ヨーロッパとアジアの間に位置するジョージア。西には黒海、北はロシア、南はアルメニアとトルコ、東はアゼルバイジャンと接していて古くから交易の要衝だった土地だ。ジョージアはアルメニア、アゼルバイジャンと共にコーカサス三か国とも呼ばれる。ロシアとの国境は大コーカサス山脈が壁のように迫り、北からの冷気を遮断していて、西の黒海からは湿潤な空気が流れ込むので、ワインづくりに適した気候がそこにあったのだ。

このワイン発祥の地でブドウが栽培され、ワインが醸造されるようになったのは今から8000年も前のことだという。それ以来変わらぬ製法で作られているジョージアのワイン。ジョージアで最もワインづくりが盛んな、東部に位置するカヘティ地方のワイナリーを訪れた。ジョージアの人々の信仰と、首都トビリシにある独特なワイン販売店と共に紹介する。

ジョージア人の信仰と生活

ジョージアの人々のほとんどがジョージア正教会の信徒だという。正教会はキリスト教の一派で東方正教会とも言われ、キリスト教が生まれた中近東、ギリシャ、東欧そしてロシアに拡大した。正教会は各国ごとに組織化されているが、その信じるところは同じ。日本にも日本正教会が存在する。首都トビリシを北から南東へと流れるクラ川東岸の丘の上にはグルジア正教のサメバ大聖堂が建つ。旧ソビエト連邦時代に禁じられていたジョージア正教への信仰が復活した後、1995年から9年をかけて完成したという。

紀元前4世紀から3世紀にかけて首都だったムツヘタは、トビリシから北へ20㎞ほどの距離にある古都で、世界遺産である「ムツヘタの文化財群」がある。その一つスベティツホヴェリ大聖堂は首都移転後も長い間、ジョージア正教の最高位の聖職者である総主教がいたジョージア最古の聖堂であり、今でも信仰の中心だという。

ジワリ修道院はムツヘタの街を見下ろす丘の上にある。4世紀に女性の伝統者ニノが十字架を立てたのが始まりと言われている。訪れた日は日曜日。信者が集まって修道士たちと共に祈りがささげられていた。修道士の祈祷の言葉からの流れから、信者たちが一緒にチャント(唱和)を謳い始め、静かな石造りの修道院を満たしていく。このチャントはジョージアンチャントと呼ばれるもので複雑な多声のコーラスだが、近隣から集まった一般の信者たちが美しいハーモニーを醸し出すのには驚かされた。

地面に埋めた壺で醸造するワイン

カヘティ地方の伝統的なワインづくりは他の国のワイン製法とは全く異なる。いくつか回ったワイナリーの一つChateau Babaneurの半地下になっている醸造所には床に丸い穴が開いていた。その穴がクヴェヴリというワインづくりのための壺の口の部分だ。その大きさは人がはいって掃除するほど。サツナヘリという絞り桶でブドウを絞り、果汁と搾りかすも樋を使ってクヴェヴリに入れ、発酵に20日から25日、時には40日をかけた後に密閉されて1年ほど熟成される。

ジョージア国家ワイン庁の資料によれば、この地方で作られるワインは「フェノール化合物やタンニンの豊富さ、心地用ブーケ、品種ごとに異なる個性的なアロマと味わいなどが特徴的」だという。赤ワインは芳醇で奥行きが感じられて、ながらどれも独特な香りを楽しめる。ナパレウリという品種で作られた白ワインは辛口でスッキリしていながらも、野に咲く花をイメージさせる香りが魅力的で金色に輝く色合いも美しい。

トビリシに戻り地産食材のArgohubへ

トビリシ市内に戻って、地産地消をコンセプトとして2016年に開店したArgohubというマーケットに出かけた。近隣から届く新鮮な野菜や果物、ヨーグルトやチーズをはじめとする乳製品、肉や加工品など見るからに新鮮な食材が並ぶ。惣菜も豊富で、イートインコーナーでは地元の客たちがランチを楽しんでいた。その地下にあるのがワイン専門店Alcorium Agrohubだ。

ボトルワインが棚に並ぶ様子はごく一般的だが、同じフロアにステインレスのタンクが8機ほど並んでいる。そこにはそれぞれに異なるワインが入っていて、どれでもテイスティングすることができる。もちろん全てジョージアのワインで、ゆっくりと好みのものを探すことができる。気に入ったものがあれば、ワインボトルの形をしたプラスチックの容器にラベルを張って樽から直接詰めてくれる。新鮮だし、持ち帰るのに重くないのもいい。フロアには大きなヤカンのようなものが置いてあった。これはワインを作り終えて残った皮などからChachaをつくる蒸留器だ。(ここでは実際には作ってはいない)。

さて、市内にあるフランス系のスーパーマーケットに出かけてみると、そのChachaのテイスティングをやっていた。Chachaはグルジアウォッカとも呼ばれていて、アルコール度数は40度を超える。口に含めばブドウの香りと共に強いアルコールにカッとする。また、ここではビールもテイスティングをしてボトルに詰めて販売されていた。

ジョージアワイン庁は今年のゴールデンウィークには東京でジョージアワインを紹介し販売もするイベントを開催した。ジョージアワインは「おいしいと噂になっている」といった程度の認知度かもしれないが、これから日本でもさらに口にする機会が増えてくるだろう。見つけたらぜひ試してみてほしい。

All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/