部屋に届けてくれて好きな場所で食べて良いとのこと。既に真夏で朝から暑い日が続いていたので、ホテルの交流ホールで頂いた。ベーグルと具材が別々にお弁当箱や瓶に入れられていて、好きなように組み合わせるスタイルだ。

ホテルチェックアウト時には自分たちで仕分けをしたゴミを持って、ホテルのスタッフと一緒にゴミステーションに捨てにいくところまでが、この体験型宿泊施設での最後の項目だ。ゴミの仕分けを見ていく上で、どのゴミがリサイクルできるゴミとして価値を持ち、または全くリサイクルすることも燃やすこともできず、土に埋めてしまうしかないゴミがどのようなものであるのかを知るのに良い機会になった。

生ゴミは庭にあるコンポストボックスへ。

「HOTEL WHY」での宿泊体験を通して、今まで気にもとめていなかった自分たちがたった一晩抽出するゴミの量を可視化できたり、買い物をしながらもそれがどういうゴミになるかなどを考えるきっかけになった。

上勝町がどのようにしてリサイクル率80%を遂行しているかを実際に見れたのはもちろんのこと、自分がいる環境では、いかに簡単に環境汚染に繋がるゴミを作り続け、リサイクルできるものだとしても、それをしらずに適当に処分してしまっていることを意識化できた。

こんなに楽しい時間を過ごしながらゴミについて学ぶことができるのは、上勝町の素晴らしい大自然や、町民の人たちや桃奈さんのように移住してきた人たちの、上勝町に対する想いやメッセージがちゃんと込められているのが伝わってくるからだ。

ある視点においては日本は都会のほうが遅れをとっていて、田舎に来るたびに逆浦島太郎状態だと感じることが多くなった。もしこういった施設が都会にできたら……と都会でのこれからの生活を想像しながら帰路についた。


Memo: 宿泊料金は一泊2名一室朝食付きで13200円から。
Go To トラベル対象宿泊施設なので今なら35%オフ。

上勝町ゼロ・ウェイストセンターWHY
〒771-4501
徳島県勝浦郡上勝町大字福原字下日浦7番地2
TEL: 080-2989-1533
MAIL: info@why-kamikatsu.jp

Photos by Natsuko Natsuyama (一部提供)

NATSUKO

モデル・ライター
東京でのモデル活動後、2014年から拠点を海外に移す。上海、バンコク、シンガポール、NY、ミラノ、LA、ケープタウン、ベルリンと次々と住む場所・仕事をする場所を変えていき、ノマドスタイルとモデル業の両立を実現。2017年からコペンハーゲンをベースに「旅」と「コペンハーゲン」の魅力を伝えるライターとしても活動している。
Instagram : natsuko_natsuyama
blog : natsukonatsuyama.net