雑貨ハンターの友人がヤンゴンへ遊びに来た5年前、友人は狂喜したものだった。
「ヤンゴンの雑貨の、このレトロ感がたまらない!」

しかしその後、民主化が進むとともに経済が発展し、機械生産による安価な雑貨が海外から続々と入って来るようになり、いまやヤンゴンのレトロ雑貨は絶滅の危機に瀕している。しかし探せばまだ、ローカル商店の片隅には眠っているし、地方にならもっと残っている。とはいえ風前の灯なのには違いない。今回は、そんなミャンマーのレトロ雑貨の魅力と入手情報をお伝えしたい。

レトロ雑貨ファンのみなさん、できるだけ早くミャンマーへおいでください!

レトロ好きならパッケージに注目

ミャンマーのレトロ雑貨の何が楽しいといえば、一番はパッケージだ。

古いタイプの印刷機器が多く残るため、日本の昭和初期を思わせるレトロ感満載の装いの商品が、まだまだ店頭を飾る。パッケージには素朴なイラストが添えてあって写真はなく、使用している色数も限定的。印刷時の版のずれが大きすぎて文字が読めないものもあるが、ほどよくずれているものに出会えたときには「お宝発見!」の気分になる。

こうしたレトロ雑貨好きの心を鷲づかみにするパッケージを探すなら、狙い目は市場の個人商店。スーパーに並ばない家内工場の製品は、昔ながらのパッケージのままの場合が多いからだ。特に地方都市が楽しい。

かつてはレトロな逸品揃いだった文具

絶滅危惧雑貨のなかでも、もっとも危機に瀕しているのは文房具。ここ数年で、中国はもちろん、韓国やタイなどから続々とピカピカの“近代文具”が流入し、手作り感あふれるレトロ文具は駆逐されていく一方だ。

上の写真は、かつては文具店の店頭でよく見かけた罫線だけのメモ帳。いまや地方か、ヤンゴンならダウンタウンの古い文具店にある棚の片隅で時々発見できる程度。中の紙にビルマ文字の印刷が必要な帳簿類には、まだ若干、この手のものが残っているが、余命はわずかかもしれない。

こちらは竹の定規。ヤンゴンでは竹製定規は文具店の店頭からほぼ消えたが、マンダレー郊外の古都ミングオンでは、イラストを入れることで土産物として、逆に生産を伸ばしている。

玩具店の主役、ままごとセットがかわいい

玩具は比較的、昔ながらのものが残ってきた分野だ。ミャンマー特有の玩具はままごとセット。アルミ製と陶器製があり、中でもアルミ製はレトロ雑貨好きの心をくすぐる逸品だ。

冒頭に登場した雑貨ハンターによれば、チョコレートやちょっとしたおつまみを盛るのにも使えるという。

陶器製はこちら。祭りには必ずといっていいほど、この手の玩具の露店が出る。パゴダの参道で売っていることも多い。長くレトロものが優勢だったままごとセットだが、最近はとうとう中国製のプラスチック製品がシェアを伸ばし始めてしまった。

ヤンゴンのタン市場はレトロ食器の宝庫

食器もレトロなものが多く残る分野。日本女性に人気なのはホーロー食器だ。

ヤンゴンではタン市場に2軒だけ専門店が残るのみで、あとは各店のデッドストック頼み。しかし、ヤンゴン郊外や地方都市の市場にはまだまだ残る。しかしこれも「お早めに」とアドバイスしておきたい。

ポットもレトロ好きには人気だ。こちらもヤンゴンならタン市場が豊富にそろう。

また、ミャンマーならではなのが、プリント柄のガラス製ミニコップ。このサイズのコップはスピリッツ系の強い酒を飲むのに用いる国が多いが、ミャンマーでは仏壇に水を供えるのに使う仏具の扱いだ。そのため、小さな商店から大型スーパーマーケットまで広い範囲で手に入る。今回紹介する中では唯一、絶滅の心配のない雑貨といえる。

こうしたキッチン雑貨をヤンゴンで買うなら、前述のタン市場がベスト。通路いっぱいにせり出した商品で人が行き交うのも難しいほどの雑然ぶりだが、あなただけの掘り出し物が見つかるかもしれない。

正統派・骨董品店も忘れずに

当たり前のことだが、レトロ雑貨は骨董品店でも様々なものが手に入る。骨董品店はダウンタウンのボージョーアウンサン市場や、カバーエーパゴダ通りのシュエゴンダイン交差点からコッカイン交差点にかけてのエリアに何軒かが軒を連ねる。

個人的に気に入っているのは、植民地時代の看板だ。バーやカフェのレストランでもインテリアとして人気が出てきているので、価格は年々高騰している。

余談になるが、ミャンマーでは昨年から、前近代的だった郵便ポストを最新モデルに転換しはじめている。

古い郵便ポストがまた、いい感じにレトロ感を出している。骨董品市場に出回るのを待っているが、いまだ見かけたことがない。鉄クズとして捨てられているのだろうか。口惜しい……。どうか、骨董品市場に流してください、関係者の方々!そう願わずにはいられない。


All photos by Maki Itasaka

板坂真季  ITASAKA Maki

日本でのライター業を経て中国・上海やベトナム・ハノイなどで計7年間、現地の日本語情報誌の編集を務めるかたわら、日本の雑誌、書籍、webマガジンなどへ多数寄稿。各種ガイドブックの編集・執筆・撮影、取材コーディネート業にも従事。2014年よりヤンゴン在住。著書に『現地在住ライターが案内するミャンマー』(徳間書店)など。