毎年9月下旬に開催されるドイツワイン女王の選定審査会は、ドイツ南西部ランランド・プファルツ地方ワイン街道沿いの街ノイシュタットのイベントホールにて行われる。2回の審査を経て選出される女王1名とプリンセス2名は、1年間にわたり国内外の200以上ものイベントに参加し、ドイツワインの魅力を紹介していく。第70代目女王は、ヴュルテンベルク地域代表のカロリン・クレックナーさん(23)に決定した。プリンセスはプファルツ地域代表インガ・ストルクさん(24)とフランケン地域代表クララ・ゼーンダーさん(22)。

今後の大きな課題である、地球温暖化とIT技術、そして消費者の嗜好やライフスタイルの多様化にドイツワイン業界はどのように対応していくのか。審査を通して業界の明るい未来が見えた。

ワイン女王選出・接戦の予選

ご縁があって第70代目ワイン女王選出の審査員として参加する機会を得た。女王選出は、ドイツワイン協会(以下DWI) の主催で開催される。DWIは、連邦食品・農業・消費者保護省の管轄下で、ドイツワイン振興・広報の要として活動している。その活動のひとつが今回のドイツワイン女王の選考事業だ。

ドイツには、ザクセン、ザーレ・ウンストルト、ミッテルライン、アール、ナーへ、モーゼル、ラインガウ、ラインヘッセン、プファルツ、フランケン、へッシッシェベルクシュトラ―セ、ヴュルテンベルク、バーデンと、13の生産地域がある。今回の女王選出にはアール地域代表が不参加だったため12人による接戦となった。

ワイン生産地域代表の12人が勢ぞろい  Photo by norikospitznagel

候補者の年齢は21から29歳と幅広い。興味深いのは、皆様々な職歴を経てワイン業界に関わっていること、そして候補者の両親は必ずしもワイナリー経営者ではない点だ。かつて家業がワイナリーで親の後を継いだ娘さんが候補者として名乗り上げることが多かったが、今回は現役大学生、幼稚園教諭研修生、ホテルや保険会社勤務などの本職を持ちつつ、同時にワインに関わる女性が多い。自分の興味ある分野で経験を積んだり、海外で生活したことで改めて自国ドイツを見つめなおし、やはりワインが好き!と業界に関わっているためか柔軟な思考や鋭い対応性を備えている女性が目立った。

予選の9月22日、候補者が最も緊張したのはワイン専門家3人による3つの出題に対し、45秒間内に回答する場面だ。豊富な専門知識が問われ、1つは英語で質疑応答が求められた。候補者たちは生産地域を代表するワイン女王として過去1年間の経験を積んでいるため、臨機応変な対処で動揺も見られなかったのは感心するばかり。

質問内容は、ワインの専門知識のほか、「寿司にあうワインは?」、「ワインのミックスドリンクの将来性は?」など、ワインの楽しみ方やオールラウンドでかつ時流に見合ったものだった。

なかでも印象的だったのは、地球温暖化で、ワイン醸造家やワイン業界はどのように変貌し対応していったらいいのか、そしてIT技術を用いることでワインの品質をどう管理するかという質問だった。

そして政界、ワイン業界関係者、ジャーナリスト計70名の審査員による評価で、最終戦に臨む6人が選抜された。

専門知識と機敏な対応が求められるドイツワイン女王

勝ち抜いた6人の候補者は9月28日、ビデオによる簡単な自己紹介をした後、ブラインドティスティング(最終戦に参加できなかった7地域のワインを試飲して30秒内に回答)やクイズ形式で職業を当てるなどの出題に答えた。ユニークだったのは、毎年1月にベルリンで開催される国際緑の週間見本市でドイツワインの魅力を紹介する課題。2019年ゲスト国フィンランドからの来客に、見本市会場で乾杯、ブドウ品種、急斜面などワインに関連するキーワードをフィンランド語に変えて45秒で挨拶する機敏な対応と記憶力が試された。

その後、再び70名の審査員により6人の候補者から3人を選出。さらにこの3人から女王1名が決定した。70代ドイツワイン女王の栄冠をつかんだヴュルテンベルク地域代表のカロリンさんは、なんと同地域出身で32年ぶりの女王という快挙を遂げた。カロリンさんは、現役大学生としてブドウ栽培学を勉学中。余暇時間には最寄のワイナリーを手伝いながら、ワインの知識を深めている。女王として活動中は、1年間休学するという。プリンセスはプファルツ代表のインガ・ストルクさん(24)とフランケン代表のクララ・ゼーンダーさん(22)。

Photo by norikospitznagel

最終戦にはゲストとして、連邦食糧・農業省ユリア・クレックナー大臣が参席した。同大臣は[私はまるでクイーンマム(英国エリザべス女王の母クイーンマム)のような気分。1995年、この会場でドイツワイン女王になったわけですが、ワイン女王にならなかったら現在大臣として活動していなかったかもしれない」と、笑顔で挨拶した。

ファミリー名「クレックナー」が新女王と同じなのは全くの偶然。しかも同大臣がドイツワイン女王となったのは23年前のことで、まさに新女王カロリンさんの生まれた年という奇遇もあり、会場はより一層盛り上がった。

王冠を頭上にして笑み満面 左からラウラさん、カロリンさん、インガさん Photo by norikospitznagel

ドイツワイン事情と業界の移り変わり 

 
ドイツは、世界最北端のブドウ栽培地のひとつと言われ、長年日朝時間や気温の変動でブドウ収穫とワインの品質に大きな影響を受けていた。ワイン用ブドウの栽培は年間最低日照時間が1300時間が必要だと言われる。ところが過去30年間を振り返ると、年々気温が上昇しており1990年代に比較すると、欧州の気候は南に300キロほどずり落ちたような感じと、ドイツ気象台専門家は分析する。つまりドイツワインは地球温暖化の恩恵を受け、さらにドローンや携帯アプリケーションを用いてブドウの栽培管理や品質を一定に保つなどIT技術を導入することで高品質のワインが続々と市場に出回るようになった。

猛暑が続いた2018年の夏は、深刻な水不足に悩まされた。しかしブドウ古木の根は地中深くに達しているため、水分も充分取れており、ワイン用ブドウの収穫には悪影響がほとんどなく、病害の被害も少なかった。今年のブドウ収穫は、例年に比べ3週間ほど早く8月初旬から始まり、ワイン醸造家にとってあたり年でアロマも豊かでよりフル―ティな美味しいワインが期待できると、DWIのエルンスト・ブュッシャー氏は語る。ドイツ国内で生産されているワインの5分の1が国外で販売されているそうで、海外市場の開拓は大きな課題だ。カロリンさん、インガさん、そしてクララさんが世界を旅してワインを紹介することで、ドイツワインの注目度が高まることを期待したい。


Special Thanks: Deutsches Weininstitut (DWI)
All photos ©Noriko Spitznagel

シュピッツナーゲル典子
ドイツ在住。国際ジャーナリスト連盟会員
大学卒業後、出版社、ドイツ企業勤務。のち渡独。得意分野はビジネス・文化・教育・書籍・医療業界・観光や食など。翻訳や見本市の通訳、市場視察やTV番組撮影の企画やコーディネートも。人物インタビューが大好き。仕事以外では旅と食べること、スポーツジムと水泳に没頭中。
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