オランダと聞くと、チューリップ、風車、チーズ、運河、サッカー、画家フェルメール、ウサギのキャラクターのミッフィーなどを思い起こす人は多いはず。自由と寛容の国ともよくいわれる、そんなオランダは、いま、環境面でかなり注目を浴びている。ごみや無駄を出さずに循環させて利用する社会、「循環型社会」(サーキュラーエコノミーへの移行)にできるだけ早くなろうと、官民一体で力を注いでいる。

そのゴールを目指し、オランダ全土で一風変わった環境への取り組みが進んでいて、果物から作る皮(ビーガンレザー)を製造、形の悪い野菜や果物をスープにして販売、古いマットレスを柔道マットや壁断熱材に再利用といったたくさんの実践が知られている。首都アムステルダムでも、「Park 20|20」など建築材を再利用して建てたビルの数々、運河に設置した省エネの家30軒で約100人が暮らせる「Schoon Schip」、運河でごみを拾うツアー「Plastic Whale」など実践が豊富だ。

フェリーで、アムステルダム北区へ
アイ川をはさんでアムステルダム中央駅の反対側に位置する北地区も、環境配慮の点で優れている。以前、ここは製造業と労働者の場所だった。いまは再開発が進み、文化とサスティナビリティに親しめる観光スポットとして人気を集めている。その中心地の「NDSMワーフ」へは、中央駅裏から無料フェリーに乗って10数分で到着する。大規模な造船所だったNDSMは、アーティストたちの手により、自由でワイルド感が漂うアート空間に生まれ変わった。アトリエが集まり、古いクレーンをホテルとして活用し、古いコンテナをレストランにしたり(食材は有機食品のみ)と、一種のテーマパークともいえるだろう。

この辺りを通り抜けて、真っ直ぐな道Papawerwegをひたすら歩いてから右折すると(約15分)、もう1つのユニークな場所「De Ceuvel」が姿を現す。De Ceuvelは、建築家グループが主導してできた水際に面した公園であり、オフィス街だ。すでに、ここにあったハウスボート17台を、入居予定者たちが、オランダ中から集めた再利用素材を使ってオフィススペースに改装し、入居している(NDSMワーフで改装作業し、再びDe Ceuvelに運んだ)。ボートは、処理するには費用がかかるからと元の持ち主たちから、ほとんど無料で入手したという。2013年に整備を始め、2014年に開園した。

もう1つユニークなのは、長年、造船所だったために油や重金属などでひどく汚染されていたこの場所を、「ファイトレメディエーション」という方法でクリーンにしている点だ。ファイトレメディエーションとは、土壌や水に特定の植物を植え、植物が汚染物質を吸収、蓄積、代謝、分解して、汚染物質が除去される環境修復技術だ。現在、約400種類の重金属高蓄積植物が発見されていて、環境修復の現場で使われているという。汚染土壌はクリーンな土と混ぜてどこかで使われるのが普通だが、De Ceuvelでは、それでは問題が残されたままだと、ファイトレメディエーションを取り入れた。

市民が、いつでも楽しめる場所

De Ceuvelのエコな工夫は、至るところにある。汚染した土壌のため土中の排水配管が無理で、オフィス(各ボート)のトイレは水洗式でなく、排泄物をコンポスト化している。オフィスの電力は、園内に設置したソーラーパネルによる再生可能エネルギーが使われている。ヒートポンプも設置し、大気中の熱を取り込んで利用している。使用した紙、ガラス、プラスチックなどは、もちろん回収している。オフィス内には入れないが、間をぬうようにして作られた木製の通路は、自由に歩いていい。

ここに来たなら、やはり、カフェ「Café de Ceuvel」で一息つきたい。近くにあった80年以上経った古い杭など、建築材は、ほとんどアップサイクル品というカフェは、どの席でもくつろげる。カフェは、食材選びもサスティナビリティの面で徹底している。園内のグリーンハウスで育てたハーブを使ったり、近くの畑で25人のボランティアがカフェのために様々な有機野菜を作ったり、カフェでなぜ既成のソフトドリンクを提供する必要があるのかと、ニワトコ風味、ショウガレモン風味といったソフトドリンクを手作りしている。

料理は、ほぼ100%ベジタリアンだ。肉料理は2018年から出し始めた。これも特別な肉で、スキポール空港付近に住んでいる野生のガチョウの肉だ。空港で飛行機に巻き込まれるガチョウが多く、安全確保のため撃ち落としている。そこで、De Ceuvelのように、この望まれない動物を料理に使おうというレストランが出てきたのだ。

De Ceuvelでは、イベントが目白押し。ヨガ教室、衣類交換、ボイストレーニング講座、コンサート開催、農産物の直販売(事前に野菜、果物、乳製品、ハチミツなどを注文し、農家たちがやってくる日に受け取りに行く)など、市民が気軽に足を運び、楽しめる場になっている。

また、De Ceuvel内には、ハウスボートのホテル「Hotel Asile Flottant」もある(ホテル運営は独立)。ボートは6台、公園の雰囲気と違い、少し高級感のある内装のこのホテルに泊まるのも、よい思い出になるかもしれない。

草木の手入れは、ボランティアが行う 

園内の草木は、とてもよく成長し、定期的に手入れしないと伸び放題になるほど。「大きい木数本を除いて、すべて公園を作り始めた5年前から育てました。ここまで、よく育ちましたね」とは、スタッフのアンケさん。伸び過ぎた枝葉を切ったり、草の丈を短くしたりする作業は、真冬以外の3月から11月まで毎月1回(約3時間半)、無償ボランティアを募っている。はたして毎月人が集まるものかと思ったら、「毎回7、8人が来てくれます。この作業が好きで、頻繁に来る方もいます。みなさんのバックグラウンドは様々ですが、働いている方も多いです」と教えてくれた。

アムステルダムに滞在する期間に、ちょうど、ボランティアの日が重なり参加してみた。その日、集まったのは、男性2人と筆者のほか女性6人だった。オランダ人が多かったが、アムステルダムで働いている国外出身者もいた。数度目の参加が数人、「1度参加して、とても楽しかったから」という人が1人、数人が以前コンサートで公園を訪れたりカフェでお茶を飲んだことがあり、「ぜひ1度ボランティアに参加してみたかった」と申し込んだ人たちだった。

仕事は2種類あった。枝や草を切る仕事と球根を植える仕事だ。枝や草は茂り過ぎて視界が悪くなっていたり、通路まで伸びてきて通りづらくなったりしている箇所を切る。球根は、今回は秋植えで春に開花するチューリップ、クロッカス、スイセンなどだった。花を育てるのは美観のためでもあり、ミツバチが来るようにするためだ。

「ミツバチもそうですが、ほかの昆虫やカタツムリもいます。鳥もたくさん飛んでくるようになっています」(アンケさん)。その言葉通り、作業中に昆虫やカタツムリ、ハクチョウを見かけた。

草木は、ガマ科、イネ科、ヤナギ科、アブラナ科、根が地中5~10メートルにも達するムラサキウマゴヤシなど、取り混ぜて育てている。種類によって、汚染水の汚染物質を根から吸収して根に蓄積するのか、根から茎・枝・葉へと移動するのかは異なるという。育った草木に本当に汚染物質が吸収されているかどうかは、調査を続けている。数年前からは、土壌から自然に生えてきた植物も見られるようになった。

草木を切り、切ったものを回収し、土に穴を掘って球根を植える。初めのうちは、作業量はさほどではないように思えたが、少しずつ移動しながら隅々まで目を配ると、切り落とす茎や枝はたくさんあった。そして、園内全体を整えたころで終了。共同作業は、自分も含めた市民の憩いの場を自分たちで作っているという実感をもたらしたに違いない。

こんなふうに変わった体験ができるDe Ceuvelは、面白い。だが、アンケさんは「公園は将来、市に返還する予定です。継続することはないと思います。おそらく、ここには住居が建つでしょう」と言う。実は、この場所の使用は10年間という期限付きだ。汚染した土壌エリアを再開発するため、アムステルダム市が募ったアイデアコンペで選ばれた一時的なプロジェクトなのだ。

しかし、たとえなくなってしまっても、De Ceuvelのコンセプトは、同市やオランダのほかの都市でもきっと実践されていくだろう。
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De Ceuvel   
Korte Papaverweg

2 t/m 6, 1032 KB Amsterdam

開園時間:火曜~日曜の午前11時から(詳しくはサイト参照)。月曜は閉園。
アクセス:行き方は2通り。①アムステルダム中央駅裏のフェリー乗り場から、無料フェリーで対岸のNDSMワーフへ。ここから徒歩で行かない場合は、バス停Amsterdam Klaprozenwegから391番か394番に乗って2つ目のバス停Amsterdam Mospleinで下車後、De Ceuvelまで歩く。②アムステルダム中央駅からバスで行くことも可。同じくAmsterdam Mospleinで下車後、歩く。

カフェは、ランチは数人なら予約なしでOK、5人以上なら予約したほうがベター。夕食時は込み合うため、予約した方がいい。詳しくはこちらへ。  https://deceuvel.nl/en/cafe/cafe-home/#reserveren 

草木の手入れのボランティアは、サイトの「EVENTS」にお知らせが掲載されるので、参加希望(名前と人数を明記)を事前にメールで知らせること。また、Booking.comでも募集を掲載するとのことで、Booking.com経由でも申し込める。

岩澤里美

ライター、エッセイスト | スイス・チューリヒ(ドイツ語圏)在住。
イギリスの大学院で学び、2001年にチーズとアルプスの現在の地へ。
共同通信のチューリヒ通信員として活動したのち、フリーランスで執筆を始める。
ヨーロッパ各地での取材を続け、ファーストクラス機内誌、ビジネス系雑誌/サイト、旬のカルチャーをとらえたサイトなどで連載多数。
おうちごはん好きな家族のために料理にも励んでいる。
HP https://www.satomi-iwasawa.com/