民主化が進み、外国人観光客が倍増しているミャンマー。それよりももっと劇的に増えているのは、経済的に豊かになったミャンマー人の国内旅行客だ。外国人のミャンマー観光はパゴダ巡りがメインだが、地元っ子の旅行先で人気なのは、ミャンマーでも大流行しているインスタ映えスポット巡り。今のところ国内に3ヵ所見つかっている、青い水を湛えた美しい水場をご紹介しよう。
ミャンマー人は、こうした青い水のある場所を英語で「ブルーラグーン」や「ブルーレイク」とくくることが多いが、正確にはひとつは池であとの2つは渓流の一部だ。
青い水が流れるディード滝
最初に紹介するのはディード滝。「ミャンマーのブルーレイク」として最初にミャンマー人の間で話題になったスポットだ。
「ディード滝」と呼ばれるここは小さな滝のある渓流で、川の一部を人工的に堰き止めてプールのようにしてある。雨の後は数日にわたり水が濁ってしまうので、青い状態を見ようとするなら12月から2月の乾季真っ只中に行くことがおすすめだ。
発見当初はかなり青かったようだが、訪問客が増えて以降、色が少し褪せてきて、今は状態が良いときでもうっすら青緑に見える程度となってしまっている。しかし、水がきれいなことには違いなく、天然のプールとしてミャンマー人に人気だ。
この滝は、ミャンマー人カップルのハネムーン先として国内でも3本の指に入るピンウールウィンから60kmほどの郊外にあり、ピンウールウィン旅行のついでに訪れるのが一般的だ。
ピンウールウィンは、英領時代にイギリス人たちの避暑地だった高原の町で、冷涼な気候ゆえに花があふれ、イギリス風の別荘が残るロマンティックな街並みが人気となっている。ガーリーな装飾を施した馬車が走っているのも、恋人たちを引き寄せる所以だ。
世界で一番青い!? エメラルドの鉢が沈むミャータバイ湖
次はシャン州ユアンガン近くにあるミャータバイ湖。人びとは「湖(lake)」と言うが、せいぜい10メートル×20メートルほどで「池(pond)」のほうが実態に近い。しかし、その色は断トツに青い。世界中の青い水場の中でも、特に濃厚な部類に入るのではないか。
トレッキングの拠点として有名なカローから、コーヒー産地であるユアンガンへ向かう道路から少し横道に入ったところにあり、最近になって人びとの知るところとなった。ミャンマー人観光客が押し掛けるようになって入口には土産物屋台が並びだしたが、売っているのは野菜。都会から来た客に売れるものはそれくらいしかない素朴さがまたよい。
池は土産物屋台の横手の細い階段を下った下にある。青いインクを溶かしたような濃厚な青だ。透明度がきわめて高く、湖中で折り重なる倒木や黒く大きな魚影を見透かせる。どうも底からこんこんと水が湧き出ているようだ。
実は地元では昔からその存在は知られており、仏陀に寄進するためのエメラルドの鉢が底に沈んでいると言い伝えられている。ほかにも、池の魚を食べると具合が悪くなるとか、人が泳ぐと水が黒くなってしまうなどと言う人もいる。
ミャータバイ湖へ行くなら、ついでに寄りたいのがユアンガンのコーヒー工房だ。ユアンガンはミャンマーの一大コーヒー豆産地で、沿道にはコーヒー畑が続き、各社が工房を構えている。おすすめはジーニアス社の工房。コーヒー豆の選別作業などを見学でき、コーヒー豆も買えるカフェがある。
棚田になった天然のプールで水遊び。青い渓流ナンモンジー滝
最後は、最近になって話題になっているナンモンジー滝。シャン州にあるが、首都ネーピードーからの方が行きやすい。ネーピードーから向かう場合は、ピンラウンやペコンへ出る山道を行く。ネーピードーを発って2時間半ほどすると眼下に、山々の谷間を埋めるように続く巨大なダム湖が見えてくる。ナンモンジー滝があるのは、そのダム湖の奥だ。
さらに30分ほど進むと、拠点となるテインピン村に着く。ここから滝まではエンジン付きボートで片道1約時間。道路沿いに建つ駐車場を備えた食堂「ナンムアン」の前に船頭たちがたむろしているので、彼らと舟の交渉をする。舟は10人ほど乗れるが、1人で行った場合でも1漕借り切らねばならない。往復で、日本円にしておおよそ3000~4000円ほどだ。
舟はダムに沈んだ大木が湖面からニョキニョキそびえる間を縫いながら、ナンモンジー滝近くの船着き場まで進む。舟を降りてからは沢沿いの悪路を、時に水の中に入りながら10分ほど歩くことになるので、サンダル履きがおすすめだ。滝の音が聞こえてくるに従い、「青っぽいかな?」くらいに思えていた水がどんどん色を増し、滝壺の手前ではかなり青くなる。
ここの面白いところは、滝壺の手前が何段もの棚田状のプールになっていること。ミャンマー人は泳げない人が多いらしく、オレンジの救命胴衣を着けて水遊びを楽しんでいる。
ネーピードーとナンモンジー滝の間にはピンラウン温泉があり、セットで訪れる人が多い。広い公園に温水を満たしたプールに水着で入るのだが、全体にローカル向けで外国人には少しハードルが高いかもしれない。しかし、個室温泉を借りての足湯くらいであれば楽しめるだろう。ミャンマーの温泉に興味ある方はお試しあれ。
ここで紹介した3つの“ブルーレイク”は、どこも世間の注目を集めるようになって日が浅いのでアクセスや観光客向け設備が整っておらず、ある意味、秘境ともいうべきスポットだ。でも、人と違った旅をしてみたい人や、ミャンマーの自然に興味のある人、フォトジェニックな撮影場所を探している人なら、是非トライしてみてほしい。
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All photos by Maki Itasaka
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板坂真季 ITASAKA Maki
日本でのライター業を経て中国・上海やベトナム・ハノイなどで計7年間、現地の日本語情報誌の編集を務めるかたわら、日本の雑誌、書籍、webマガジンなどへ多数寄稿。各種ガイドブックの編集・執筆・撮影、取材コーディネート業にも従事。2014年よりヤンゴン在住。著書に『現地在住ライターが案内するミャンマー』(徳間書店)など。