ネパールのカトマンズ盆地は、周りを標高5000メートル級の山に囲まれた、4000年前までは湖だったという土地だ。「Kathmandu Valley (カトマンズの渓谷)」は世界遺産に登録されていて、7つの個別の遺産で構成されている。その中でもカトマンズ、パタン、バクタプールは、かつてそれぞれの王朝があった古都で、いまでも残る王宮などの建物と広場はいかにもネパールといった雰囲気だ。

さて、カトマンズはモンスーン気候で、東京と比べると似たような気候だが冬の期間は多少暖かく、夏は雨季で雨が多い。秋の初めに、カトマンズ、すぐ南のパタン、カトマンズ中心部からから東へ18㎞ほどのバクタプール、そしてさらにその先の静かな村バウナティを訪れた。

多民族国家のネパールの魅力

カトマンズの街を歩いていると、様々な民族の顔立ちをした人たちがいて驚かされる。ネパールには93の異なる言語・地域語を持っている100以上の民族が住んでいるそうだ。カトマンズは都会ということもあって、インド系、中央アジアに住むヨーロッパ系、モンゴル系、チベット系、東南アジア系、中華系といったルーツを持つ人も多い。

パタンに向かうバスでは、様々な顔立ちの人たちがぎゅぎゅう詰めになっていた。日本人のような顔立ちの人もいるので、特に目立つこともない。狭い車内なので、身体が密着するが、それも当たり前のようで、皆淡々と乗り降りしていた。そんな中にいることが、なんだか気持ちがいい。いろいろでいいんだなと、そしてそれが当たり前なんだと自然に多様性を受け入れることができる。

バクタプール・ダルバール広場で思うマッラ王朝のこと

バクタプールにマッラ朝が生まれたのは13世紀、15世紀なるとカトマンズ・マッラ朝が分裂、17世紀にはパタン・マッラ朝が分裂して三王朝時代になった。三王朝の3つの中でも、バクタプールは特に古い。そしてその中心に位置するのがバクタプール・ダルバート広場だ。ちなみに「ダルバール」はネパール語で「宮廷」・「王宮」と言った意味。だから「ダルバート広場」は、カトマンズにも、パタンにもある。

バクタプールの王宮広場にはレンガが美しく敷き詰められ、歴史を感じさせる王宮やヒンズー教寺院の建物が取り囲んでいる。すぐそばにはナタボラ寺院の五重塔がそびえる。この日は地元の小学生たちが遠足で来ていた。バクタプールも2015年の大地震の被害を免れなかったが、この五重塔には被害がなかったそうだ。

3つの古都の中でも、バクタプールはとても静かで落ち着いた雰囲気だ。カトマンズは忙しい街だし、パタンはカトマンズに近いこともあって、それなりに騒々しい。バクタプールはまた陶芸の街でもある。土と火を使う職人たちが黙々と作業する姿があちこちで見られる。土産物屋などもあるが客引きがなく、静かに眺めて回ることができる。

山間の村でローカルな料理をいただく

バクタプールから南東に20㎞ほどに位置するパナウティは、プンヤマタ川の河畔の小さな村で、川沿いでは鴨が放し飼いにされている姿が印象的だ。

歩いていると米屋があった。釜に火を焚いて米を乾燥させて潰していた。これは「チウラ」と呼ばれて、普通におかずと一緒に食べる主食だ。食感はコーンフレークのようだ。

そんな村に住む、サインジェさんのお宅に伺った。ローカルな食事を作ってくれるという。到着すると明るく広いキッチンで腕を振るっていた。屋上にはハーブやスパイスが栽培されていて、大量のニンニクが軒下に吊るされている。

野菜中心のカレー料理とお母さんの優しさ

フライパンで作ってくれていたのは、様々な野菜を使った数種のカレー。「タルカリ」という。カレーと言ってもインドのものや日本のものとも異なり、生の唐辛子、ターメリック、クミンといった香辛料を使って野菜を炒めたもの。確かに辛く、いわゆるカレーの香りがするが、煮込まないのでフレッシュな食感に仕上がっている。ゴーヤ、茄子、オクラ、えだまめ、さやえんどう、しし唐、じゃがいも、カボチャなどを組み合わせて、少しずつ違った味わいに仕上げてくれた。

「ダル」はレンズマメを使ったカレースープ。盛ったバスマティ米を炊いたものにかけて、薄く焼いたパパダンというせんべいのようなものと一緒に、タルカリをとりながら食べる。添えられたトマトとチリのソースが、爽やかさとさらなる辛さを加えてくれて、飽きることがない。

こういった料理は「ダル・バート・タルカリ」と呼ばれる。「バート」はご飯という意味だ。お母さんに「たまごやきも食べる?」と聞かれた。普段は動物性のものはあまり食べないのだそうだが、この日は特別。もちろん作っていただいた。

それにしても、何もかもがおいしい。シンプルで、食材の味がわかる。食べていると、お母さんが、ご飯は足りているか、好きなものがあればもっと取ろうかと優しく声をかけてくれる。これはネパールのお母さんの典型的な行動らしい。それがまた嬉しくて、さらにおいしく感じられるのだ。

世界遺産登録候補のパナウティ

こんな素朴で、昔からの生活も垣間見れるパナウティ。古くからの寺院も、鴨を飼うという風景もあって、世界遺産登録の候補リストに入っているそうだ。カトマンズでネパールならではの喧騒を楽しんで、郊外のバクタプールの古都で散策、そして地元の生活に触れるために、さらに山間の村に足を運んでみるといった一日を過ごせば、ネパールの多様な文化と人々に触れることができる。

今回お世話になったのはカトマンズのRoyal Mountain Travel-Nepal。トレッキングから日帰りのカルチャーツアーまで、様々なプログラムを提供している。

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All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/