「エスニック・ネイバーフッド」は、“多民族によって作られたローカル色溢れるコミュニティー”と説明すると適当だろうか。

カナダは植民地であったし、これまで人口を増やすために移民を多く受け入れてきた。2011年の統計によれば、国民の5人に1人は、海外で生まれてカナダにやってきたという。古くは、ヨーロッパからの移民が多かったが、ここのところアジア生まれのカナダ人の数が50%に迫るまでに増えてきた。

カナダ第1の都市トロントは、金融、通信、メディアなど、カナダ経済の要だ。そして、この人口250万人の大都市には、いくつかの「エスニック・ネイバーフッド」がある。カナダ以外に故郷を持つ人たちが集まって生活している地域だ。地域と言っても、トロント市内のひとつのメインストリートとその周辺といったイメージで、明らかな境界があるわけでもない。そして、東京と比べればコンパクトなトロントなので、いずれもバスやトラムで、気軽に足を運べる位置にある。

さて、ダウンタウンにあるセントローレンスマーケットは、地元の人ならハイエンドの、観光客ならグルメを求める人が集まる食料品の屋内マーケットだ。オーガニックで新鮮な野菜、活きの良いシーフード、健康に育てられた動物の肉、本格的なチーズなどの乳製品など、どれも厳選された食材が並ぶ。

2階のフード・コートで「ポーボー」を売っていた。「Poor Boy」が訛ってそう呼ばれるのは、ケイジャン風の味付けで揚げた小エビのフライと野菜をパンに挟んだもの。もともとは、端切れ肉などをおいしく調理したものが具にしていたもので、アメリカの南部からやってきた人たちが伝えたものだという。今ではそれが、このマーケット周辺のビジネスパーソンの昼食として人気だ。そして、価格は10カナダドル前後と、もはや「Poor」という実体はない。オリジナルイメージだけが残っている。当時の、貧しい食事で厳しい時代を生き抜いた人たちの生活は、もうすっかり過去のものとなったようだ。

トロント郊外には、香港人が多く住む町がある。イギリスから中国への香港返還を嫌って香港から移り住んだ富裕層が多く暮らす。言ってみれば、新興のエスニック・ネイバーフッドだ。古くからの移民たちが苦労を重ねてきた、トロント市内のチャイナタウンとは全く異なり、そこには広い敷地の大きな邸宅に住み、ゴージャスな内装のレストランで豪勢な食事を楽しむ中華系の新住民たちがいた。

背景はこのくらいにしておいて、歴史ある移民の街へ出かけて、祖国を思う人たちのふるさとの料理をいただこう。

チャイナタウンの素朴な店で当たり前の中華料理を

トロント中心部にあるチャイナタウンは、たとえば横浜のように区画全体がチャイナタウンといったものではない。大通りに面して中華料理、食材店、薬局などが並ぶ「あたり」というのが適当だろう。古くにやってきた香港の人たちが営む中華料理は、ベーシックでシンプルな料理が魅力的だ。入った店は、大衆料理店然とした「汕頭小食家」だ。

海鮮焼きそばは、揚げた麺のものもあって日本でもおなじみの味そのもの。安心感と満足感が嬉しい。スープヌードルは香港風の伸びのない細麺。シーフードの練り物は、やはりアジア人である日本人にはなじみがある。周りを見れば、中華圏からの留学生が客の大半を占めている。酒を飲んで宴会をしているグループなどはなく、皆それぞれが自分の食事に集中している。祖国から遠く離れて、しみじみと国の味を楽しんでいるように見える。

本格的なポーランド料理「レストラン・ショパン」

中心部からトラムに乗れば、10分ほどで行くことができるロンスヴァルズ・アヴェニューは、ポーランドの人たちが住むエスニック・ネイバーフッドにある通り。ここにあるのが、その名も「レストラン・ショパン」だ。ポーランドが生んだ大作曲家の名前をそのままに、そして店頭のサインボードには肖像や鍵盤のイメージが書かれている。「ちょっと、どうかな?」といった印象だが、そのポーランド料理は本格的だった。

ビーツのスープに入ったピエロギは、チーズやホウレンソウ、ひき肉を包んだ餃子に似たダンプリング。ビーツの爽やかで、大地を思わせる味が独特だ。ポークのシュニッツェルは、薄くのばした豚肉に衣をつけて揚げたもの。メインで大きなサイズもあるが、小さめのサンドにする。マスタードにクリームチーズ、大きなピクルスがポーランドらしい。ビールはポーランドの国民ビールTyskieだ。すっきりした飲み心地で、食事にも合う。

Photo by Atsushi Ishiguro

通りには八百屋もあって、そこに並んでいる生き生きとした野菜を見れば、この辺りの人たちの食へのこだわりも感じられる。LOTポーランド航空のサインを掲げた旅行会社もいくつかあり、祖国を訪れる人たちも多いようだ。

さて次回は、韓国、ポルトガル、ギリシャのエスニック・ネイバーフッドと、各国の料理、スイーツも紹介したいと思う。


All photos by Atsushi Ishiguro

Canadian Megatrends

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/