人口23万人ほどのフランスの都市、リールに出かけた。ヨーロッパ西部の地図をあらためて見てみると、フランスは意外に縦に長いと気づくだろう。そして、北側に向かってとんがった形をしている。北から西側に英仏海峡、大西洋に向かってビスケー湾、南にはスペインとの間にピレネー山脈と地中海、東側から北の先端までの間は、南からイタリア、スイス、ドイツ、ルクセンブルク、ベルギーと国境を接している。リールはこの北にとんがったあたりにある。パリからは高速鉄道で約1時間。車で1時間も走ればベルギーとの国境を超える。

フレンチフライはおやつ、フリカデレ

リールの中心、女神の柱があるシャルル・ドゴール広場に面したグランプラスにあるFriterie Meunierは、2018年にオープンしたフライドポテトの専門店だ。40年ほど前まで、この広場の周りには多くのフレンチフライの店があったがしばらくなかったのだという。「ノーザン・フライドポテト」、北の地域のフレンチフライは、表面がカリッとして中をふんわりと仕上げることがその特徴で、この店のポテトもまさにノーザン・フライドポテトだ。

大中小の他に特大の1kgというサイズもあって、マヨネーズかチーズソースで食べる。午後3時ごろの店内はおやつにポテトを食べる人たちで賑わっていた。ポテトの他にはコロッケやチキンのフライもあるが、Frecadelle フリカデレという皮なしソーセージもうまい。フランス北部、ベルギー、ドイツといったビール圏でよく食べられているらしい。塩気が効いていてしっかりとした食べ応えだ。フリカデレが、ポテトの付け合わせと言った位置づけで、あくまでもポテトが主役のようだった。

ちなみになぜフレンチフライというのかは未だに謎で、ベルギー人たちは自分たちが発祥で、たまたま「フレンチ」と名付けただけだとか、スペイン人が南米からトマトなどの用のヨーロッパに持ち帰ったジャガイモをフランスに広めたのが理由だといった諸説があるようだ。

Friterie Meunier 
 

リール近郊の街のローカルな小食堂へ

リール近郊のアレンヌ レ オーブールダンという小さな町へ、フランス北部のローカルな料理を食べに行くことにした。その店の名前は Estaminet Le Terrier。訳せば「巣穴小食堂」という意味で、ウサギの後ろ姿のロゴもかわいい。

一歩店に入ると、長いカウンターには地元の人たちがグラスを手に、ビールやワインを飲んでいる。フランスと言えば、スペイン、イタリアに並ぶ世界的なワインの生産地でフランス国内ならボルドーが一大産地だ。一方ビールと言えばドイツ、イギリス、それに最近ビール文化が世界文化遺産に登録されたベルギーが思い浮かぶが、フランス北部一帯もビールづくりが盛んな土地柄で、この辺りではクラフトビールの醸造も盛だという。その日のメニューは黒板に書き出されていた。奥のテーブル席には女性客のグループが陣取って、なにやらワイワイと賑やかで楽しそうだ。

骨髄のグリルから内臓肉のソーセージ、名前が不思議なWelshなど

リール在住の友人に任せてオーダーした料理は5種類。いずれもこの辺りでは人気の郷土料理だという。

オーブンで焼いた骨髄をパンにのせて食べるのが前菜

大きな皿にドンと載った二つに割った牛の背骨。そこには白いゼラチン質の骨髄が入っている。オーブンで焼いたものをトーストにのせて食べる。パンはフランスパンではなくトーストにするような一般的なパンだ。スプーンでとってパンに乗せる。食べてみるとプルっとしていながらも、すこしザラっとした食感がある。脂質があるのでパンに少し浸みていてまたおいしい。独特な臭みなどがあるわけでなく、あっさりとしていて食べやすく、複雑な味付けもなく塩・コショウを振っただけのようで、シンプルで優しい味だ。

内臓肉を使ったソーセージ

「アンドゥイエット」はソーセージの一種だが、使われているのは豚や牛の様々なパーツの内臓肉で、しかもかなりの粗挽きだ。これを炭火でこんがり焼いたものをいただく。新鮮な材料を使っているのだろう、また香辛料の効果もあって、内臓肉の臭みはない。アンドゥリエットの品質は協会によって管理されていて、店頭で買うのならAAAAAというマークが付されているものを選ぶといいらしい。

牛の膵臓肉のチーズ煮込み

こちらも内臓料理で、名前はアン オゥ マロワル。使っている肉は仔牛なら「リードボー」という部位、また日本で食べる焼肉なら「シビレ」という部位なので、焼肉好きの方ならご存知だろう。これをフランス北部のマロワル村のマロワールチーズで煮こんでいる。このチーズはかなり濃厚な香りなので、こういった煮込みに合うそうだ。ふんわりとしてつるっとした食感がたのしい。

牛肉のビール煮込み

牛もも肉をビールでゆっくり煮込んだカルボナードは、柔らかく食べやすい。食べなれている部位なので、ある意味安心なのだが、ここまで内臓肉を食べてきてみると、なんとなく物足りない気がするのも事実だ。この料理はベルギーが発祥のようだが、この辺りでも人気。ベルギーも北フランスも、食の文化圏としてもとても近いのだと実感させられる。

La Welsh「ウェルシュ」というフランス料理

トーストの上にハムをのせ、チーズをたっぷり重ねて、一番上には目玉焼き。かなりボリューミーな一品だ。不思議なのはその名前「ウェルシュ」だ。聞いてみるとイギリスのウェールズという意味だという。そして、店の誰に聞いてもその理由はわからないのだった。

そういえばこの料理は、ポルトガル、ポルトの名物B級料理「フランセジーニャ」にそっくりだ。その名前の意味は「フランスの女の子」。もしかしたら、これがポルトガルに渡ったのかもしれない。しかし、もしかするとフランスのウェルシュもイギリスのウェールズから来たのかもしれないと、謎は深まるばかりだ。

関連記事:ポルトのボリューミーなB級グルメ:フランセジーニャ(フランスの女の子)

この小食堂のシェフはエディーさん。田舎料理とは言え、しっかりと洗練された味に仕上がっていて感動させられた。それにしてもどの料理にも必ずフレンチフライが添えられていたのには驚いた。

Estaminet Le Terrier

北フランスはベルギーに近く、共通した食も多い。また、ビール圏の一部でもあるので、ビールに合う料理も多く、ビールを使う料理もある。そして、イギリスとは英仏海峡を渡るフェリーが行き来し、ロンドンを出発するユーロスターはリールでベルギー方面とパリ方面に分かれるという交通の要衝だ。独特な食と、互いに影響を与え合う食文化が、こんなにはっきりと見て取れる場所は、世界にもなかなかないだろう。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/