旅先で、その土地ならではの食を体験することは、モダン・ツーリズムに限らず、昔から重要な旅のコンポーネントの一つだ。次の旅を計画するとき、日程、交通、見どころなどと共に、グルメ情報をチェックすることは欠かせない。旅行ガイド、ウェブのオフィシャルな情報やウェブメディアの記事、個人が発信するブログなど、情報は溢れている。ありきたりの旅行客向けの食事ではなく、少しだけアドヴェンチャラスにローカルな食体験を求めるなら、おすすめの方法がある。

旅先でローカルの食に出会いたいならどうする? その一つの答え

オスマン帝国は、その黄金期には地中海の東沿岸から東ヨーロッパ、中東、北アフリカの地中海沿岸から内陸をその領土とした。今はトルコはヨーロッパ大陸とアジア大陸の両方に領土を持ち、イスタンブールはトルコの最大都市。人々は帝国の栄光に誇りを持ち、今まで以上に東西交易の要衝としての役割が求められ、更なる経済発展が見込まれている。

トルコ語が公用語で、イスラム教が大勢を占めるが、他のイスラム圏と比較すれば飲酒に寛容であるなど比較的リベラルだ。そんなトルコのイスタンブールで、ローカルの食を体験する現地の食通が案内するウォーキングツアーに参加してみた。

ゲットーを徒歩で巡る食の探求

そのツアーでは、イスタンブールの中でも古くから複数の異民族が住んでいるシシュリ地区に点在する食にまつわるスポットを6時間かけてめぐる。その昔、この地域は坂が多いことを理由に身分の高い人たちが住むことを嫌ったため、近隣諸国からの移民たちが住み始めたのだという。それが、ゲットーだ。そしてギリシャ、アルメニア、クルド、ユダヤ教の影響をうけた食文化が生まれた。

イスタンブールの食の本当の面白さをツーリストに体験してほしいのだと言うツアーガイドのレイラさんもアルメニアの血を引き、今もこの地域に住んでいる。自身も料理人であり、夫は伝統的な歴史地区にレストランを開き料理教室も開講しているという、食のスペシャリストだ。

トルコの朝食はゴマをたっぷり乗せて焼かれたパン「シュミット」が定番。トマトをフライパンで調理した上にとタマゴをおとした「メネメン」と一緒に食べる。シュミットは露店で買い近所のブラッセリ―のテラスに持ち込み、メネメンはそこでオーダーする。

食べ終われば、手作り「タマリンドジュース」を店先で売るキオスクへ行き生のタマリンドから搾った新鮮な甘いジュースを店先の路上で飲み干す。こうして、6時間のツアーが始まった。

食材加工と窯で焼くベーカリー、そしてメゼ

このツアーの醍醐味は、旅行客だけではアクセスできないスポットや人を訪ねること。小さなビルの1階には、アーティチョークの皮をむき食べれる芯を瓶詰にする作業場があった。1年を通して、異なる産地から届けられるアーティチョーク。単純作業だが、幾枚もの固い皮をむくには熟練がいりそうだ。

「ラバッシュ」という薄いパンの工房では、一人が生地を伸ばし、二人目がそれをさらに薄く整形して火が轟々と唸るような窯の内側に貼り、焼ければ三人目がをれを取り出す。窯の火の熱さを顔に感じる。

近所の惣菜を売る店で、干したパプリカを戻して煮たもの、燻した茄子のパテ、色とりどりのサラダに、豆を煮たものなど、「メゼ」と総称される前菜をいくつも買ってきて、この店の一角のテーブルを借りて、ラバッシュにくるんで食べる。焼き立てのラバッシュは香ばしく、その薄さがこの食べ方にちょうどいい。

ビオ・マーケットから様々な食材を売る店を回る

このあたりにはいくつもスーパーマーケットはあるが、自然志向な食を好む人達にはセムト・パザンのオーガニックマーケットは人気だ。週末ということで、子供のためのペイストリー体験が開かれていたりと、食育への取り組みも楽しそうだ。

その後、地元の魚屋、肉屋、乾物屋からチーズの店までを回れば、トルコの食生活の基本が見えてくる。

サバはエラを表側に引っ張り出してその新鮮さをアピールするように並んでいる。肉屋では、解体を目の前にしながら部位を選ぶことができる。加工肉も種類が多い。乾物屋ではトルコ料理によく使われる米や「ブルグル」という引き割の小麦なども売られている。伝統料理「シャルマ」に欠かせないのが塩漬けのブドウの葉は、ひき肉を包んでトマトとハーブで煮込む。

そしてまた食べ歩きを続ける

日本でもなじみのあるケバブ、ひよこ豆を煮たものを乗せたピラフ「ノフトゥルピラフ」に、「ココレッチ」はグリルした羊の小腸を香辛料と共に細かく叩いてパンに挟んだもの。豆のメゼにかけるザクロソース「ナル・エクシシ」は甘酸っぱく、トルコのピザ「ラフマクン」はクリスピーで軽いおやつと言った手軽さ。そして、トルコ菓子のデザートも数種類。食べ続けることはある意味アスリートのようなもので、自分の体の限界との戦いと言えるかもしれない。

トルコで最初のビール工場でゴール

最後はトルコに初めてできたビール工場の建物を利用した、パブやレストラン、ライブスペースなどが入る「ボモンティアダ」でクラフトビールを楽しむ。

「中東のパリ」ともいわれるイスタンブール。歴史ある建物と、高低差のある通り、そして食文化の豊かさが、そう言われる所以なのだと身をもって理解できる一日だった。旅先で、現地の食のプロフェッショナルが催すツアーがあれば、参加を検討してみるのもいいだろう。ツーリズムのマスマーケットを相手にしたものとは異なる、ローカルにもっと接触できる体験が楽しい。


All Photos by Atsushi Ishiguro

FROM GHETTO TO GOURMET

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/