近年高級コンドミニアム建築に沸く、不動産バブル真っ只中のホノルル。それに伴い街並も年々洗練され、ワイキキやアラモアナ地区の商業施設では、昔ながらの小売店は影を潜め、ブランドショップや大手チェーン店が目立つようになった。

そんな中、メディアで注目されるカカアコ地区に、最新の複合施設が登場した。スタイリッシュでありながらハワイ独自の文化を取り入れた店が多く並ぶ『SALT At Our Kaka‘ako (ソルト アット アウア カカアコ)』、通称『SALT(ソルト)』である。

Photo by Shizuka Ueno Reid

アートな開発地区、カカアコの歴史と現在

SALTを中心に展開する、新旧カルチャーの発信地であるカカアコは、アラモアナとダウンタウンの中間に位置する開発地区である。今でこそ流行に敏感なロコや観光客で賑わう話題のカカアコであるが、その歴史は奥が深く、かつてはカメハメハ大王など王族の多く住む地域であった。当時カカアコでは水産業が栄え、魚の養殖や塩作りがハワイの先住民の生活を支えていた。その後時代の流れと共に工場が立ち並び、徐々に倉庫街と化すのであるが、近年、先住民の運営する現地校カメハメハスクールが中心となってOur Future Kaka’akoという計画的開発が進められている。2012年にスタートして以来、高層コンドミニアムやおしゃれなカフェが次々と建設され、完成は2030年とされている。

街の美化プロジェクトの一環として倉庫街の壁に地元アーティストの手で描かれた数々のウォールアートは、「インスタ映え」スポットとして多くのメディアに取り上げられており、多くの観光客が撮影に訪れる。SALTの見どころの一つにも、このウォールアートの先駆者カメア・ハーダー氏によって描かれた古くから伝わるハワイ神話の壁画がある。

Photo by Shizuka Ueno Reid

ハワイの歴史を大切にする人々

その流れの中、カメハメハスクールが立ち上げた新プロジェクトSALT at Our Kaka‘ako。初めは2014年に、企画前から存在していた数店舗のある中心部を整備するとこから始まった。そして現在は85,000平方フィートにも及ぶ巨大施設となり、今も洗練されたハワイローカルのカフェ、レストラン、ファッションや雑貨店が次々とSALTにオープンし続けている。

『SALT』という商業施設には珍しい響きの名前は、前述のカカアコの水産業「塩の池」が由来している。ハワイ王朝時代、池から丁寧に採取され、黄金に例えられるほど貴重だったこの地域の特産物の塩からとったネーミングから、ハワイの歴史を大切にする地元の人々の意気込みが伺える。名前のみならず、SALTの建物はカカアコの倉庫の素材をそのまま使用する事で、元の街の姿を継承し資源も無駄にしないエコな精神に基づいてデザインされている。この環境保護や地域貢献といったコンセプトは、SALTにとって重要なミッションであり、各店舗も今話題の紙ストローやリサイクルしやすいカップを使用するなど環境に優しい工夫が見られる。

Photo by Shizuka Ueno Reid

ハワイならではのユニークな店

30店舗以上あるSALT店舗の多くはハワイベースであり、飲食店は産地直送のローカルの素材を使った料理を提供する店が多い。また、アートの発信源であるカカアコの中心にあるSALTには、他のショッピングモールでは出会うことの出来ないアーティスト必見のショップも存在する。

ブッチャー&バード

アラモアナの高級レストラン「ヴィンテージ・ケーブ」でも調理経験のある、この道17年のチャック・ウェイクマン氏の肉屋とデリ。ハワイでも日本同様、家庭で必要な肉は大手スーパーで購入というライフスタイルが浸透しており、街角から肉屋は姿を消した。そんな風潮の中、チャック氏は敢えて昔ながらの「お肉屋さん」をSALTにオープン。肉屋と言っても古臭さはなく、おしゃれな店内にはハワイ産の肉や自家製ソーセージの他、お土産用のオリジナルTシャツなどのグッズやスパイスが並ぶ。特にホテルで調理出来ない観光客に嬉しいのが、その場で産地直送のお肉を挟んでオリジナルマスタードやソルトと共に調理してくれるサンドイッチ類。サイドの甘酸っぱい手作りピクルスも美味。

ロノハナチョコレートテイスティングバー

ワインテイスティングのような趣きで、ローカルのチョコレートが試食出来るチョコレートブティック。ノースショア産のカカオをふんだんに使った贅沢なチョコレートはお土産にもぴったりで、お持ち帰り専門のロゴ入りオリジナル保冷バッグも販売されている。お店でオーダーするとその場で練って箱詰めして貰えるビタースイートな濃厚トリュフの6個セットはロコのファンも多い。チョコレートのみならず、小さな缶に入ったカカオベースの塩もグルメな人へのギフトに最適。買い物に疲れたら、是非ロノハナ名物のチョコレート入りドリンクも試してみよう。

バタフライアイスクリーム

ハワイ産素材を多く使う、オリジナルフレーバーが話題のアイスクリームショップ。旬のフレーバーは週替わりで、訪れる度に新しい発見がある。アイディア溢れるオーナーのフー氏は、一番人気はユニークなお酒のアイスだと語る。ラムの香りが秀逸の定番ラムレーズンの他、ウォッカベースのアイスもあり、この夏はスイカ焼酎ソルベまで登場。ハワイでお馴染みのコナコーヒーも人気。ソルベは暑い日にぴったりのさっぱりした後味で、アイスクリームは濃厚でクリーミー、どちらも素材の味が存分に生かされたテイスト。おすすめのワッフルはその場で手作りのこだわりでアイスクリームとの相性は抜群である。

Photo by Shizuka Ueno Reid

ハングリーイヤーレコード

ハワイでも貴重なレコード店の一つ、ハングリーイヤーレコーズドは、1980年代にカイルアでオープンして以来ずっとハワイのミュージックシーンを支えて来た老舗である。年輩客を想像して店内に入ると、スピーカーから流れる温かみのある音に包まれた店内は若者で溢れている。マネージャーのジム・ウィリアム氏曰く、今若者を中心にレコードが再ブレイクしつつあり、日本やオーストラリアなどからも名盤を探しに熱心なレコードファンが訪れるのだとか。土地柄、ハワイアンミュージックのコレクションには特に力を入れており、レコードのみならずハワイアンやオールディーズのレアなCDも、中古CDセクションにずらりと並んでいる。

Photo by Shizuka Ueno Reid

ツリーハウス

アーティストが集うSALTに相応しい、写真愛好家必見のフィルムカメラ専門店。旅行中のフィルム現像にも対応。フィルムやフィルムカメラはもちろん、モノクロ印画紙や暗室用のアイテムなどが所狭しと並ぶ。書籍コーナーではレアな写真集に出会えそう。デジタル化に逆行して、ますます流行中のポラロイドカメラも多く扱っており、最新のカラフルなカメラが壁を飾り見ているだけでも楽しい。アパレルグッズも充実しており、フィルムのキャラクターで話題のスケーターブランド「The Quiet Life(ザ クワイエット ライフ)」やツリーハウスオリジナルTシャツとキャップを求めて訪れる若者も多い。


アクセス
・アラモアナとワードの先にあるSALTへはワイキキからもバス19、20、42番のいずれかで行くことができる。
・レンタカーの場合は、SALT専用の大型駐車場に停める事が可能。入り口でパーキングチケットを受け取り、訪れた店舗で駐車割引券「ヴァリデーション」をもらう。
・周辺のウォールアートを撮影がてらSALTで休憩も人気のコース。ただし、最新スポットといってもまだまだ治安がワイキキには劣るので出来れば遅めの時間には訪れず、周囲に気を配りながらカカアコ散策は楽しんで頂きたい。

SALT At Our Kaka’ako
https://saltatkakaako.com
住所: 691 Auahi St. Honolulu Hawaii 96813

シズカ・ウエノ・リード

1996年に渡米。カリフォルニア州立工科大学を卒業後、グラフィックデザイナーとしてサンフランシスコとハワイで活動。産後はハワイでカメラマンに転向し、ブライダルカメラマンの傍らハワイ情報発信を始める。
Instagram: paradisephotohi