「食べて健康に」が常識となりつつある今、一時的なブームを越え、ここハワイでも愛好家の多い歴史あるローフード。ローフードのローは「生」を指し、文字通り生に近い状態の食材をアレンジして食すのがルール。48℃未満で加熱したものや、非加熱のもののみを食べる事によって、生きたままの酵素やビタミン、ミネラルなどの栄養素を摂取する事が出来るという考えに基づいている。

Photo by Shizuka Ueno Reid

古代から繋がるローフードの歴史

そのローフードであるが、原点を辿ると意外にも古代ギリシャまでさかのぼる。先駆者はなんとギリシャの哲学者ピタゴラスやソクラテスで、その時代から生のまま食べる重要性を生徒達に説いていたという。彼らこそがロービーガン(生菜食主義者)の先駆けであり、古代ギリシャの教えは、その後1830年代にアメリカで生まれたナチュラルハイジーンという酵素栄養学の基盤となる。そのセオリーによると、生のままの食物酵素を摂取する事で消化する為に使う体内エネルギーを最小限に抑え、新陳代謝アップやデトックス効果が期待されるため、体調が劇的に改善するという。そしてその研究は1900年代に次々と論文や書籍として世に発表され、世界に広まるきっかけとなった。

それでもローフードはそれまでの地味な見かけからか、なかなかブームにまでには至らずにいたが、2000年代にカリフォルニアのシェフ、ジュリアーノが「プラネット・ロー」というローフード専門のレストランを始めたのがきっかけとなりメインストリームの仲間入りを果たした。デミ・ムーアなどのハリウッドセレブに親しまれたジュリアーノの独創的で多彩なアレンジは、見た目にも美しく美味で、次々とファンを獲得してアメリカ全体のブームの火付け役となる。

こうして長い年月をかけて進化し、今やファッション性と科学、哲学的根拠を兼ね備えた現代のローフーディズムは、ベジタリアニズムの中でもユニークな存在である。2017年の流行語にもなったスーパーフード(栄養価の高い食材)との相性もよく、チアシードやナッツなどを使った低カロリーのヘルシーデザートは女性を中心に人気がある。そして基本的に加工品を食べないので、自然と添加物が排除される事による食の安全性も大きな魅力の一つである。環境保護が注目される今、比較的ガスや電気を調理に使用しない非加熱のローフードは地球にも優しく、時代とマッチした食生活であると言えるかもしれない。

Photo by Shizuka Ueno Reid

ハワイのローフードマイスター

以前よりオーガニックな食材が手に入りやすくなったハワイでも、ローフードのファンは多い。JALの機内誌でも紹介されたホノルル在住のカリスママイスター「リコ先生」こと平山律子先生のレッスンは、ハワイ在住者のみならず日本から訪れる長期滞在者にも大変人気である。ローフード教室や資格検定コースを手がける一方、食生活アドバイザーやケータリングなど活動が多岐にわたるリコ先生。今回同席して頂いた生徒の花水恵美さんも、元々看護婦だった先生の食と健康にまつわる説明は、単なる料理教室の域を越え詳しくわかりやすいのが魅力と語る。加熱しない為にパンもお肉も使わないローのレシピであるが、ナッツを砕いたパンで器用にサンドイッチを作り、クルミやキノコで肉感を表現する様はマジックさながら。

そんな先生は初心者はまず気構えずに、一品からでもスタートしてみて欲しいと言う。例えば日本でもすっかりお馴染みのスムージーも豆乳や牛乳を使わなければ立派なローフードである。健康に効果的なスムージーを作るのにはコツがあり、何種類もの野菜やフルーツを混ぜてしまうと逆に消化に悪いので、二、三種のフルーツと野菜を選び水とシンプルに混ぜる方がデトックスに効くそう。更に重要なのが、毎回同じ「お気に入り」の素材で作らないこと。栄養素はバランス良く摂る事が大事で、スムージーの内容も偏らないのが先生のお勧めだそうだ。

Photo by Shizuka Ueno Reid

簡単でおいしい「はじめてのローフード」レシピ

今回はリコ先生が初心者クラスで教えるという簡単レシピを数点ご紹介したい。火を通す手間がないので、工程も至ってシンプルな時短レシピは、忙しい現代人に最適。日本ではニュートリショナルイーストはネットか健康食品専門店で、サイリウム(オオバコ)は大手ドラッグストアやネットで購入可能。


ズッキーニのパスタ バジルカシューソース和え(2人分)

材料
フレッシュバジル: 1/2 カップ
カシューナッツ(*): 1/4 カップ
オリーブオイル: 1/4 カップ
ガーリック: 1片
レモンまたはライムジュース: 大さじ1弱
ニュートリショナルイースト(*): 大さじ1
岩塩: 小さじ1
ズッキーニ: 2本

ズッキーニのパスタ バジルカシューソース和え | Photo by Shizuka Ueno Reid

1.分量分のカシューナッツを30分水に浸す。
2.1とズッキーニ以外の材料をフードプロセッサーに細かくなるまでかける。
3.スライサーやピーラーでズッキーニを薄く細くパスタ用にスライスする。
4.2を3によく絡めて盛り付ける。

*ローフードでよく使われるカシューナッツはナッツ類の中でも消化されやすい上に骨に良く、骨粗しょう症予防にもなるそう。
*ニュートリショナルイーストとはビーガンに不足しがちなビタミンB群の豊富な、チーズ風味の粉末状の食材で、チーズ替わりにサラダなどにかけても美味。


サラダに合うヘルシーカシューマヨネーズ

材料
カシューナッツ: 1/2カップ
水: 80cc
レモン汁: レモン半分
メープルシロップ: 大さじ1
塩: 小さじ1/2

1. カシューナッツを水に30分浸す
2. 材料を全てミキサーに入れなめらかになるまで混ぜ合わせる。

サラダに合うヘルシーカシューマヨネーズ |Photo by Shizuka Ueno Reid


ローチョコレートババロア

材料
カシューナッツ: 50g
*ナッツミルク 100cc
(自家製は水に8時間浸したアーモンド1カップ+水2カップで作る。作り方下記参照)
メープルシロップ: 50g
カカオパウダー: 大さじ2.5g
水: 100cc
サイリウム(オオバコ粉末): 小さじ2

1.アーモンドを一晩(最低8時間)水に浸す
2.1とナッツミルクの材料分の水をミキサーに入れてしっかりとかくはんする。
3.こし布(二重ガーゼや手ぬぐいも可)で2を絞って濾し、100cc測る。
4.3のナッツミルクとサイリウム以外の残りの材料をミキサーに入れ混ぜ合わせる。
5.4にサイリウムを加えて再度ミキサーで混ぜ合わせる。

ローチョコレートババロア |Photo by Shizuka Ueno Reid

*このババロアに使用する自家製アーモンドミルクは、先生が特に広めたいロードリンクだそう。水に一晩浸したアーモンドと水をブレンダーで混ぜて絞るだけの筆者も試飲した新鮮なミルクは、既製品とは比べものにならないので是非試して頂きたい。ドリンク用にはアーモンド1に対し水3位の割合が飲みやすく、好みでメープルシロップなどで甘みをつけると格別。また、絞った後の残りはロースイーツにも使用でき無駄がなくエコフレンドリーである。

ローフードの効能とはじめ方

ローフードの基礎となっている酵素栄養学では、人の活動に合わせて1日を区切り、朝を排泄、日中を消化、そして夕方から起きるまでを吸収の時間としている。先生自身の食生活も100パーセントローフードではなく、お勧め実践方法はまず午前中をデトックスタイムと決め、朝食にはスムージーやフルーツ、ランチにはたっぷりのサラダを食べる事であるという。人によって体質が違う為効果も様々だそうだが、一般的にお通じが良くなり疲れにくい体質になる上に、美容効果はもちろんの事、精神安定や睡眠改善効果も期待出来るそうである。また近年では、ケールなどの野菜から摂れるタンパク質で、良質の筋肉が作られるとアスリートにも評判だそうだ。

「リコ先生」こと平山律子先生と花水恵美さん |Photo by Shizuka Ueno Reid

生徒の恵美さんもリコ先生同様、肌ツヤがとても良く、実年齢よりずっと若々しく見える。16年前に乳癌を患った恵美さんはそれまでの食生活を見直していた頃に、先生のお教室の存在を知ったそう。ご自身も先生のクラスでローフードマイスター二級を取得した恵美さん。ローとの出会い以降、加熱具合で食材の栄養素が変わる事を知り、各食材に合った調理法を意識するようになったと語る。肉食中心なご主人との食事も上手にバランスを考え、デザートにもロースイーツを時々作ったりしている。今回お持ち頂いた、スーパーフードキャロブを使ったトリュフチョコのようなスイーツも、砂糖不使用で低カロリーながらも満足感たっぷりの生チョコのような食感であった。

日頃ローフードに馴染みのない私達は「火を使わない」「肉も砂糖も駄目」と聞くと一瞬身構えてしまうが、恵美さんのようにいつもの食卓に一品でも、サラダ感覚でローフードを取り入れてみてはいかがだろうか。新しい世界が見えてくるかもしれない。


All photos by Shizuka Ueno Reid

日本リビングビューティー協会認定校
ホノルルハワイ校
ローフードマイスター平山律子問い合わせ先
メール:rawfoodhawaii@live.jp
ブログ:https://ameblo.jp/rowfoodhawaii/

シズカ・ウエノ・リード
1996年に渡米。カリフォルニア州立工科大学を卒業後、グラフィックデザイナーとしてサンフランシスコとハワイで活動。産後はハワイでカメラマンに転向し、ブライダルカメラマンの傍らハワイ情報発信を始める。
Instagram:paradisephotohi