ドイツが一番輝く冬のクリスマスマーケットも終盤を迎えた。今年最後のクリスマスマーケット巡りでバームクーヘン、そして伝統菓子を味わうために、欧州で最も美しいと言われる、ユーゲントシュティール様式の貯水塔が見守る街、マンハイムへ出かけた。

ドイツの京都? 格子状の市街と選帝侯の居城

バーデン・ヴュルテンベルク州に属するマンハイムは、ドイツ南西部のライン川とネッカー川の間にある同州第二規模の大学都市。

日本ではあまり聞きなれない街かと思うが、貯水塔、バロック様式の城、カール・ベンツによる最初の自動車がこの街を走行、京都のような格子状の市街、大学、古城街道の起点、そしてスパゲッティアイス発祥の地などのキーワードをあげれば、どれかひとつ思い当たるかもしれない。

見知らぬ街を巡る者にとって有難いのは、マンハイムの中心部がドイツでも稀有な碁盤の目になっている点だ。エリア内の住所表記は、C4、O6などブロックごとにアルファベットと番号がつけられており、道に迷うこともほとんどない。

さて、同州の観光地といえば、日本人に絶大な人気を誇るハイデルベルク城が有名だが、同城主だったプファルツ選帝侯は18世紀、居城をハイデルベルクから隣町マンハイムへ移した。これがきっかけとなり、この街は一躍注目を浴びるようになった。バロック様式の豪華な選帝侯宮殿や、市街整備で城にまっすく通じる碁盤目の道路が造られるにつれ、徐々に発展を遂げていった。

実はこの選帝侯宮殿、パリのベルサイユ宮殿に次いで欧州で2番目規模のバロック様式建造物だという。トップの座を得ることが出来なかった理由は、ベルサイユ宮殿より窓が1つだけ少なかったからだそう。部屋数500ほどある宮殿内の一部は、現在博物館として一般公開されている。

とはいえ、マンハイムにも1位を誇るものがある。「経済、経営、社会科学部」が国内一突出して優れており、ドイツのハーバード大学とも言われるマンハイム大学だ。将来ドイツの財界を担うであろう学生たちの憧れの学部を有し、日本の大学とも交流が深い。この大学は、1907年に商科大学として設立され、67年に総合大学となった。マンハイム城の大半の建物は現在、大学校舎として使われている。

3つのクリスマスマーケットを散策

市街で開催されるクリスマスマーケット会場は3つ。まず、家族に大人気のメルヘンの世界をテーマとしたパラーデ広場。ここでは子供連れに大好評の赤ずきんちゃんや白雪姫、カエルの王様など、童話をモチーフとしたブースやデコレーションを展示している。ステージでは、童話の朗読会や物語から飛び出してきたような主人公を装った人気者の登場など子供を対象にしたイベントが随時開催されている。目を輝かせて話に聞き入る子供達の姿はなんとも微笑ましい限りだ。

二つ目はカプチーナプランケンのちょっと上品なミニマーケット。O6 通り沿いに広がるこのマーケットの70の屋台では、主にプレゼント用品や昨今あまり目にすることのない手工芸品が所狭しと並んでいる。市街の目貫通りプランケン通りのファッションストアの裏手にあるためか、おしゃれな大人が目立ち、仕事帰りに立ち寄るビジネスマンにも人気のスポットだ。

そして三つ目は貯水塔の見守るフリードリッヒ広場で繰り広げられる市内最大規模のマーケット。魅惑的なのは暗くなり始めた頃。およそ200の屋台と高さ18メートルのピラミッドの発する光の波が当たり一面に反射して眩いほどだ。見逃せないは、築130年の2階建てメリーゴーランド。大人だからと言ってしり込みせず、是非乗ってみたい。大ステージではアマチュアコンサートやイベントが催され、マーケット内で最も賑わう場所だ。

伝統菓子・バウムクーヘンとマンハイマードレック

ホットワインや焼ソーセージ、焼アーモンドなど、マーケットの屋台から漂う香りを後にして、1838年開業の老舗カフェ「Herrdegen」に向かった。目的はこの店ならではの二つの伝統菓子を食することだ。ドイツでは一般的にクリスマスシーズンだけ販売される「バウムクーヘン」だが、うれしいことにこの店では一年中販売されているヒット商品だ。1953年から特製バウムクーヘンを提供していて、これまで多くの賞を授与した。

人気の秘密は、できたてを味わえることとチョコレートのコーティングがないこと。コーティングは、工場で大量生産されたバウムクーヘンの生地が客の手に届くまで乾燥しないように覆われている。だが、ここのバウムクーヘンはその必要もなく、生地そのものの旨味を体感できるとあって高い人気を誇る。日によっては入手できないこともあり、店頭で見かけたら是非買いたい一品だ。

もう一つの商品は、「マンハイマー・ドレック」。直訳すればマンハイムの汚物という意味で、なんだか食欲をそそらない名前だが、味はレーブクーヘンに似ている。香料とナッツが口一杯に広がり、後を引く美味しさだ。19世紀初め、ゴミも汚物もすべて道路上へ捨てた。それを防止するために道路を汚した市民に対し、2ライヒスタールの罰金を科す法令が発せられた。これを逆手にとって、これなら罰金を払う必要がないだろうと、チョコレートコーディングの菓子を作った。これは何をまねて作ったのかは想像してもらいたい。こんな冗談とも本気ともとれるような背景から誕生したそうだ。

通称「マンネマー・ドレック」と呼ばれ、形は手作りおせんべいのような大きさ。材料は小麦粉とナッツ、オレンジやレモンピール(皮の砂糖漬け)、香料など。このお菓子を作るメーカーはマンハイムでもあまりなく、同店では1862年から秘伝のレシピで手作りしている。

テイクアウトコーヒーが大人気となり、近年はこうした自家製ケーキや伝統菓子を提供するカフェは街から姿を消している。この店だけはしばらく続いてほしい。

クリスマスクッキーやシュトレン、そして9月頃から店頭で出回るこの時期ならではのスイーツを充分食べているはずなのに、やっぱり同店の伝統菓子を買ってしまった。口実は家族へのクリスマスプレゼントにしよう。

Frohe Weihnachten! メリークリスマス!

All photos by Noriko Spitznagel

パラーデ広場のクリスマスマーケットは12月29日まで開催
他の2か所は12月23日終了

Herrdegen
E2,8
68159 Mannheim

シュピッツナーゲル典子
ドイツ在住。国際ジャーナリスト連盟会員
大学卒業後、出版社、ドイツ企業勤務。のち渡独。得意分野はビジネス・文化・教育・書籍・医療業界・観光や食など。翻訳や見本市の通訳、市場視察やTV番組撮影の企画やコーディネートも。最近は人物インタビューを中心に活動中。仕事以外では旅と食べること、スポーツジム通いと水泳に没頭中。
HP:http://norikospitznagel.com/