フィリピンと日本人の間食に対する意識

日本人が一日に摂る食事の回数は、80%以上が3回、18%が2回で、合計98%という調査結果があった。2016年のものだから、2019年の今でもあまり変わっていないだろう。また、「2食以下」という回答が最も多かったのが30代男性で31%。女性の場合には16歳から29歳が26%だった。大まかには、年齢が高いほど3食しっかり摂っている人が多いということになる。

フィリピンに「Meryenda=メリエンダ」が持ち込まれたのはスペイン統治の時代。メリエンダは「間食」という意味だ。スペインでは午後3時頃に、特に子供たちが夕食までのつなぎにメリエンダを食べるという。その習慣が持ち込まれたフィリピンでは、人によっては朝食、昼食、夕食のメインの食事の他に、朝食前、午前中、午後、夕食後、寝る前の軽食と、合計すれば8回食べる人もいるのだという。

調べてみるとこのメリエンダ、「軽い食事」から単なる「スイーツ」まで様々で、日本人「食事」の定義とは少し異なるようだ。「間食」や「おやつ」といったほうがピンとくる。

前述とは異なる調査の結果ではあるが、「おやつを食べる習慣がある」日本人は49%であり、食後に甘いものを食べる習慣がある人の数は増加傾向にあるという。朝昼夜の3食に、午前と午後のおやつを加えれば、日本でも5回の食事と間食と言うことになる。

今回は、マニラの街を歩いて食べたメリエンダを紹介する。

人がいるところに屋台あり

メトロ・マニラのケソン市に住む料理家、イシさんの家を訪ねた。この辺りは主に住宅街だが、駅の出口そばには屋台がいくつか出ていた。時間は朝の11時前。一つはバナナのパンケーキの屋台で、もう一方は鶏とウズラの玉子に厚く生地を付けて揚げたものを売っている。こういった軽食を売る店は、マニラなら人が集まるところならどこにでもある。これもメリエンダの例だ。

主婦でもあり母でもあるイシさんの家では、ランチの後にスイーツをいただいた。一つはウベというタロイモの一種をつかったムースに、ココナッツを使ったタルトだった。自家製ということもあって、シンプルながら素材のおいしさがよくわかる。聞いてみればやはり、フィリピンの食卓にはいつでもなにかスィーツが並ぶのだという。自家製のものでも、スーパーから買ったものでも。

1936年創業のファミレス「アリストクラット」

主婦であるローラ・アシアンが自宅の1階を改造してアリストクラットの前身となる食堂をオープンしたのが1928年。1936年にはフィリピンの国民的料理「アドボ」(肉、魚などを使った煮込み料理)をサンドウィッチにして売ったところ大ヒットし、1940年にはフードトラックでの販売も始める。1945年にはチキンバーベキューをメニューに加えて更にその人気が拡大、いまではマニラ近郊に10数件の店舗を展開している。

マニラ湾近くの店舗に行ってみた。広いフロアに、シンプルなインテリア。ファミリーレストランのような作りだ。メニューを見るとメリエンダのセクションがあった。

Bibingka=ビビンカは米のパンケーキ。バナナの葉に乗せられたビビンカはふっくらと焼き上げられていながら、モチモチの食感。シロップがかけられた上に、塩気のあるシュレッドされたチーズが乗っているので、甘しょっぱさが後を引く。添えられたココナッツロングと合わせて食べると、爽やかな味わいになって、その味の変化が楽しい。

Dinuguan=ディナガランは牛肉の煮込みなのだが、その煮込みのベースには豚の血を使っている。とはいっても鉄っぽいような血の味がすることはなく、コクがあっておいしい。一緒に食べるのが卓球の球より少し小さいPuto=プトという米粉を使った小さな蒸しパン。ディナガランに入れて一緒に食べる。

Halohalo=ハロハロは、夏になると日本でもコンビニエンスストアチェーンで販売されるので食べたことがある人も多いだろう。ハロハロとはタガログ語で「混ぜこぜ」という意味で、色とりどりのゼリーに、かき氷を重ね、紫色のウベのアイスクリームが乗っている。

他にも、牛の内臓を入れたお粥、春巻きなどの伝統的なメリエンダに加え、様々なサンドウィッチやハンバーガーが軽食として提供されている。時間はちょうど朝の10時ごろ。周りのテーブルを見まわせば、客たちは皆それぞれにメリエンダを楽しんでいた。

マーケットのSuman=スマン

メトロ・マニラのマカティ市は高層ビルが立ち並ぶビジネス・ディストリクトで、外資系企業も多く、高級なマンションも多い。毎週日曜日には広い駐車場でマーケットが開かれ、様々な料理、食材、クラフトなどの露店が並ぶ。そこには様々なスマンを売る店も出ていた。スマンはバナナの葉で包んだもち米を蒸したもの。日本のちまきに似ている。近隣の住人と思われる人たちが袋一杯にスマンを持ち帰っている。小さなものを買ってみると、米はおはぎのようで、ウベのペーストとココナッツのクリームの甘さもちょうどいい。

フィリピンのファーストフードチェーン「Jollibee」

マニラの中心部を歩いていると、どこにでも目に入ってくるといってもいいのがジョリービー(Jollibee)という、フィリピンオリジナルのファーストフード店のコック帽をかぶった蜂のキャラクターだ。入ってみると、ハンバーガーやポテトの他にも、ハンバーガーにグレービーをかけたものにライスといった、定食のようなメニューもある。ウベのペーストをパイ生地に包んであげた「ウベパイ」と一緒にオーダーした。これもメリエンダの一つだ。

街を歩いてると、高校生たちが記念写真を撮っていたり、子供たちがバスケットボールで遊んでいるところに出くわした。どこでも若い人たちが多い。フィリピンの人口ピラミッドは、高齢者のほうがとんがったきれいなピラミッド型で、若年層が多く60代以上は少ない。フィリピンはこれからどんな風に変わっていくのだろう。このメリエンダの文化は、いつまでも無くならないでほしいと思った。


All photos by Atsushi Ishiguro

調査からみえる日本人の食卓|NHK放送文化研究所

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/