ミャンマーは宝石の国だ。
ルビーやサファイアに加え、貴石に分類される翡翠やペリドット、ラピスラズリ、ガーネットなど様々な石を産出する。とりわけルビーの産出量と品質は世界的に突出。「ピジョンブラッド」の名で知られる、透明度が高い深紅のルビーのほとんどはミャンマーで採れており、なかでも有名なのがモゴックだ。この町を「ルビーランド」と呼ぶ人もいる。
そのモゴックは、2018年9月から外国人も旅行できるようになった。
モゴック観光は許可を取ってから
モゴックはミャンマーの財政に大きく貢献する鉱山を擁する町だけに、政府は外国人の訪問を厳しく制限してきた。時代によって入境条件は異なったが、ここ数年はミャンマー人にさえ入ることを禁じていた。それが突如の解禁。許可を取れば外国人も行けるようになった。鉱床が薄くなってきたため、政府が観光業への転換を図ることにしたのだ。
とはいえ、外国人が訪問するための道はまだまだ険しい。在ミャンマーの旅行会社などを通じて、マンダレーの役所で事前に許可を取らねばならない。その際、日程表や訪問者のパスポート情報、政府公認ガイドや移動車両の事前登録、ホテルの予約確認書などが必要で、自由旅行で気軽に、というわけにはまだいかない。
モゴック旅行への起点はマンダレー。移動手段は、マンダレーから片道約6時間の車のみ。道路は舗装してあり比較的まともだが、途中に大きな町はないので、ローカル食堂での食事に不安のある人は弁当を持参した方がよいだろう。
また、入境の際にはパスポートのコピーを提出する必要があるので、顔写真の入ったページとVISAのページは、あらかじめ何枚かコピーとって持参することをすすめる。入境ポイントにはコピー機はなく、何十キロも戻るはめになるからだ。
町のたたずまいもフォトジェニック
モゴックの町は、西モゴックと東モゴックの2つに分かれている。マンダレーから向かうと最初に入るのは西モゴック。町の入口で訪問者を小さな湖が迎えるが、これこそが鉱山。宝石を掘った跡が湖となるのだ。
観光の中心は東モゴックの方。こちらも中心に位置するのは採掘湖で、この湖をすり鉢状に山々が囲む。宝石で名を馳せているが、坂道と階段が彩る町の風情も得難い風景だ。
モゴックの家々はその多くが木造で、暗い赤色に塗ってある。朝もやの中、赤茶けた家並みの前をオレンジの袈裟をまとった托鉢僧侶の列や、色とりどりの花を担いだ花売りが通り過ぎる光景は、とても美しい。ぜひ、早朝に散歩してみてほしい。
モゴックといえば外せない宝石市場
モゴック観光のハイライトといえば、何と言っても宝石市場。宝石市場には、一般向けのマニミンガラー市場と、ブローカー向けのパンチャンタープエ市場の2つがある。前者は午前のみ、後者は午後のみ開く。
マニミンガラー市場では、体育館のようなだだっ広い建物の中に並んだ机で、おもに裸石を売っている。ほとんどの店が扱うのは観光客向けのくず石や、加工するほどでもないルビーやサファイヤの原石だ。モゴックでは、大理石の中に入り込んでいる石を直接取り出す硬岩採掘という方法をとる高山も多いが、石を含んだ大理石のまま売っているのが珍しい。書類押さえなどに使えそうだ。
ただし、ミャンマーで外国人が宝石を国外へ持ち出す場合、指輪やペンダントトップなどに加工済みの石で、政府公認の店で買った証明書が付いていなければならない。そのため、露店ばかりが並ぶこの市場で買ったものは日本へ持って帰れないのでご注意を。また、マンダレー空港は国内線と国際線が同じセキュリティチェックを通るため、ヤンゴンへ戻る在住者でも空路移動だと、税関で引っかかる場合がある。
モゴックならではのブローカー市場
対して、パンチャンタープエ市場はプロ仕様。市場にはパラソルを備えたテーブルセットが並び、暇そうな人たちがお茶を飲みながら歓談しているようにしか見えない。
しかしよく見ると、彼らはみんなミニライトを手にし、机の上には屈折計や偏光器がのっている。そしてひとたび宝石がもち込まれるとみんなでチェックしあったり、逆に買い手が現れると、手持ちの宝石を売り込みにつめかけるなど、興味深い光景を繰り広げる。
ブローカーは観光客にも売り込みに来るが、先述したようにここで売り買いする宝石は国外に持ち出せないものがほとんどなので、見学だけにとどめておいた方がよいかもしれない。
サファイアの中に聖地が見える!
モゴックでもうひとつ、ぜひ訪れてほしいのは、ファウンドーウーパゴダだ。宝石の町だけあり、どのパゴダにも住民から寄進を受けた宝石がたくさん飾ってあるが、ここの本尊下部の金製台座は格別。目もくらむばかりの大粒の宝石がこれでもかというほど散りばめてある。特に有名なのが、のぞく角度によってミャンマーの3大聖地のひとつ、ゴールデンロックが見えるという大きなサファイヤ。
ご本尊の裏手から見ることができるので、わからない場合はパゴダの係の人にたずねてみよう。
外国人の入境エリアはさらに拡大へ
2019年2月には、それまで外国人が入れなかったユワタヤー村エリアも解禁となった。モゴック中心部から北へ15kmほどのこの村には、モゴックをルビーランドへと変貌させたイギリス人鉱山師や第2次世界大戦で亡くなった兵士などが眠るイギリス人墓地がある。歴史に興味のない人にはどうということのないポイントではあるが、道中、大規模なペリドット鉱山を通る。
実は政府は、外国人がモゴックの宝石採掘現場へ入ることを禁じている。町のあちこちに採掘場はあるし、高台のパゴダといった眺望ポイントからは周囲の山肌にいくつもの鉱山を確認できるが、採掘しているところは見れないのだ。しかしこのイギリス人墓地近くの鉱山は、外から見ても採掘の様子が垣間見え、鉱山に興味のある人には一見の価値がある。
観光をモゴックの産業に育てる方針を政府が打ち出している以上、今後さらに外国人が観光できるエリアは広がるだろう。鉱山内部の見学もできるようになる可能性は高い。モゴックはいずれ、ミャンマーでも有数の観光地になることが予想される。「山と湖に囲まれた静かな宝石の町・モゴック」を味わいたい人は、その前に訪問することをおすすめする。
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All photos by Maki Itasaka
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板坂真季 ITASAKA Maki
日本でのライター業を経て中国・上海やベトナム・ハノイなどで計7年間、現地の日本語情報誌の編集を務めるかたわら、日本の雑誌、書籍、webマガジンなどへ多数寄稿。各種ガイドブックの編集・執筆・撮影、取材コーディネート業にも従事。2014年よりヤンゴン在住。著書に『現地在住ライターが案内するミャンマー』(徳間書店)など。