目黒川から少し入った、小さな民家を改造したトルコ雑貨店、REISEPASS (ライゼパス)。淡いピンクとターキッシュブルーに塗られた外装のお店の中には、「イスラム建築、タイル、青、水色」というような、一般的に日本で知られているようなトルコアイテムは一つも無い。

お店に飾られているのは、カラフルで奇抜なデザインのグラフィックアイテム、日本の食卓にもあいそうなシンプルで美しい陶器、肌触りが最高なタオルに、オリジナルパジャマ。オーナーは、もともとは全く違う業種だった深野浩亨さん。深野さんが、どのような経緯でお店をはじめたのか、そして一番気になる、なぜ「トルコ雑貨」なのかを伺った。

REISEPASSの商品は、すべてトルコから輸入されたものなのでしょうか?

はい、現在お店に出ている商品は100%トルコの雑貨です。

深野さんは元々全く別のお仕事をされていたそうですが、お店を開くきっかけは何だったのでしょうか。トルコが好きだったのですか?

トルコと僕とは、元々は繋がりは全くありませんでした。2012年とか13年あたりですかね、周りに外国人がすごく多くなってきていると感じていました。僕は生まれも育ちも日本ですし、当時の僕の周りも殆どが典型的日本人。けれども、外国の方々がどんどん増えてゆく中では、この先は、海外の人たちと組んで何かをやっていかなければならないのではないか、と感じるようになっていきました。それはサービスでも良いし、物でも良い。日本人にはまだ馴染みのない国と何かやりたい。そういう思いがありました。そこで最初に選んで、行ってみようと思った場所がトルコのイスタンブールでした。本当に偶然でした。行きやすい、東ヨーロッパ方面で探してみたところ、直行便があったので行ったという感じですね。

REISEPASSのオリジナルパジャマ|Photo by Kentaro Yamada

行ってみて好きになってしまったというわけですね。

はい。やはり行く前は、日本でも知られているようなブルーのタイルグッズや、イスラム模様の雑貨などの印象が強かったので、エキゾチックな場所を想像していましたが、真逆で驚きました。おしゃれなモダンカフェやレストラン、スケートボードに乗った若者、音楽を楽しむ人々。もちろん古き良きものもたくさんあるのですが、自分たちで何かを生み出そうとしているパワーを、イスタンブールという都市からふつふつと感じました。

イスタンブールには知り合いの方がいらっしゃったのですか?

トルコに知り合いは一人もいなかったので、まずは自分の興味のあるセレクトショップに行ってみました。そこで、今REISEPASSでも取り扱っているエミリゲという陶芸作家さんの作品に出会いました。30代後半の女性なのですが、イスタンブールではおしゃれな雑貨屋さんで取り扱っているようなキャリアのある方です。彼女の作品に一目惚れしてしまい、これを日本で売りたい!と思いました。お店の人にお願いして彼女とコンタクトを取り、その後彼女のスタジオにお邪魔しました。何回かお会いしお話させていただく中で、お取り扱いさせていただけないかと交渉しました。

偶然入ったお店で、そんな出会いがあるんですね!

トルコにはハマムという伝統的な公衆浴場がたくさんあります。日本のように湯船はないのですが、サウナがあります。まあとにかく最高なんですが!
REISEPASSでは、ハマムの中でも有名なイスタンブールのKilic Ali Pasa Hamam(クリチ・アリ・パシャ ハマム)のグッズを取り扱っています。ミマール・シナンというイスラム建築の有名な人が建てたモスクを改修して造られた壮大なハマムです。実はこのハマムもトルコに行って最初に出会った人に教えてもらったんですよ。東京でこういう店をやりたいんだといったら、それならここのハマムの物を是非出したらいいよ、と教えてくれて。偶然にもハマムのオーナーがその人の古きからの友人だということで、その場で電話をしてくれて、その場で会いにいき、話が決まりました。

REISEPASS 深野さん|Photo by Kentaro Yamada

すごいですね!(笑) 深野さんはどうやってコミュニケーションされているのでしょうか。英語が堪能なのでしょうか。

僕は英語もトルコ語もできないですよ!iPhoneに助けられています。コミュニケーションをどうやってやったかは、もはや覚えていません(笑)

なるほど。グッツを集め、いよいよ店舗探しをしたというわけなのだと思うのですが、なぜこのような民家を借りようと思ったのですか?

トルコ雑貨屋さんをたとえば目黒川沿いの、いわゆる店舗でやっても、「ふーん」で終わってしまうような気がしたんです。ここはすこし分かりづらい場所ですし、住宅街の真ん中にあるということで集客面でのリスクがあることはわかっていました。けれども「ふーん」と一緒に、トルコの魅力を伝え、持ち帰ってもらうためには、話を聞いてもらう機会が必要だったんです。その場所には最適だと考えました。
人通りにお店があると、接客を不快に思われるのではないかとも考えました。ここだと話しかけやすいし、逆に話さないと気まずいロケーションだと思うんです。僕のトルコ話を聞いてもらいやすい環境をつくりました。

民家を改装した店内。ほとんどが手作りなのだそう|Photo by Kentaro Yamada

インテリアなどはトルコっぽくないですね。

トルコっぽさをだそうとおもったら嘘になっちゃうんですよね。イスラム風の何かをつくっても安っぽくなる。絶対に無理だと思いました。だから色で勝負しました。ターキッシュブルーを塗り、隠れ家風に仕上げました。テーブルも手作りしたんですよ。

深野さんの思うトルコの魅力を教えてください。

とりあえずご飯はめちゃめちゃ美味しいです!本当に日本人なら絶対みなさんお口に合うと思います。一番美味しいと思ったのはオリーブオイルですね。ワインと同じように、料理によって使い分けられていて。そんな世界は知らなかったので驚きました。他は煮込み料理や野菜の詰め物とか、とにかくなんでも美味しいです!

REISEPASS 深野さん|Photo by Kentaro Yamada

他には、歴史あるイスラム建築、特にモスクは素晴らしいです。でも、それをみたおかげで日本の神社の素晴らしさに気づけたんです。モスクは神を祀る場所だから、空間を大事にしていて、だからドーム型をしているんですね。すごいなと思い帰国すると、日本の神社の神の祀り方も半端ないですよね!他の文化を見ることで、母国の良さもわかってきました。旅をすることって大事だなとつくづく思います。そういう思いもあり、このお店をはじめたのもあります。

お店の商品について少し教えてください。

まずは陶器ですかね。REISEPASSで取り扱っている陶器は全て先ほどお話ししたエミリゲさんの作品です。トルコは陶器にむいた赤土が豊富で陶芸家が多いのですが、日本ではそのことはあまり知られていないですよね。たくさんいる現代陶芸家の中でも、彼女は伝統的な技術を継承しながらもモダンなデザインのものを制作されています。彼女の作るカップは、冷たい飲み物がずっと冷えてるんです。焼酎の水割りとかにぴったり。すごく美味しく飲めます。

石鹸やノートなどのアイテムも、グラフィックがレトロで可愛いですね。こちらはヴィンテージですか?

これはレトロなトルコのグラフィックからインスパイアされた、モダンアイテムです。広告会社に勤めているデザイナーたちが、トルコの日常をモチーフに作っています。もともとはお土産用だったのだと思うのですが、現地の人も好んで使用しているそうです。

パジャマはオリジナルアイテムですよね。

パターンからオリジナルで作っています。トルコはアパレル繊維産業が盛んで、生地がとてもよかったんです。生地のみトルコ産ですが、あとはすべてメイドインジャパンです。基本レディースフリーサイズですが、意外と男の人の方から欲しいと言われます。今大人気のアイテムです。

トルコのハマムグッズ|Photo by Kentaro Yamada

そしてこちらがハマムタオルですね。

ハマムでは、ペシティマルという腰巻を利用します。そこからバスタオルが生まれたんですよ。バスタオルはトルコ発祥なんです。こちらのタオルは柔らかく、肌触りがとても良いうえ、吸収性も高く、速乾性があります。もちろんトルコのタオルが全てこういうタイプなのではなく、日本にあるバスタオルの文化も普及しているのですが、このような昔から使われているものもやはり良いですよね。

うーん、トルコってなんだか布のイメージ・・布との関わりが深いイメージですよね(笑)

でしょう?でもそういうイメージを持って行くと、全く違うんですよ(笑)まさに、ここではそういうのを伝えたいんです!(笑)

どれも素敵なアイテムばかりなのですが、オンラインショップではなく実店舗にこだわった理由を教えてください。

大きな理由は、トルコの話がしたかったからなんです。話をしないと、このハマムのタオルも、ただのタオルになってしまうんです。文化を一緒に持って帰ってもらうことで、その物の価値を伝えたいと思っています。オンラインではどうしてもビジュアルだけで買ってしまうことが多いですよね。僕はお店ならではの、新しい情報を得るということ、そして物に付いてくる文化や物語を聞く、そういう人から人へ伝わるものを大切に思っています。

REISEPASS 深野さん|Photo by Kentaro Yamada

REISEPASSはドイツ語でパスポートという意味です。トルコから東ヨーロッパにむかって、ここから旅ができる、そういう意味を込めてつけました。ドイツ語を選んだのも、東ヨーロッパ方面にこれから進んで行き、クロアチアとかハンガリーとか、日本人にとってはイメージの薄い物をどんどん増やそうかと思っているからなんです。ここからそういうものを知ってほしいです。

インスタグラムを拝見しても、一つ一つのアイテムをとても丁寧にご説明されている印象を受けました。

そういう気持ちは伝わると思いますし、伝えることは大切だと思っています。これからの時代は、無人店舗がどんどん増えてくるのと同時に、人をかえさないとどうしてもやっていけない店舗も出てくると思うんです。僕はそちら側を目指しています。

オンラインショッピング世代に何か一言お願いします。

わざわざお店で買い物をしてもらいたいな、と思います。もちろんどうしても来れない人はオンラインを利用するのはアリだと思いますが、ストーリーを聞いて買うと愛着も湧きます。お店とのコミュニケーションは物を買う上ではとても大事だと思うんです。REISEPASSにも気軽にざくろジュースでも飲みに来てもらいたいです。そして気軽にトルコに行ってもらいたい!実際にお客さんでトルコに行ってくれた人がいるんですよ。すごく嬉しかったです。これからもそのようなお客さんが増えてくれると嬉しいです。


All photos by Kentaro Yamada

REISEPASS (ライゼパス)

住所:153-0042 東京都目黒区青葉台3-13-9
Tel: 03-6427-0639
営業日:毎週 金曜日・土曜日・日曜日
営業時間:OPEN 11:00 CLOSE 20:00
instagram: reisepass_

松下沙花 (まつしたさか)

アーティスト。
長崎生まれ。ニューヨーク、トロント、横浜育ち。
Wimbledon School of Art(現ロンドン芸術大学ウィンブルドンカレッジオブアート)の舞台衣装科で優秀学位を取得。その後Motley Theatre design Courseで舞台美術を学ぶ。大学院卒業後はロンドンにてフリーのシアターデザイナーとして映画、舞台、インスタレーションプロジェクトのデザインを手がけた。2012年より個人プロジェクトの制作を始め、現在は東京をベースに活動を続けている。
www.sakamatsushita.com
Instagram: @sakamat