粉を練って作る地元料理がある国は多い。アジアなら、なにはともあれ麺類だ。中華麺やうどんには小麦粉、春雨は大豆、ビーフンやフォーなら米粉。日本独特と言えばそば粉をつかった蕎麦ということになる。

さて、ヤンゴンはミャンマー第1の都市。しかしながら今は首都ではない。2006年に現在の首都ネピドーに移転したのだ。しかし、その後も経済の中心であることには変わりなく、400万人以上が暮らす大都市は活気に包まれている。

その中心にあるのは「シュエダゴン・パゴダ」だ。そのすぐ東には官庁街、さらに東にはビジネス街、西にはインド人街から中国人街、さらに港湾地区が広がる。この一帯には10階建て程度の古いビルが立ち並んでいて、人口も密集している。

ダザウンダイン祭りは釈迦を敬う祭り

11月の満月の頃になると、ミャンマー全土で、パゴダや仏像が、祭りを祝うローソクやランプ、ランタンの灯りで照らされる。ヤンゴンでは夜になると、商業施設が並ぶアノウラータロードが歩行者天国となって、食べ物や日用品の屋台が並ぶナイトマーケットが開かれ、移動遊園地も登場し盛り上がる。

グラグラと湯が沸いている鍋を囲んで椅子が並ぶ屋台があっちこっちに出ていた。客たちは串に刺さった肉をその湯につけて自分で茹で、チリソースをつけて食べている。これは豚の内臓肉。それほど長居することもなく、しかし客が次から次へと鍋を囲む。

もっと手軽なものなら、ひよこ豆の揚げ物がおいしい。ミャンマーのひよこ豆は日本で見るものよりも一回り小さくて柔らかい。また、タガメが山盛りに積まれていて目を奪われた。昔は日本でもたんぱく源として食用にされていたという。

朝食に国民的麺料理「モヒンガー」をローカルな店で

ミャンマーの国民的な麺料理と言われるモヒンガーを現地で食べるのが、この旅の目的の一つだ。

5日間続いた祭りの翌朝、ヤンゴンの街にはまるで何もなかったかのように、忙しい日常が戻っていた。モヒンガーを食べようと、かなりローカルな店に出かける。大通りから一歩入った道沿いにあるMyaungmya Daw Choは、通りにまでテーブルを出し、朝10時までモヒンガーだけを出す店だ。

シンプルな店内には、ごく自然に仏を祀っていたりして、いかにもミャンマーらしい。大鍋の中にはモヒンガーのスープが出来上がっていた。丼に米の茹でたコメの麺を入れ、ゆでたまごと豚の皮を揚げたものをのせてスープをかけ入れる。テーブルではお好みでチリフレーク、パクチー、レモンをトッピングする。

スープは濃厚な口当たりだがさっぱりとした風味。魚系の出汁だ。薄い豚の皮はカラっと揚がっていてくせもない。茹でおきされたコメの麺は柔らかく食べやすい。中華の魚粉をいれたお粥のように、おなかに優しい。

それにしても、どうやって作るものだろう。その翌日にミャンマー料理を教える教室に行くことにした。

NPOが運営する料理教室 Three Good Spoons

ヤンゴンの学生街「サンチャウン」の近くにある「Three Good Spoons」は、小さなビルの2階にあった。一般家庭のような雰囲気で気持ちいい。磨きこまれたキッチンには、インストラクターのケビンさんとスタッフが待っていた。ケビンさんは25年以上もの間、ヤンゴンのアメリカ大使館のシェフとして勤めあげ、今はこのNPO運営の料理教室でミャンマーの伝統料理を海外からの旅行客にも教えている。

Three Good Spoonsでは他にも、料理の基礎、ヨーロッパ・地中海料理なども学べ、地元の主婦、家政婦、ヘルパーなども訪れるという。料理のスキルを教え、家庭だけでなく飲食業界も対象にして、より栄養学に基づいた食事を作り、また衛生的な環境へ配慮でき、さらには周りの家庭に対するインフルエンサーになってもらいたいというビジョンで活動している。特に、ミャンマー女性が飲食業で正当な収入と環境を確保できるようにサポートするという。

モヒンガー作り

メインの料理がモヒンガー、その他にお茶の葉のサラダと、グリーントマトのサラダを作る。

まずは、川魚とレモングラスでゆっくりとだしを取る。ターメリックも入れる。この出汁がモヒンガーのキモだ。その間に、オニオンペーストを別の鍋で作るが、ニンニク・ショウガ、チリパウダー、パプリカ、ターメリックなどの香辛料を控えめ入れ、バナナの茎をすり鉢でよく潰したものも加えて、ピーナッツオイルで炒める。

魚の出汁が取れたら、魚を取り出し骨を取って細かくほぐし、オニオンペーストの鍋に取れた出汁と一緒にいれて煮たさせる。これでスープの出来上がりだ。

コメの麺は近くのマーケットで茹でたものを買ってきたという。日本人なら麺は茹でたてだろうと考えてしまうが、ミャンマーでは茹で麺を買うのは当たり前なのだそうだ。深皿に広げた麺にスープを注ぎ、パクチー、ゆでたまご、豚の皮を揚げたものをのせてライムを絞る。

市内の屋台で出されるモヒンガーは、「モヒンガースープの素」を使うのが普通で、面倒な魚の骨を取るといった作業が必要な伝統的なレシピで作ることはあまりないそうだ。なるほど、丁寧に作られた奥深い魚のクリアな出汁が、コクのあるオニオンペーストと一緒にスープになって、優しい食感の米の麺に絡んでおいしい。面倒くさがらずに基本のレシピに沿って調理することの大切さがよくわかる。

お茶の葉のサラダとグリーントマトのサラダ

モヒンガーはスパイスも控えめでマイルドだが、お茶の葉のサラダにはチリをきかせたほうがおいいしい。お茶の葉は酢漬けにしたものを水で戻したもので、ちょっと高菜に似ている。ピーナッツやカシューナッツをいれて、カリカリとしたテクスチャも楽しめ、干しエビの香りが全体を包む。

グリーントマトのサラダは一転すっきり。トマトと子玉ねぎが、ニンニクとチリ、ピーナッツオイルのドレッシングと黒ゴマのトッピングというシンプルな味付けで爽やかだ。

Three Good Spoonsのダイニングには、柔らかい光が入って気持ちがいい。ここで完成した料理をいただいた。

食の技術をローカルの人たち、特に女性たちに教えて、それによって経済的な自立を促していくというNPO。海外からの教室参加者が払う授業料もその活動に充てられている。この、皆が嬉しいエコシステムが素晴らしい。


All photos by Atsushi Ishiguro

Three Good Spoons

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/