シンガポールで旨いものが食べたければ「ホーカーズ」に行ったらいいよと、現地で生活したことのある友人も、メディアに登場するフーディーたちも口をそろえて勧めてくれる。今回は、シンガポールのどこにでもあるホーカーズで、シンガポールならではの料理を食べ歩く。
料理は「小さなサイズ」(例えば小さなボールで一食といった量)で、地下鉄やバスを使って歩いてアクセスできる店も多いから、「食べ歩く」いうアクティビティを文字通り楽しめるのがシンガポールの魅力の一つだ。
定番シンガポール・チキンライスを人気のホーカーズで
日本の、ケチャップたっぷりの鶏肉と玉ねぎがおいしい焼き飯といったチキンライスとは全く違うシンガポール・チキンライス。中国の海南省から渡ってきた移民たちが伝えた、シンプルながら滋味たっぷりのワンプレートだ。
30年以上の歴史がある「天天海南雞飯」は、シンガポールの金融街のすぐ裏手にある「Maxwell Food Center」というホーカーズにある店にでかけた。
丸鶏を茹で、その茹で汁で長粒米を炊き、グレービーを回しかけて、チリソースは好みで。しっとりとした鶏はもちろん、その鶏の旨味をたっぷりと含みながらも、ちょうどよい食感に炊けたライスがいい。ミディアムのサイズで400円ほどとリーズナブルな価格だ。
ここは地元の人にも旅行客にも人気の店で、訪れた日も30mほどの列ができていた。
画像でもわかるように、「ホーカーズ」は屋根のある屋台街。上下水も完備されていて衛生的だ。もともとは街中の通りに出ていた屋台だが、1970年代から80年代中ごろに、シンガポール政府がこのような屋台街を整備したのだという。そして、人が住む場所ならどこでも、歩いてすぐの場所にこういったホーカーズが完備されるようになった。ビルとビルの間に独立した建物として、高層住宅の1階と2階部分に、市場の建物の中にといった具合にホーカーズがあるから、シンガポールでは外食をする人が多いという理由が納得できる。
旨味たっぷりアサリのラクサ
ラクサは、海鮮出汁とココナッツミルクの香りがエスニック感たっぷりのスープに、中華麺、シーフードの具材を乗せた、シンガポール名物のヌードルだ。例えば日本のラーメンに様々なバージョン、つまりスープや麺の種類、具材にトッピングの異なるものがたくさんあるように、ホーカーズに行けば必ずと言ってもいいほど、様々に独特な趣向を凝らしたラクサを売る店がある。
「Sungei Road Laksa (スンゲイ・ロード・ラクサ)」は、アラブ人街とインド人街の間に位置する。いくつかの住宅ビルに囲まれた、10件ほどの屋台の店が入るちいさめのホーカーズにある一軒だ。
ここのラクサの具は調味料に漬けたアサリと、魚のすり身を使ったフィッシュケーキ、そこにパクチーが乗る。麺は柔らかい米の麺。こちらもチリソースはお好みで。大きさは日本の一般的なラーメンの1/3ほどと小さく、ピンク色のボールがかわいらしい。味はアサリ出汁がしっかり感じられて、優しい風味だ。
炭火で温められているスープを、あらかじめ茹でられてボールに入れられた麺にかけて温めたらそのスープを一度鍋に戻し、あらためて熱々のスープを掛けなおしてから、具をのせていく。1杯240円とかなり手ごろで旨いのだが、このプロセスに時間がかかることもあって大行列だった。しかし、これは並ぶに値する、ここでしか食べられない一品だ。
Sungei Road Laksa
27 Jln Berseh, #01-100, Singapore 200027
インド人街のフィッシュヘッドカレー
インド人街で大人気のビリヤニ店、「Allauddin’s Biryani (アラジンズ・ビリヤニ)」の系列、「Allauddin’s Restaurant and Catering (アラジンズ・レストラン&ケータリング」は、特に現地のインド系の人たちに人気のカレーの店。
インド系の人たちはベジタリアンも多いので100%ベジタブルのメニューもあるが、ここの目玉はなんといってもフィッシュヘッドカレーだ。
インド人街の中心「Indelian Arcade (インディアン・アーケード)」のすぐ裏手にあるこの店、器としてバナナの葉ではなく紙を使うのは現代風だが、みんな素手でおいしそうに食べている。
もともとインドにはこのようなフィッシュヘッドカレーは無く、インドから渡ってきた人たちが、シンガポールに住む中華系の人たちにも受けるようにと、手に入るもので作ったのが始まりだそうだ。
魚の出汁が出ているから、旨さに深みがある。付け合わせの野菜も家庭的でいい。フィッシュカレーが560円ほど、ベジタリアンのものが260円とこちらもかなりリーズナブルだ。
世界で一番物価の高い国で楽しむ旨くて安いグルメ
シンガポールは、英紙エコノミストの「最も物価の高い都市2020」で大阪とならんで1位だった。それでも、街中には安くて旨い食べ物が溢れていて、住む人も訪れる人も、食を楽しんでいる。商売上手の食道楽。大坂の文化に似ているところがあるのかもしれない。
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All Photos by Atsushi Ishiguro
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石黒アツシ
20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/