スローフード発祥の地でもあるイタリア出身のMassimo Bottura(マッシモ・ボットゥーラ)は、2018年世界のベストレストラン50で1位を獲得した、ミシュラン三ツ星レストラン「Osteria Francescana(オステリア・フランチェスカーナ)」のオーナーシェフだ。

マッシモは自身が運営する、各地域によるフードウェイスト(食品ロス)の問題に取り組む非営利団体「Food for Soul」の活動の一環として、最も貧しい人たちに食事を提供するレストラン「Reffetorio(レフェットリオ)」を2018年3月にパリのマドレーヌ寺院の一角にオープンした。

国際連合食糧農業機関の報告によると、今世界中で8億人以上の人々が飢餓で苦しみ、食料危機の不安も抱えているでいる中で、年間およそ13億トンのフードウェイストが出ており、私たちが生産する食料のおよそ3分の1が捨てられている。

マッシモの運営する「Food for Soul」は、公共、民間、非営利団体が世界中にコミュニティキッチンを作り継続的に運営し、そこにシェフやアーティスト、デザイナーから食品サプライヤーなどさまざまな分野の専門家を招聘し、その地域ごとによって異なる食物浪費や社会的孤立問題を認識・改善させるための非営利団体を運営している。

今回のレストラン「レフェットリオ」もその活動の一環だ。「Food for Soul」はボランティアとしてこれらの活動をしている訳ではなく、あくまで自分達の論理と美学に基づいた、文化を作り上げるための活動なのだそう。

レフェットリオは、カルフールなど地域のスーパーから、賞味期限間際の食料を回収し、1日あたり130kgほどの食料を健康的で尚且つ一流レストランと変わらないクオリティで調理し、主に難民やホームレス、社会的脆弱性のある人々を中心に提供している。マッシモは世界中からシェフ達を招集したり、誰でも応募できるボランティアスタッフを募集し、調理などの経験がない人はサービススタッフとして参加できる仕組みをつくった。その日に残った食事はボランティアスタッフに提供される事もあって、日々応募が殺到しているそうだ。

マッシモはこの活動を通してより多くのシェフ達を巻き込み、これらの経験を通して彼らに“シェフとしての責任”や“クリエイティビティとは何か”ということを考え、見つけ出す機会になってほしいと願っている。

レフェットリオの内装には、リサイクル資材を使用することで有名な建築家「Nicola Delo(ニコラ・ドロン)」によるもの。さらにそこには、様々な表情をした人々のモノクロポートレート写真を大きく引き伸ばしてプリントし、世界中の街中に貼り付けけるというストリートアートで有名なフランス人アーティスト「JR」と、NYベースで活躍するフランス人スカルプターの「Prune Nourry(プルーヌ・ナリー)」が共同でインスタレーションを設置し、ヒストリカルな寺院の内装を現代美術館の様に置き換えている。今後もアフガニスタンの若手アーティストを始め様々なアーティストを招待し、レフェットリオの活動に貢献することを呼びかけるそうだ。

「Reffetorio(レフェットリオ)」の内装

ボランティアで厨房やサービスを手伝いにくる人達には、まずは笑顔でお客さんを受け入れることや、人も食料も最後まで大事に扱うことなど道徳的な事を教え、教わる方もそれらを実践する事で自分自身が癒されていくのだそう。

実際にレストランに足を運ぶ難民やホームレス、社会的脆弱性のある人々は自分なりにちゃんとした格好をしてレストランを訪れるそうで、帰り際にスタッフにちゃんとお礼を言って帰るそう。そんな丁寧な愛のこもったコミュニケーションによって、受け取る方も投げかける方も言葉では言い表すことのできない価値を受け取っているようだ。

他にもイタリアのいくつかの街やリオデジャネイロ、ロンドンなどの6つの都市で食料廃棄や社会的格差の問題と向き合い、尚且つ料理やおもてなし、内装や芸術へのこだわりも自身の三ツ星レストラン「オステリア・フランチェスカーナ」となんら変わらぬクオリティで提供しているマッシモは、「世界一になった後に何をするかは、とても大切なこと。有名になったことで得た信用と、賛同してくれる友人シェフたちのネットワークを使って、“料理は愛だ”ということを世界に伝えたい」と語っている。

左・Massimo Bottura(マッシモ・ボットゥーラ)、アーティストのJR

“クリエイティブ” で社会問題を解決することはとても素晴らしいことだと思うと同時に、こんなにも食料廃棄や社会の格差が大きな問題になっているという現実を残念に思う。食料廃棄に始まりあらゆる社会問題に加担している自分たちは、あまりにも早いスピードで進んでいく社会の中で、大事な事をおざなりにし目の前に現れる現実をこなしているうちに、気づかぬところで何かしらの代償を払っているのかもしれない。そのルーティンを続ける方が簡単かもしれないが、一旦スピードを落として “人間らしさ” について考えた時、それらの問題を解決するだけでなく、本当の幸せに出会えるかもしれない。だけどそれは一人の力で達成できるものではなく、賛同者を増やし輪を広げ、心のこもった丁寧なコミュニケーションの波動が広がる事によって生まれるものなんだと、マッシモの活動を通して気付かされた。


NATSUKO

モデル・ライター
東京でのモデル活動後、2014年から拠点を海外に移す。上海、バンコク、シンガポール、NY、ミラノ、LA、ケープタウン、ベルリンと次々と住む場所・仕事をする場所を変えていき、ノマドスタイルとモデル業の両立を実現。2017年からコペンハーゲンをベースに「旅」と「コペンハーゲン」の魅力を伝えるライターとしても活動している。
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