ここ最近よく耳にするようになった、ヨーロピアンに人気のデスティネーション、ジョージアの首都、トビリシに1ヶ月滞在してみた。

ジョージア(旧グルジア)は、ヨーロッパとアジアの間に位置する。ロシアとトルコに挟まれ、周辺にはアルメニアや、アゼルバイジャンといった聞きなれない国もあり、ヨーロッパユニオンでも中東でもなく、黒海とカスピ海に挟まれた、コーカサス地方に属する国だ。

国土面積は、北海道よりわずかに小さい 9,700k㎡、国民の数はおよそ400万人ほど。シルクロードの西端に位置し、古来より多数の民族が行き交う交通の要だった。そのため様々な文化が混ざり合った結果、ジョージア独特の文化が存在し、ひとことでヨーロッパやアジア、中東のようだ、とは表現できないオリジナリティがある。

旧ソ連だったジョージアは、1991年のソ連崩壊後直後、唯一、ロシアの主導する独立国家共同体(CIS)への参加拒否を表明している国だった。これはジョージアとロシアの政治的な対立によるものではあったが、ジョージア国民の独立心の強さにも由来するものでもあった。その後ジョージアは、ロシア語からジョージア語への移行推進と、英語教育の義務化を進めたため、若い世代の人たちは個人差はあるもののほとんどの人が英語を話せ、ロシア語も話せるという人は少なくなってきているようだ。

ジョージア人は基本的にフレンドリー。外国から来た人達に話しかけるのが大好きで、英語を話せない人でもとてもフレンドリーに接してくれるので、受け入れてもらえている雰囲気があり、まるでここは自分のホームだとも思えるような心地良さがあった。

元々の 「グルジア」という呼び名は、ロシア語に由来していた。ソ連から独立後、国際社会の主流に仲間入りするためか、自ら英語表記に基づく「ジョージア」と名乗り始めた。それまでは国連加盟国の大多数がジョージアと呼んでいたが、日本や韓国、中国、それに旧ソ連の国々はロシア語由来の 「グルジア」と呼んでいた。2015年、日本でも正式に英語表記に基づく「ジョージア」に変更された。

物価はかなり安く、空港から市内までタクシーで30分、およそ1,000円くらいで行けてしまう。タクシーは値段交渉して乗らなければいけないので、空港に到着する前にTaxifyというUberと同じ役割のアプリをダウンロードしておくと安心だ。市内のどこへ行くのもタクシーで200円ほど、電車だと25円、バスだとさらに安い。

治安は良く、夜道を一人で歩いていても危険と感じるシチュエーションはなかった。それよりも、交通量が半端なく多いことに驚いた。まだまだディーゼルエンジンの車を使っているため、それによる公害がひどい。アレルギー体質の自分はその空気に耐えきれず、すぐにマスクを買って着用するようにした。現在ジョージアではその問題に対して改善していくように努めているそうだ。

道を歩いていると、野良猫と野良犬がたくさんいて、彼らは人々と共存して暮らしているようだった。野良と言っても、ほとんどの犬にはワクチン済みのバッチが耳につけられているので病気の心配もなく、ついつい家に連れて帰りたくなるほど、毛並みダチの良い犬たちだった。

そこに暮らす人々の平均月収は、仕事内容にもよるが、若者の一般的な職だと月収2万円から5万円、個人の銀行を経営している社長クラスで50万円、大手の銀行の社長クラスで100万円ほどなのだそう。街を歩き回ってみると、建物も人も、昔のまま存在しているものと、文明化されたものとでだいぶ差が出てきている。H&Mだって2017年にできたばかり、建物はどんどんと建て替えられ工事が至るところで行われている。

滞在していたAirbnbのマンションの前の道は、到着した時は舗装されていない状態だったが、帰る頃には綺麗に整備され、信号やベンチまで設置されていた。街の至るところで、まるで過去にタイムスリップしたような光景がまだまだ見受けられる。

レストランはどんなに高いところでも飲んで食べて一人3,000円、安いところだと500円くらいだ。こちらはハルチョ(Karcho)という肉やハーブ、少しのお米が入ったトマトスープ。ジョージアだけでなくウクライナやこの周辺の国で愛されているスープだ。カジュアルだがちゃんとしたレストランでだいたい300円くらい、もっとカジュアルな店だと200円ほど。

間にチーズが挟んであるコーンブレッドは130円。

“ジョージアンサラダ”という定番のサラダは、キュウリとトマト、玉ねぎにパセリやすりつぶしたウォールナッツが乗ったもの。決めてはナチュラルなサンフラワーオイル。ジョージアのサンフラワーオイルは、独特なナッツのような香ばしい香りと味で、シンプルなサラダをジョージア的な味にまとめあげている。どこのレストランにも必ずある、定番メニューだ。

街の至るところにあるパン屋さんで見かけたのは、石窯の内側に長く伸ばしたパン生地を貼り付けて焼く、定番のプーリー(puri)。だいたい30円くらい。焼きたては塩が効いていて、中はしっとりモチモチしている。それだけで食べてもとても美味しいのだ。

ナチュールワイン好きな人の間では、ジョージアワインを知らない人はいないかもしれない。ジョージアは世界最古のワインの生産地とも言われており、そしてコーカサス山脈南麓一帯は、ぶどうの原産地とも言われてる。ジョージアワインの伝統的なワイン造りの手法は「クヴェヴリ」という特殊な卵型の土器の甕を地中に埋め、発酵から貯蔵までを行うものだ。この手法は、2013年にユネスコ無形文化遺産に登録された。ジョージアでは、今でもこの手法でワインを作り続けている人達が約20%いるそうだ。日本でも、宮城のナチュールワインメーカー「Fattoria Al FIORE(ファットリア アル フィオーレ)」などでクヴェヴリを取り入れているようだ。

ジョージアでは、今でも多くの家庭でワインを作っているようで、ホームパーティーには各々のワインを振舞ったり、多くのレストランでもホームメイドのワインが提供されている。そのクオリティは充分においしく、ボトリングされてない分、かなりの低価格で提供されている。

自分自身、ジョージアワインに出会ったのは、コペンハーゲンでいつもお世話になっているナチュールワインショップだった。ナチュールワインはそもそも個性的な味のものが多いが、ジョージアのナチュールワインは独特の個性があり、オレンジ色のワインを初めて飲んだ時から、忘れられない味となった。

ジョージアで “ナチュールワイン” という言葉を使うと、そもそも全部ナチュールだから!と言われてしまうほど、野菜やワイン全てに至って、農薬などを使うという文化がまだそれほど広がっておらず、ナチュールワインという定義すらまだない段階。オレンジワインという呼び方も間違いだと指摘され、正しくはアンバー(Amber)ワインという。ジョージアのアンバーワインがきっかけで、各国のワイン生産地でオレンジワインが作られるようになり、近年人気を集めるようになったのだそうだ。

現地でワインメーカーの友人たちができたので、色々と話を聞いてみると、多くのワインメーカーはクラシックなフレンチワインのように研ぎ澄まされたエレガントな味に憧れ、そういった味を目指してワイン作りをしている作り手が圧倒的に多いようだった。こちらのワインバーでは、数人のソムリエ達の厳しい判断によって選出されたワインがずらりと並んでいる。クラシックなフレンチワインを良しとする判断基準に基づいたラインナップだ。

一方で、こちらのワインバーは、いわゆる自分達が広く認識しているナチュールワインの味、バランスの良いエレガントなワインと比較して、ぶどうそのもののピュアな味、またはパワフルだったりファンキーだったりと、どこかが突出しているような味のワインを中心にセレクトしている。

ジョージアではワインを購入する価格と、店で飲む価格が同じなのが印象的だった。ワインはボトル一本1,000円前後、高くても2,000円ほどで購入できる。例えヴィンテージだったとしても、同じく手頃な価格で購入できるところが有難い。また、ワインテイスティングに行けば、数百円という卸値で購入することもできるので、ワイン好きにとっては天国のようだ。どの家庭でもワインを当たり前に作ってきたジョージア人にとって、ワイン産業は誰にでも始められることでもあるようで、大小全て含めると数えきれないほどのワイナリーが存在しているようだ。

多くのワインは、どこの国でも飲めるような世界のスタンダード的な味だが、クヴェヴリで作られたワインや、オレンジ色のアンバーワイン、いわゆるピュアなナチュールワインを中心に試してみると、ジョージアワインの個性を明確に感じられるかもしれない。


All Photos by Natsuko Natsuyama

NATSUKO

モデル・ライター
東京でのモデル活動後、2014年から拠点を海外に移す。上海、バンコク、シンガポール、NY、ミラノ、LA、ケープタウン、ベルリンと次々と住む場所・仕事をする場所を変えていき、ノマドスタイルとモデル業の両立を実現。2017年からコペンハーゲンをベースに「旅」と「コペンハーゲン」の魅力を伝えるライターとしても活動している。
Instagram : natsuko_natsuyama
blog : natsukonatsuyama.net