常夏と言われるハワイにもきちんと四季はあり、その時期にしか咲かない花や植物も見られる。南国の花であるプルメリアやハイビスカスなどが満開になるのはもう少し先だが、実は1月下旬から2月にピークを迎える意外な花がある。

パイナップルの街に咲く桜

なんと温暖なハワイでも暖炉があり、煙突付きの家もあるワヒアワ。オアフ島中央にあるこの街は、標高約300mほどの高台に位置するため、比較的涼しい。そして桜は「冬」らしき気候を経験せずには咲かない性質を持っているので、12月に気温が下がるワヒアワは桜の開花に適しているそうだ。過去にワイキキにも桜を咲かせようと実験した試みもあったようだが、一年中気温の高いワイキキではどう工夫しても咲かないという。

ドールプランテーションのあるワヒアワは、早くからパイナップルやサトウキビプランテーションがあったため、かつては日系人労働者の多い街だった。しかし当時の労働者は、楽園での生活を夢見て移住してきたものの現実は過酷な労働の毎日。いつかまた故郷に帰りたいと願いつつもハワイで一生を終える人々も少なくなかったという。

故郷である日本を懐かしむ心は後の世代にも継承され、その象徴である桜が70年代に、ハワイ島に住む日系市民団体によって植えられた後、ワヒアワにもやってきた。ハワイで咲くのは日本のソメイヨシノとは異なる、寒緋桜または緋寒桜という種類である。元々は台湾で咲く、沖縄にも見られる暖かい土地の桜であり、濃いピンクはハワイの空によく似合う。咲き方も一気に咲いて散るのではなく、ポツリポツリと1月に咲き始め、2月まで3〜4週間に渡り楽しむ事が出来る。温暖なハワイで苗木を育てるには、根に氷を撒いたりと入念な手入れが必要であり、日本のような桜並木があるわけではない。主にカリフォルニア通り沿いのお寺や学校、民家などに点在しているので派手さはないものの、2月上旬には桜祭りが開催されるなど毎年話題となる。珍しいハワイの桜を一目見ようと、近年では観光客向けのお花見トロリーツアーも開催されているようだ。また、ワヒアワにもいつか桜並木を作りたいと、近年ハレマノ・プランテーションという施設に高知県のセンダイヤ桜の苗木が12本植えられ、成長が見守られている。

桜は単なる花ではなく日本人としての心の拠り所であり、日米友好のシンボルでもある。日本では、桜の開花に春の訪れを感じる人がほとんどだそうだ。ワヒアワでもそれは同じで、毎年開花を楽しみにしている日系人も多い。ハワイは土地柄、ワシントンの桜のようにはスムーズに育たないのが現状だそうだが、もっと本格的な桜並木をと今も試行錯誤が重ねられている。

海のイメージが先行するハワイだが、桜のみならず美しい山景色や亜熱帯の樹木もまたこの島の魅力の一つである。雨季が終盤に差し掛かり気温も少しずつ上がり始める春は、ハワイの大自然を身近に感じられる一風変わった植物園が見頃だ。

プルメリアの名所ココクレーター植物園

今頃からつぼみが付き始め、9月頃まで咲き乱れるプルメリア。世界でも珍しい、クレーター内に作られたこの植物園では、ハワイ最大のプルメリア並木に出会える。

100,000年前に噴火した火山によって出来たクレーターの3分の1を開発して造られたココクレーター植物園のサイズは、なんと東京ドーム約5個分。乾燥した土壌でも植物が育つように、最小限の水分で造園するゼリスケープという方法でホノルル州が管理している。1958年から始まったこのプロジェクト、2019年の今も増園中であり完成時期は未定らしい。ワイキキから東に向かい、ハイキングスポットで有名なココヘッドを過ぎ左折するとクレーター内に入ることが出来る。3キロ程のループになっており迷う事はないが、入り口の郵便受けに残っていれば地図が手に入るので、参考にすると歩きやすい。大人の足でゆっくり回って1時間弱のこのコース。ジョギングや散歩を楽しむローカルともすれ違う。

入るとまず、前述のプルメリア並木が目に飛び込んでくる。香水にもなるプルメリアは、5月の満開時には辺りが良い香りに包まれるそうだ。そしてプルメリア並木の先には、見事なブーゲンビリア。ブーゲンビリアは、筆者も色づいた部分が花であると思い込んでいたのだが、花のように見える部分は葉であり、中央の白い部分が花だそうだ。

鳥の声や風に揺れる木々の音に耳を済ませながら広大な園を歩いていると、パワースポットであるというのも納得出来る。ココクレーター植物園はレイラインと呼ばれる聖地の線が交差する場所に位置するので、植物がよく育つとハワイでは評判だ。

気持ちの良い木陰の道を過ぎると、突然視界が開けサボテンエリアが登場する。ハワイの山脈を背景にそびえ立つ多種多様なサボテン。撮影にも使われる事があるというのも頷ける別世界である。サボテンの他にも、多数見たこともないような奇妙な形の木々が乱立している。特に出口手前のパームツリーエリアは、オアフでも珍しいサイズの背の高いパームの景色が広がり、ハワイらしい写真が撮れる。

駐車場もあるので、レンタカーでハナウマ湾の帰りに寄るのもお勧め。バスで行く場合は23番でKealahou St降車。スタッフもおらず入園料無料のため気軽に訪れることが出来るが、広い園内は人影もまばらなので、必ず一人ではなく誰かと一緒に散策したい。また、売店も存在せず簡易トイレのみなので、出来れば水持参でお手洗も済ませておく事前準備が必要。

個人の庭から誕生した歴史あるフォスター植物園

ココクレーターと違い時間のない人でも気軽に寄れるのが、チャイナタウン外れにあるホノルル最古の植物園。緑の少ないダウンタウンにおいて、都会のオアシスのような存在である。他の植物園に比べ手入れが行き届き、カテゴリー別に見やすく整理されているので、ハワイでは一番日本人の「植物園」のイメージに近いかもしれない。150年に渡り集められた1万種以上の亜熱帯植物が植樹されており、世界一高いと言われるヤシの木や、色とりどりの蘭など見応えたっぷり。

今でこそガイドブックに載るフォスター植物園も、元々は小さな個人の庭園だった。1853年にカメハメハ三世の妻、カラマ王妃が、植物学者でもあったドイツ人医師に土地を貸したのをきっかけに発展。その後1884年にアメリカ人船長のフォスター夫妻が庭園を引き継ぎ、夫妻の死後の1930年にホノルル市に寄付され、今ではアメリカの文化遺産に登録されている。フォスター氏の妻メアリーが熱心な仏教徒だった影響で、園内には仏像や石灯篭などが点在し、日本庭園風の趣があるエリアも設けられている。中でも、日系移民100周年記念に神奈川県から寄付された大仏は圧巻。スケールこそ鎌倉高徳院の大仏の6分の1のレプリカと大きくはないが、日本とはまた違った風情のある光景が見られる。

また園内には記念碑があり、第二次世界大戦までここにあったハワイ初の日本人学校について記されている。そこには、1899年に開校したその学校は、真珠湾攻撃の際に砲弾が落ちて日曜学校に参加していた児童達が被弾したとあり、のどかな風景からは想像出来ない過去に心が痛む。

コンパクトながら、歴史と様々な絶滅危惧種を誇るフォスター植物園。漠然と見て歩くと見所がわかりにくいので、毎日10時半から始まる無料ツアーを利用すると効率良く廻れる。最寄りのバス停留所がない為、観光客はトロリーのレッドライン利用者が多い。

湖での釣りも人気のホオマルヒア植物園

運転できる人にお勧めなのが、コオラウ山脈の麓に広がるホオマルヒア植物園。植物園というより国立公園といった趣きの穴場スポットである。1.6平方キロメートルにも及ぶ広大なホオマルヒアには未だ手付かずの自然が残っており、文明が発達する前のハワイを想像させる雄大な山景色が堪能できる。

そもそもこの園は観光客や自然保護を意識して作られた他の植物園とは異なり、ダム開発をきっかけに併設されたもの。60年代に相次いだ大洪水をきっかけに洪水対策が検討され、貯水池としての湖が完成したようだ。この湖は今や植物園の中心的存在となり、湖を目指して20分ほど歩くなだらかなハイキングコースが人気だ。アサイやカカオなど南国を代表する植物が並ぶ入り口付近のエリアを抜けると、川のせせらぎと共に牧歌的な景色が広がる。ハワイ在住者でも訪れる度に息を飲むような美しさだ。ホオマルヒアとはハワイ語で平和と静穏の場所を意味し、その名の通り一度この地に足を踏み入れると心が落ち着いて来るのがわかる。

この湖は週末になると、ティラピアやコクチバスなどの淡水魚を釣るローカルや観光客で賑わう。週末の10時から2時の間に、入り口のビジターセンターで無料で竹竿をレンタルし、地図を貰い橋を渡るとダムの横で釣りができる。餌は販売していないのだが、食パンを針先に丸めたもので充分。キャッチアンドリリースなので食べることは出来ないが、大自然の中での釣りを気軽に楽しめるのはハワイでもここだけ。釣りも植物園の入場料も無料である。

まだ肌寒い日もあり、泳ぐのは躊躇する場合もある早春のハワイ。オフシーズンこそ、濃い緑が美しい「山ハワイ」を経験するのに最適な季節ではないだろうか。


All photos by Shizuka Ueno Reid

シズカ・ウエノ・リード
1996年に渡米。カリフォルニア州立工科大学を卒業後、グラフィックデザイナーとしてサンフランシスコとハワイで勤務。産後はハワイでカメラマンに転向し、ブライダルカメラマンの傍らフリーマガジンのライター/カメラマンとしても活動。
Instagram:paradisephotohi