ケニアでの旅行先といえば、首都のナイロビや国立公園がよく知られているが、インド洋に面した東海岸にも魅力ある観光地が存在する。ナイロビなどに住む在留外国人や欧米の観光客などに人気がある、ディアニ(Diani)やワタム(Watamu)といったビーチリゾート街もいいが、筆者が今回紹介するのは沿岸北東部にあるラム(Lamu)という島の街だ。インド洋交易で発展した海岸地域独自のスワヒリ文化に育まれた建築や街並み、島ならではの美しい景観、ゆったりとした空気が訪問客を惹きつける。

All photos by Maki Tanaka

文化を知る、ラム旧市街

ラム島で主に訪問客が訪れるのは、島の東側にある2つのエリア、北部のラム旧市街(Lamu Old Town)と南部のシェラ(Shela)だ。ラム旧市街は、東アフリカに現存する最古のスワヒリタウンとして、2001年にUNESCOの世界遺産にも登録されている。ラム旧市街は、ラムへの玄関口であるマンダ島のごく小さな飛行場の対岸に位置し、5分ほどのボート・ライドで到着する。

グーグル・マップ上で確認できるメインの通りは、島の沿岸部に沿ったCorniche Pathと、それと並行しているKenyatta Roadの2本だが、旧市街の内部は細く入り組んだ路地でつながっている。島内部の通りは、人がぎりぎり生き交えるかぐらいの細さのものもある。

グーグル・マップで確認できるメインの通りでも、基本的に車両は見かけない。かわりに、異様な数で往来しているのがロバだ。ロバは人々の交通手段でもあるが、より重要な役割は物資の運搬だ。ヤシの葉でできた鞍に、生活物資、砂やブロックなどの建築資材が積まれ、「ロバ使い」のような人物がしばしば一人で4-5頭のロバを操縦している。通常は比較的ゆっくりとしたペースで通行しているロバの群れだが、驚くスピードで駆け抜けていくものにも時折遭遇する。ケニアのほかの地方都市や、アフリカやアジアの他国でもみかける、モーターバイクも移動手段の一つだ。バイクタクシーとして旅行客も利用することができる。

筆者が滞在していたのは、路地を少し入った場所に位置するAmu House(アムホテル)というベッド・アンド・ブレックファストの宿。カリフォルニアとラムの2拠点で生活するアメリカ人、メアリーがオーナーだった。16世紀のスワヒリ建築の建物をリノベーションして、バス・トイレ付きの7部屋を所有する4階建ての宿は、遺跡の中にいるような雰囲気とWifiなどいったモダンな設備の快適さを併せ持つ。中心部の吹き抜け、ベランダ、テラスなど、個室以外の部分はオープンエアな空間も多い。最上階はルーフトップになっていて、海岸や近隣の街並みを一望できる。共用部分の一角には、古本が集められた趣のあるライブラリ空間もあった。同時期には、フランス人グループや、オランダ人カップルのほかに、ケニア人も滞在していた。

旧市街での楽しみは、道に迷うことを恐れずに歩き回り、建物や人々の生活を静かに観察することだ。路地では、ロバだけでなく、たくさんの猫にも遭遇する。あえていくつかのスポットを紹介するとすれば、海岸沿いのCorniche Pathの北部に位置するLamu House Hotel、その裏に拠点を構えるローカルメイドの家具ショップ「Saba Furniture Company」、街の人々が集まっている「Mkunguni Square(広場)」、広場から歩いて数分の場所にある「Kenyatta Road」沿いのギャラリーショップ、「Gallery Baraka」などだ。

Lamu House Hotel(ラムハウスホテル)にはプールのある中庭があり、モロッコを思い起こさせるような雰囲気のある空間が広がっている。併設のレストラン、Moonriseは滞在ゲストも多く利用しているようだったが、外部ゲストも当然利用できる。

家具ショップ「Saba Furniture Company」は、ラム出身の建築家、Moran Munyutheが2016年に設立した会社。地元の家具職人と素材を活用して、スワヒリ文化に影響を受けたベッドや椅子などを製作し販売している。カフェも併設されていてコーヒーなどを楽しむこともできる。筆者の訪問時は、ナイロビ出身のクリエイターらの写真展も開催されていた。

ラムではフェスティバルなども定期的に開催されているようだ。昨年10月にはカルチャーフェスティバルが開催。2019年の2月にはアートと音楽を中心にLamu Art Festivalが開催される予定だ。

ビーチリゾート、シェラ

旧市街の街並みや雰囲気とは、また少し違ったビーチリゾートの街が、旧市街から3キロぐらい南下した場所にあるシェラだ。旧市街からはボートを使うと20分ぐらいで到着する。ホテルやレストランの数も、旧市街より多く、海外などからバケーションを目指してくる人々で賑わっているようだった。建物の壁や塀には、サンゴが使われていて、独特の風合いと雰囲気が漂っている。そうした塀に囲まれた路地から海を眺める景色は、どこか沖縄に似たような雰囲気もあった。

シェラのランドマークの一つが、ビーチ沿いに面したPeponi Hotelだ。建築は植民地統治時代に英国人が滞在していた場所だが、1967年にデンマーク人が買い取り、ホテルとして開業した。海岸沿いに面した大きなテラスが特徴的なレストラン・バーでは、ビーチの景観と波の音を感じながら、食事やドリンクを楽しむことができる。Lamuの中では最高級レベルのホテルだが、シングルルーム220米国ドルから滞在することができる。

ハンモックやデイベッドに横たわって、あるいは、海岸沿いのテラスで波の音を聞きながら、ワインやカクテルを片手に読書をするのに最適な場所だ。

ダウ船でのサンセット・クルーズ

ラム島では、スノーケリングやカイトサーフィンといったアクティビティも豊富なようだが、海辺ならではのアクティビティで筆者がおすすめしたいのが、サンセット・クルーズだ。ダウ船(Dhow)と呼ばれる伝統的な木造帆船での2時間ほどのクルーズは、毎日開催されている。地元の船のオーナーたちが、ニーズに応じて開催しているようだが、海岸沿いで交渉するよりは、地元の知り合いや宿のオーナーなどを通じてダウ船のキャプテンを紹介してもらうのが確実だ。

筆者は滞在していたAmu Houseのオーナーの知り合いの船でのクルーズに参加し、2時間ほどのクルーズで約1000円の値段だった。風と波の力でゆったりと進む船の上で、夕日を眺める経験は、陸上から日の入りを眺める経験とはまた違う醍醐味がある。

今回の筆者のラムでの滞在は2泊3日、夕方到着の朝出発の日程だったため、実質的にはほぼ1日間の滞在ではあったが、都会の賑わいになれている旅人にとっては、ラムを十分に楽しむことができる適当な長さだった。

出張などでナイロビに渡航する機会があれば、ぜひ週末はラムにも足を伸ばしてみてはいかがだろうか。忙しい都会のビジネスマンがパソコンから目を離して、自然の中でゆっくりと読書をしたり、音楽や食事を楽しんだりする地として、ぜひラムをおすすめしたい。


All photos by Maki Nakata

Maki

Maki & Mpho LLC代表、ノマド・ジャーナリスト。
同社は、南アフリカ人デザイナー・ムポのオリジナル柄を使ったインテリアとファッション雑貨のブランド事業と、オルタナティブな視点を届けるメディア・コンテンツ事業を手がける。オルタナティブな視点の提供とは、その多様な在り方がまだあまり知られていない「アフリカ」の文脈における人、価値観、事象に焦点を当てることで、次世代につなぐ創造性や革新性の種を撒くことである。
Forbes, WIRED, Business Insiderなどで、ビジネス、カルチャーを中心に幅広いジャンルの記事を執筆。
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