台湾の食文化の特徴

台湾の食文化を一言で語ることは難しい。古くからの原住民が居住していて、独特の文化があった。その後、中国の南部から渡ってきた漢民族は福建料理を持ち込んだ。20世紀の半ばには、国民党が台湾に逃れ、それと共に中国東北部の麺文化が伝わったそうだ。

台湾料理と言えば、豚肉の腸詰、カラスミ、牡蠣が入ったタマゴ焼き、切り干し大根が入ったタマゴ焼き、魯肉飯(豚肉煮込みかけご飯)、担仔麺(エビそぼろ肉入り麺)、焼きビーフンなどが思い浮かぶ。いずれも日本の台湾料理店で一般的な料理だが、台湾でも一般的に食されることが多いようだ。世界の他の地域の中華料理と比較すると、あまり油を使わず味つけはさっぱりとしているものが多い。

台湾で朝食を楽しむべき理由

台湾の食生活の特徴の一つは、自宅で調理をせずに外食したり、屋台などで購入することだ。女性の社会進出が進んでいることもその要因の一つだ。女性の社会進出度指数(男性と同じレベルの場合を100とした指数)を見ると、日本は48.1、台湾は64.5と、女性が社会経済に貢献していて元気なのだ。忙しい生活の中で、料理をする時間が減った。また、一人暮らし用の賃貸住宅ではキッチンがないものが多いらしく、若い世代ほど外食する傾向にある。

一歩街に出れば、早朝から朝食を提供する食堂や屋台がすぐに見つかる。見つかるというか、どこにでもあるといったほうが正しいだろう。「早餐店」という看板が出ていれば「朝飯屋」ということになる。朝食のメニューは50台湾元(日本円で200円)ほどで、家で作るよりも経済的だ。そうした店は朝早くから賑わっていて、店内や店先で食べる人もいれば、テイクアウトする人も多い。ある調査によれば、勤務中(授業中)に会社(学校)で朝ごはんを食べる人が70%近くだという。

台湾で朝食を楽しむべき理由は、「おいしい朝ごはんがリーズナブルな価格で、しかもどこででも、現地の人たちと一緒に食べることができる」からだ。

Photo by Aysushi Ishiguro

朝ごはんと言えば「鹹豆漿(シェントウジャン)」

台北で、ここ数年人気の朝食の店「阜杭豆漿(フーハン・ドゥジャン)」は、もともとは屋台で人気が出た早餐店。今はビルの2階に入っている。早朝にもかかわらず、ビルを回り込むように行列ができていた。待つこと30分、店内に入ると、ファーストフードの店舗のようなインテリアで、広いフロアにテーブルが並ぶ。若い人たちで賑わっている。

鹹豆漿は豆乳のスープ。滑らかな口当たりで、豆乳がふんわりとちょっとだけ固まっている。そこに油で揚げたパンのような油条を入れると、最初は香ばしくサクッとした食感で、だんだん豆乳を含んで軟らかくなる。鹹豆漿はこの店にかかわらず定番の朝食。街にある豆乳の店でももちろん食べることができる。

鹹豆漿に、それに合わせる油条はもちろん、焼餅(窯焼きのパン)などが旨い。昔から変わらぬ朝食を、新しいスタイルで楽しめるのが人気の秘密かもしれない。

魯肉飯(ルーローハン)にスープとおかず

魯肉飯は台湾の「肉かけご飯」。屋台で始まった庶民の食事だ。台北の中心雙連駅を出ると、路上の朝市が賑わっている。そばの早餐の店「香満園」に入った。店と言っても半分屋台のようになっているオープンエアのラフな作り。店先には旨そうなおかずが並んでいる。

カウンターに座れば、まず魯肉飯だろうと店員に言われ、頷けばスープはどうすると聞かれる。鶏団子のスープにする。目の前のおかずから、白菜の煮物に、揚げ豆腐の煮込みを選ぶ。これで立派な朝ごはんだ。ここの魯肉飯は、豚肉が大きめに切られたタイプ。三枚肉の脂と、甘しょっぱいたれが白米に合う。

中正記念堂駅のそばに「金峰魯肉飯」では、ここでは魯肉飯に魯肉麺、鶏のスープに焼いた豚肉を食べた。この店の魯肉飯の肉は細長く切られていて、箸でも食べやすいし、麺にもよく合う。魯肉飯の具は、もっとトロっと煮込まれたタイプもあるので、あちこちの魯肉飯の店を回ってみるのも楽しいだろう。

麺好きにたまらない屋台の味

「許記」は、B級グルメが目白押しの雙連街にある麺が旨い店。ワンタン麺と豚肉麺をオーダーする。日本のラーメンと比較すると、ボリュームは6割から7割といったところで、朝ごはんにもちょうどいいサイズだ。

丁寧にとられたクリアなスープが体に浸みる。極端に脂が使われていることもなく、とてもやさしい味だ。ワンタンはシンプルながら、それがかえってこのスープに合う。よく煮込まれた豚肉は、ほろほろとほどけるほど煮込まれていた。

高雄なら焼肉飯

台北では魯肉飯だが、台湾の南端に位置する台湾第2の都市、高雄では焼肉飯が主流だ。その名も「周老牌焼肉飯」も早朝から営業している店。三民市場の目の前にある。豚肉を甘辛い肉を絡めて焼いていて、当然ながら白米によく合う。日本人にとっては予想通りの味だ。

高雄では、サバヒーの団子のスープも楽しんだ。「阿貴虱目魚店」では、豚肉を煮込んだものと、家鴨の煮込みを白米に乗せたものもオーダー。サバヒーの団子はアッサリとしていて青魚特有のにおいも少なくとても食べやすかった。サバヒーは台湾南部でよく食べられる魚で、焼いたものをお粥にしたものは台南の定番だ。

鹹豆漿と魯肉飯を作って食べた

日本に帰って、鹹豆漿を作ってみた。黒酢を入れた器に、温めた豆乳を注げばふんわりとまとまる。醤油、ゴマ油、ラー油などはお好みで。干しエビに、柔らかいサキイカ、ザーサイにネギをトッピング。それに、油条も粉から作ってみた。シンプルで美味しい。

Photo by Atsushi Ishiguro

魯肉飯は、肉を大きめに切ったタイプにした。日本でも手に入る五香粉を使えば、台湾のあの香りがキッチンに漂う。本来は家鴨のタマゴだが、そこは鶏卵で。青菜の炒め物をおかずにした。

Photo by Atsushi Ishiguro

朝ごはんを外食で済ませる台湾の人たちと一緒に、地元の個人経営の店で好きなものを選んで食べるのは楽しい。台北や高雄といった大都市の忙しさの中にも、作る人の温かさと優しさが感じられて、更においしく感じられる。コンビニのおにぎりでは感じにくい、「満たされる」という感覚が嬉しい。台湾に出かけたら、ぜひ早起きして地元の朝食を満喫してほしい。


All photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/