「リヴィエラ」と聞くと、紺碧の海と降り注ぐ陽光が思い浮かぶ。海岸や湖岸を意味するイタリア語には、心弾む響きがある。イタリアン・リヴィエラはリグーリア海岸、フレンチ・リヴィエラはその延長上にあるコート・ダジュールの海岸だ。

「リヴィエラ」はほかにもある。フランス語圏スイス・ヴォー州、レマン湖畔の「モントルー・リヴィエラ」だ。スイスのリヴィエラでは、海原のように広大な湖の向こうに、雪を頂くアルプスの山々が屹立する。雄大な自然が織りなす風景の中に身を置くためだけに、出かける価値がある。モンブラン、 マッターホルン、 ユングフラウなど、アルプス山脈の主要峰へのアクセスも良い。

崇高なワイン「シャスラ」の産地

レマン湖は、今からおよそ1万年前、ローヌ氷河の流出によって生まれた氷河湖で、琵琶湖より少し小さい。湖の中ほどがフランスとスイスの国境だ。「モントルー・リヴィエラ」は、スイス側の湖畔の街モントルー、その西隣のワイン街ヴェヴェイ、ラヴォー地区と呼ばれる傾斜の急なぶどう畑が広がる湖岸地域一帯を指す。

レマン湖畔では、約1000年以上前からワインが造られていたという。12世紀以降、キリスト教の修道僧が、湖に面した急斜面を開墾し、石垣を組み、伽藍のような段々畑を造った。太陽と、太陽が湖に反射して得られる光と熱、石垣に蓄積される太陽熱の「3つの太陽」と、氷河が渓谷の岩石を削りながら形作った、モレーンと呼ばれる氷堆積土壌が、他に類のない崇高なワインを生み出してきた。修道僧の知恵と労働の結晶である壮大な段々畑は、高いところで40段に及ぶ。2007年には、ユネスコ世界遺産に認定された。

この地に適応し、多く栽培されているぶどうが白品種の「シャスラ」である。主にスイスで栽培されている品種で、ラヴォー地区産、中でもデザレーと呼ばれる最も急な区画のものは、スイスワインの最高峰と言われる。気品のある白い花の香り、白桃のようなみずみずしい香り、ハーバルでエレガントな風味、蜜のようなアクセント、心地よい余韻。自己主張しすぎないシャスラは、和食との相性が良く、近年、日本でも注目されるようになった。

段々畑でのぶどう栽培は重労働だ。機械化が困難なため、ほとんどが手作業となる。ラヴォー地区の高台の村、シェブールに小さなワイナリーを構えるピエール=リュック・レイヴラさんは、サン=サフォランの急斜面に計3ヘクタールの畑を持つ。冬には約3万本のぶどうの剪定をほぼ1人で行う。盆栽を手入れするかのような丁寧な仕事ぶりだ。その後も収穫まで、成長するぶどうを守り、世話をし続ける。急斜面の畑仕事は平坦な畑以上に人の手を必要とする。

ラヴォー地区のシャスラは、出来上がってから1年目くらいからが飲み頃だ。嬉しいことに、その後もかなり長い間、飲み頃であり続ける。10年、20年と貯蔵し、いつでも楽しむことができるのだ。ブルゴーニュの偉大なシャルドネ、ドイツの偉大なリースリングに匹敵する、高品質のワインなのである。

ラヴォー地区には、全長33キロメートルのウオーキング道が整備されており、世界遺産の畑を縫うように歩くことができる。シーズン中は、ラヴォー・エキスプレス、ラヴォー・パノラミックという観光用ミニトレインも走る。

モントルー・リヴィエラからジュネーブ方面を臨む ©️Junko Iwamoto

レマン湖の幸、ペルシュ

スイスといえばチーズフォンデュやラクレットを思い浮かべる人も多いだろう。ヴォー州ではグリュイエールやトム・ヴォードワーズなどが生産されている。いずれもシャスラとの相性は抜群だ。

モントルー・リヴィエラ地域でぜひ味わいたいのは、レマン湖で獲れる淡水魚ペルシュ(perche)だ。ヨーロピアンパーチという縦縞のある魚で、通常、開いてフライにし、レモンを絞って味わう。タルタルやカルパッチョ、軽い燻製にすることもある。

ペルシュの産卵期は春。1匹のメスが1~2万個の卵を産む。レストランでは、8か月から1年かけ、約200グラムくらいに達したものを扱うことが多い。レマン湖だけでなく、スイス各地の湖で獲れるほか、アルプスの清らかな水を確保し、生態系と環境に配慮しながら、ホルモン剤や抗生物質を一切使わずに養殖を行っている生産者もいる。

天然物は、レストランにより、1日10食くらいしか用意していない場合もあり、予約をしたほうが確実だ。

ペルシュのほか、オンブル・シュヴァリエ(omble chevalier)も現地ならではの食材。淡水魚の中で最も美味であると言われ、ムニエルやクリーム煮などにする。品の良いシャスラは、ペルシュやオンブル・シュヴァリエの良きパートナーだ。

ワイン・メトロポールとジャズ・シティ

伝統あるワイン街ヴェヴェイは、20年に一度開催されるワイン祭り「フェット・デ・ヴィニュロン(Fête des Vignerons)」で知られる。1797年に同地のワイン生産者組合が始めた大規模なイヴェントで、2016年にユネスコ無形文化遺産に登録された。今年はちょうど開催年にあたり、7月18日から8月11日まで、レマン湖のほとりの広場にスタジアムのような会場が設営され、ラヴォー地区のワイン文化をテーマとするスペクタクルを連日上演する。出演者は約5000人で、地元の醸造家有志も参加する。華麗なコスチュームで繰り広げられる演出は、カーニバルのような華やかさだ。ヴェヴェイのワイン生産者組合ミュージアムでは、過去の祭りの写真や資料を見学することもできる。

隣町のモントルーはジャズ・フェスティバルで世界的に有名だ。1967年にジャズオンリーで始まったが、現在ではジャズ、ブルース、ソウルのほか、ロック、ポップス、ワールドミュージックなど幅広いジャンルのミュージシャンを招き、毎年25万人の音楽ファンが訪れる。今年は第53回目に当たり、6月28日〜7月13日の開催だ。

レマン湖に魅せられた人々

モントルー・リヴィエラと、ジュネーヴへと至るレマン湖畔地域に魅せられ、移住したり、長期滞在した著名人は多い。19世紀にはロシア人作家 フョードル・ドストエフスキーやフランス人作家 ヴィクトル・ユーゴー、20世紀にはロシア人作曲家 イーゴリ・ストラヴィンスキー、スイス生まれの建築家 ル・コルビュジエ、米国人作家 アーネスト・ヘミングウエイと俳優のチャーリー・チャップリン、英国人女優 オードリー・ヘプバーン、英国のバンド、クイーンのヴォーカリスト、フレディ・マーキュリーなどが、この地で時を過ごした。

チャップリン邸「マノワール・ド・バン」では当時のインテリアも保存されている ©️Junko Iwamoto

ヴェヴェイには、チャーリー・チャップリンが晩年の24年間を暮らしたマノワール・ド・バンと呼ばれる屋敷があり、2016年にミュージアム「チャップリン・ワールド」がオープンした。
フレディ・マーキュリーが晩年に拠点としたモントルーにもクイーン・ミュージアム「The Studio Experience」がある。

モントルーの湖岸に立つ、フレディ・マーキュリーの像 ©Maude Rion


モントルー・ヴェヴェイ ツーリズム

岩本 順子

ライター・翻訳者。ドイツ・ハンブルク在住。
神戸のタウン誌編集部を経て、1984年にドイツへ移住。ハンブルク大学修士課程中退。1990年代は日本のコミック雑誌編集部のドイツ支局を運営し、漫画の編集と翻訳に携わる。その後、ドイツのワイナリーで働き、ワインの国際資格WSETディプロマを取得。執筆、翻訳のかたわら、ワイン講座も開講。著書に『ドイツワイン・偉大なる造り手たちの肖像』(新宿書房)など。
HP: www.junkoiwamoto.com