地震からの復興が進むクライストチャーチ

3.11の直前、2011年2月に発生した、ニュージーランドのカンタベリー地震。ニュージーランドの最も英国らしいといわれる街、クライストチャーチでは日本人を含めた多くの犠牲者が出た。あれから7年以上がたっても、街のいたるところに被害を受けた建物が残り、さら地のままの広いスペースが点在している。教会の壁は崩れ、古い建物はそのまま売りに出されているものも。比較的新しいビルでさえ立ち入り禁止になっていた。

地震発生から18か月後、倒壊したビルばかりのクライストチャーチのダウンタウンで、一番初めに再開されたカフェが冒頭の写真の「C1 Espresso」だ。地震の前には他の場所に店を構えていたが、倒れることを免れた郵便局の建物を補強して、再オープンしたのだ。歴史ある重厚な建物と、その前にあるオープンな庭が魅力的なカフェだ。

オーナーのSam Crofskey(以下、サム)に、「18カ月でオープンとは、早かったね」と声をかけると、顔が少し曇った。「18カ月は長く大変だった。それに、他に何もなくなってしまった場所に最初に店をオープンすることは、先の見通せないことだった。でも、人が集まる場所を作りたかったんだ。人が集まって話せる場所をね」。

クライストチャーチは復興を続けている。地震の後、当座をしのぐために作られたマーケットはショッピングセンターに生まれ変わり、古くからの店が並ぶ、ニュー・リージェント・ストリート(New Regent Street)も再建された。観光客を相手にするトラムも走り、街の見どころを結んでいる。大聖堂は過去の姿を残したまま再建されている最中だが、日本人の建築家・坂茂氏が紙素材を使って設計した、クライストチャーチ大聖堂(Christchurch Transitional Cathedral)が、暫定的な教会として機能を果たしている。

日本人の建築家・坂茂氏が設計、デザインを手掛けた教会。紙素材が使われている。

こんな楽しいカフェは見たことない!

“復興のカフェ”というと、急ごしらえのプレハブの建物だったり、シンプルな内装、最低限のメニューと言ったものを想像するが、「C1カフェ」はかなり本格的に思い切ったカフェだった。重厚な建物もそうだが、内装はかなりポップで、メニューにも遊び心が満載だ。

高い天井が気持ちいい店内には、木馬の遊具やピンボールが置かれて、壁には日本の漫画、トイレへの本棚に見えるドアを引けば、なかにはロボットが。「好きなものを置いていったらこうなったんだよ。その中に日本のテイストがあるものも多いよ」とサムは語る。いい意味で肩の力が抜けたこだわりなのだ。

サモアのコーヒー農園と直契約!

もちろんカフェだから、コーヒーにもこだわりがある。この広いホールの隅に小さな焙煎ルームがあり、ここで、C1カフェの味が生まれる。また、2009年からはサモアのコーヒー農園と直接契約して、中間のマージンを排除し、コーヒー農家に対して十分な報酬が支払われるようになった。紅茶についても同じように、直契約するケースが増えているという。「エシカル」、「フェア・トレード」のスピリットが、このような個人経営のカフェでも徹底しているのは、ニュージーランドでは珍しくない。

ちなみに、ニュージーランドではフラット・ホワイト(Flat White)というコーヒーの飲み方がメジャーだ。エスプレッソに、牛乳をしっかり泡立てたフォームにして乗せたもの。また、C1の紅茶は、小さなマッチ箱のようなボックスに茶葉が入っている。半分は持って帰って、家でゆっくり飲んでもいいよという計らいだそうだ。

遊び心たっぷりのメニュー

今回注文したカーリーフライは、厨房からテーブルまで伸びるチューブを通って運ばれてきた。まるで昔のオフィスビルの社内書類送付のような仕組みだ。ハンバーガーもこれで運ばれるらしい。ポーチドエッグを乗せたエッグベネディクトは、地元の新鮮な食材が嬉しい。それに、フレンチトーストやブリトー、スープなどは一日中楽しめるメニューはどれも魅力的だ。夜になれば、チキン、ポーク、ビーフ、カリフラワー、カボチャ、ラムなどの料理から3種を選びフライドポテトを付け合わせにしたセットメニューも。朝7時から夜10時まで、時間ごとに学生、家族連れ、ビジネスマンなど、様々な人たちのニーズに答えている。

さて、大き目のフラスコに入って運ばれてきたのはアイスティー。注射液の中に入っているレモンジュースで色が変わるという「実験」的なプレゼンテーション。チョコレートドリンクは、チョコレートをいれたグラスに乗せられた綿菓子の上から、温かい牛乳をかけて作る。これも、子供たちはもちろん、誰でもちょっと嬉しくなるプレゼンテーションが遊び心たっぷりで面白い。

これからのクライストチャーチが楽しみになる

店内にあるウォーターサーバーの一つはミシン、もう一つは歯医者のうがいのためのサーバー。あくまでも楽しい演出が店のあちこちに。そして、地震の後にもわくわく楽しもうという心意気があったことに、とっても勇気づけられる。それに、いろんな演出がとても優しいのだ。

クライストチャーチの復興はまだ道半ば。あちこちに地震の爪痕が残り、リアルに痛々しいのは事実だ。それでも、それは見て見ぬふりをしていいものではないのだと教えられる。見回せば、地震前からの建物を生かした新しい建物もあり、全く新しい建物もありと、クライストチャーチの明日を感じさせてくれる風景が広がっていた。

ニュージーランドに行くなら、クライストチャーチまで足を伸ばしてはどうだろう。街並からも、人々からも、何かを感じさせてくれる特別な今だけのクライストチャーチを見て体験することから、それぞれ何かを感じ取れると思う。


C1 Espresso

All photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/