ニューヨークには、生まれ育った国を離れて移住してきた人たちのために、母国の食を提供するレストランが数多くある。それぞれの母国の味を恋しく思う移民達を相手にする店が多いから、オリジナルの味のままであることが多いように思われる。とは言え、人口が密集するマンハッタンには、よりユニバーサルなアレンジをした店もあるし、一言では言い切れない多様性がある。

これまでニューヨークの食べ歩きスポットをいくつか紹介してきたが、今回はマンハッタンと、アジア系移民が多いクィーンズでアジア料理をご紹介しよう。(過去の記事はこちらから |移民たちのルーツの味:ニューヨークならではの食べ歩き、中南米料理 前編後編

チャイナタウンの実力|粥麺軒 Noodle Village

マンハッタンの南端から少し北に位置するチャイナタウン。Mott StreetとCanal Streetとの交差点のあたりが一番賑やかだ“「Welcome To Chinatown”の電飾と、中国風の鐘楼を乗せたビルが煌びやかで、かつ少し怪しげな雰囲気も醸し出している。

派手な電飾が続く Mott Streetから南へと進み、そろそろチャイナタウンも終わりかなというあたりにいくつもの人気の店が集まっているが、その中の一つが「粥麺軒 Noodle Village」だ。

この店で食べるべきは「ワンタン」。海老、豚肉、ピータンとキノコの3種のワンタンが入ったスープが絶品だ。それぞれ特徴のある大き目のサイズのワンタンが絶品なのは、香港からきたシェフ達が腕を振るっているからだ。小籠包ももちろん本格派。広東訛りの英語で話すウェイターが、「よかったらどうぞ」とサービスしてくれたのが、干した魚を戻したシンプルなまかないのスープ。メニューにもないもので、スタッフのために作ったものだという。そんな心遣いは、同じアジア人同士だからなのかもしれない。気が付けば店内には中華系の客ばかりだった。

粥麺軒 Noodle Village

カジュアルにアレンジされたカンボジア料理|Num Pang Kitchen

2009年に創業した「Nam Pang Kitchen」は、ニューヨークに7店舗、それに最近ではボストンにも出店した、かなりカジュアルなカンボジア料理の店だ。2016年にはZAGATの#1 First Casual に選ばれている。店内はカンボジアの雰囲気を出すこともなく、ポップながらも黒を基調にしたシンプルなデザイン。壁いっぱいの黒板に書かれたメニューやメッセージが楽しい。

アジアテイスト満載のサンドウィッチ、ボウル(丼物)、サラダ、スープなどがメニューに並ぶが、一番のおすすめはこの店名ともなっていて、カンボジア語でサンドウィッチという意味の「Num Pang」で、とくに「Five-Spice Glazed Pork Belly」(五香粉ベースのたれを使った豚バラ肉)だ。

20㎝程のバゲット風のパンに、グリルしたバラ肉とたっぷりの野菜、そこにピリ辛のシラチャー・ソースを好きなだけ。ベトナムのフォーがアメリカ全土で人気が出たように、カンボジアのNam Pangもこれからメジャーになってもおかしくないおいしさと手軽さだ。

Num Pang Kitchen

クィーンズはアジア系の移民が多い地域

クィーンズはニューヨークでも移民の数が多く、なかでもアジア系のコミュニティが目立つ地域だ。マンハッタンからならイーストリバーを渡ってすぐ。高層ビルは少なく、空が広い。

アート好きなら、MOMA PS1は見逃せない。マンハッタンのMOMA本体とアートに対する姿勢は同じものの、より実験的なアプローチをとっていて、若いアーティスたちの作品をいち早く楽しむことができる。もともと学校だった建物で、カフェは教室のまま。黒板や生徒用の机といすがカワイらしい。食べ歩きの休憩にもいい。

MOMA PS1 

世界一辛いブータン料理|Ema Datsi Restaurant

クィーンズはそもそもマンハッタンに通う人たちの住宅地でもあり、かなりのんびりとした雰囲気だ。そんな街並みのなかにポツンとあるのがブータン料理の店「Ema Datsi Restaurant」。迎えてくれた30代後半と思われる店主はブータン生まれ。日本のどこにでもいそうな顔つきで親近感があり和む。

牛乳にバターと菜っ葉の漬物が入ったスープはなかなかの組み合わせだが、優しい味でホッとする。干した牛肉と野菜、チーズを煮たものは、辛いといわれるブータン料理の中でもマイルドだというが、なかなかの辛さで軽く汗がでる。ジャガイモのカレーはアッサリとしているが、やはりしっかりとした辛味。青ネギと唐辛子を合わせたものが添えられて、これを加えてさらに辛さを増すこともできる。

しばらくすると、近所からふらっとやってきた雰囲気の家族連れがやってきた。彼らも言われなければ日本人と区別がつかない顔つきで、ブータンの言葉で、なにやら優しい声で話していた。

Bhutanese Ema Datsi

チベットの麺料理|Gakyizompe

クィーンズにはインド系の移民が特に多いのでインド料理の店も多いが、Gakyizompeはその北に位置するヒマラヤ料理の店。ネパールや、さらにその北のチベットの料理がメニューに並ぶ。

まずはネパールのモモ(日本で言う餃子のようなもの)を。モッチリとした皮で、スパイスの効いたジューシーな豚肉の餡が包まれている。これだけでも満腹になるほどのボリュームだ。そして、刀削麺のような、面積の広い麺が入っている牛肉のセントゥックが続く。数種のチリが準備されているものの、すでにしっかりと、かなりの辛みがついているので自分には不要だった。そして噴き出す汗。旨いが、まったく容赦のない辛さで、ネパール出身の家族が笑ってこちらを見ていた。

カウンターの奥にはダライ・ラマの肖像写真が飾られている。

Gakyizompe

日本に帰って作ったチベットのピンシャ

独立した国土がないチベット。今はインドやネパールに移住した人たちが多いが、ニューヨークにもコミュニティがあった。そんな人たちを思いながら作ったのが、チベットの春雨を使った料理ピンシャだ。さすがにセントゥックの麺はハードルが高いので。ピリッとした味に仕上げたつもりだったが、本場の辛さには到底及ばなかった。

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All photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/