眩しい太陽とブルースカイのイメージが強い、南国ハワイ。その一方で、かつてハワイの1日は朝からではなく、夜からスタートしていた事をご存知だろうか。星空の美しさから、“最も宇宙に近い場所”と呼ばれる天文台が存在する程、夜空との関係も深い。特に満月は、世界でも崇められてきたが、ハワイ諸島では「ムーンカレンダー」が存在する位に、古代から月の文化が根付いている。そして日本では、昔ほど祝われなくなった観月の習慣も、現代のハワイでは形を変えて受け継がれており、様々な趣向を凝らした満月イベントが毎月各地で開催されている。

Photo by Shizuka Ueno Reid

ウサギではなく女神が見えるハワイの月

月が地球を一周する公転周期と、月そのものが回転する自転周期はほぼ等しいので、どの国から見ても月影の模様は同じだそうだ。それでも、所変われば見方も変わるもので、日本や中国でウサギの餅つきとされる模様が、他国では女性の横顔に見えたり、他の動物に例えられたり興味深い。

火山の神ペレのように、自然の中に神を見い出す習慣のあるハワイでは、月には月の女神ヒナが布を折っている姿が見えると言い伝えられている。女神が月に住み着いたとされる経緯には、いくつかの異なる説があるが、その中でも有名な話では、人生に疲れた女神ヒナが自分の折った布を虹にしてまず太陽に渡る。これが最初の虹となるが、やっとの思いで到着した太陽は燃えるような熱さ。そこで今度はムーンボウ(夜の虹)を作り月に渡り、月で布を織りながら癒しの女神として今は地球を見守っているという。ヒナの布はカパと呼ばれる、樹皮を打ち伸ばして作るハワイの伝統工芸で、まだ綿や絹が手に入る前の時代に衣服に使われていたものである。布の原材料が多数のロープが垂れ下がったようなルックスのバニヤンツリーである事から、今ハワイに多数生息するツリーは女神が月から落とした枝から繁殖したものだとも言われているそうだ。

Photo by Shizuka Ueno Reid

ハワイアンムーンカレンダー

そんな伝説が語り継がれるハワイだが、月の満ち欠けは実際に人類の生活に色々な影響を及ぼすと言われている。とりわけ海に囲まれた島は、月の影響を受けやすく、満月前後だけに現われる砂浜などもある程だ。そのため、昔から天体の知識に優れていたハワイの原住民達は、1ヶ月を29.5日で割る、月の満ち欠けに基づいたカレンダーを日々の暮らしに役立てていた。私達が普段使う太陽暦とは異なるムーンカレンダーは、主に農業や漁業の作業のタイミングの参考にされていたようだ。

日本でも三日月や上限、下限の月と変化する月のフェーズはあるが、ハワイでは細かく分かれ18種以上もの名称がある。前述の女神の名から通常マヒナと呼ばれる月も、時期によってヒロ、ホアカ、と呼び名が変わっていき、満月に至っては前夜、当日、翌日と、3回も名称が変化。月の状態が潮の干満に影響を及ぼすことから、このカレンダーを見ると、魚がよく漁れる時期がわかるという。また、タロ芋はこの日に植えるのが最適、など畑仕事のアドバイスも書かれている。船に乗って星や月を道標に舵をとっていた先住民達は、このように普段の生活においても月を指針とし、現代のハワイでも重要な物事を決める時に参考にしているという。近年ではスマートフォン世代に向けて、『Hawaiian Moon Calendar』などのアプリも出ている。

ビショップミュージアムの月の展示

前述のムーンカレンダーの詳細はここには書ききれないが、ビショップミュージアムのハワイアンホールにも展示されている。このミュージアムはカメハメハ王朝末期に、カメハメハ王家パウアヒ王女の夫ビショップ氏が、妻の追悼のために1889年に設立した歴史ある博物館。ハワイの伝統文化や歴史、自然について学べる。1日5回、追加料金なしの日本語ガイドツアーを利用するとよりわかりやすいかもしれない。ハワイアンホールの手前にはプラネタリウムも併設されており、ハワイの夜空や、ポリネシアンカルチャーと天体との関係をテーマにしたプログラムが上映されている。ミュージアムは特別展示やイベントも充実しており、秋には月に因んだイベントがランダムに開催される事もある。今年は10月の満月の夜に「月見の会」という夜のイベントがあり、美しくライトアップされた本館をバックに様々なパフォーマンスや食事が振る舞われ賑わっていた。

ビーチでシンプルに月光浴

美容の為にクレオパトラも行っていたと言われる月光浴。ハワイの月には浄化作用があると言い伝えられ、ビーチやベランダに出て満月を楽しむロコも多い。今回参加させて頂いたのはカイルアビーチ裏手にある邸宅での「満月音浴瞑想会」というプライベートな集まり。

Photo by Shizuka Ueno Reid

毎月満月の夜になると、仕事が終わったロコ達がそれぞれのペースでカイルアビーチに集まり、まずは歓談しながら夕日をバックにビーチクリーニング。クリーニングと言ってもビーチのゴミは細かいので一つ一つ拾うのではなく、ザルのような網目のついた器具を使ってふるいにかけるようにゴミ拾いをする。その後ボンゴやマラカスなどの楽器でリズムを取りながら、昇って行く満月を眺め瞑想タイム。さざ波をBGMにポコポコと響く打楽器の音色が心を穏やかにさせてくれる。その後持ち寄った手料理を楽しむのもローカルならではのお月見スタイルだが、忙しい旅行者も、是非ホテルのベランダやプールサイド、ビーチなどで思い思いにハワイの月光浴を体験して頂きたい。

月明かりを頼りに幻想的なフルムーン乗馬

ビーチやショッピングにも飽きてきたなというハワイ上級者にお勧めなのが乗馬。毎月満月前後の夜間しか開催されない、オヒキロロアドベンチャーパークのフルムーン乗馬はハワイでも珍しく、人気急上昇中のツアーだ。筆者自身も乗馬体験は未経験で夜道の乗馬など想像すらできなかったが、牧場スタッフが前後についてくれて安心感がある。

まず牧場に着くと暖かい人柄のスタッフ達が出迎えてくれて、説明もそこそこにヘルメットを借りて大人しい馬にまたがる。馬上からの眺めと暗闇に最初は少し焦るが、次第に慣れて来て景色を楽しむ余裕も出てくる。かつて米軍が利用していたというワイアナエの山道を少し進むと、視界が開けて満月に照らされた海が見えて来る。波の音と馬の足音だけが響く世界は夜の乗馬ならでは。日中は暑いハワイだが夜風が心地よい。馬は暗闇でも見えるのだろうかという疑問が湧いたが、睡眠時間が人間より少ないため夜目が利くそうだ。山の途中までゆっくりと登り、下ること1時間弱のツアーだが、あっという間に時が過ぎ、気づけば馬小屋に戻っていた。ワイアナエは日が沈む方角にあるので、写真映えするサンセット乗馬も人気。優雅なイメージに反して、乗っているだけで全身の筋肉を使うのでダイエット効果もあるという乗馬。旅の運動不足解消に取り入れてみてはいかがだろうか。

オンラインで予約可能で、ワイキキとコオリナ界隈ホテルからの送迎も頼める。日本人観光客も多く訪れるが今のところホームページは英語のみなので、英語が苦手な方はホテルのコンシェルジェや旅行代理店に相談してみよう。

秋冬は空気も澄み渡り、夜も長くなる事から月を愛でるのに適したシーズンであると言われている。私達は月を見上げる事も忘れがちだが、時には夜空を見て一息つき、エネルギーチャージをしよう。そしてハワイを訪れたら、南国の明るい月に照らされた夜道を楽しむのも良し、満月の夜空にかかる月の虹、ムーンボウを探してみるのも良し、それぞれのスタイルに合ったハワイならではのお月見を楽しんでみてはどうだろうか。


ビショップミュージアムホームページ

オヒキロロアドベンチャーパークホームページ

シズカ・ウエノ・リード
1996年に渡米。カリフォルニア州立工科大学を卒業後、グラフィックデザイナーとしてサンフランシスコとハワイで活動。産後はハワイでカメラマンに転向し、ブライダルカメラマンの傍らハワイ情報発信を始める。
Instagram:paradisephotohi