旧共産圏の国のメーデー

ヨーロッパでは、5月1日は「夏の訪れを祝う日」という祝日だ。第2次大戦後1949年には社会主義国となり、40年後の1989年に民主化されたハンガリー。その間、共産党がそのプロパガンダを広め、党員を増やすための日として“利用”していた。首都ブダペストでは盛大なパレードが大通りを進み、中心にある広大なVarosliget ヴァーロシュリゲット公園ではビールとソーセージが振舞われたという。民主化後は「家族の日」と名前を改め、ハンガリー国内各所で多くの催し物が開かれるようになった。

スポーツカーとエアーショウの轟音で盛り上がる

5月1日のブダペストの街には、多くの人が繰り出していた。中心部の通り数キロが、レーシングカーのデモンストレーション走行ためのコースとなっていて封鎖されている。目の前を何台ものレース仕様の車が、かなりのスピードで爆音とともに走り過ぎる。沿道で見物する市民たちは歓声を上げてそれを眺めている。

ペスト地区からブダ地区へ移動したいのだが、閉鎖された道は横断できないので、コースの端まで行って大周りするしかない。ブダペストはドナウ川を挟んで、ブダ地区とペスト地区からなる。1849年にセーチェーニ鎖橋がかけられるまでは、夏なら船、冬には凍った川を渡って行き来していたという。

Photo by Atsushi Ishiguro

王宮からドナウ川越しにペスト地区を眺める

ブダ地区の丘を上がれば、レースの転回をするランドアバウトを見下ろせた。ペスト側に広がる街並みと夏が始まったばかりの空を眺めていると、軍用機がドナウ川の上を、これまた轟音と共に飛んでいく。数機がシンクロしていたり、高く舞い上がって急旋回したりと、アクロバット飛行の演技が続いた。レーシングカーといい戦闘機といい、スピードがある乗り物は人を興奮させるようだ。

ブダの丘の上にある王宮のそばで、ランチをとった。

Hortobagy Palacshinta ホルトバージ・パラチンタ

休日にもかかわらず開いているビストロ、Pest-Buda Bistroを見つけた。ハンガリーらしい料理を食べたいと店員に聞けばパンケーキがおいしいという。ランチなのでパンケーキでもいいだろうと頼んでみた。しかし、これがいわゆるパンケーキとは一線を画するしっかりとしたメインの料理だった。料理名のホルトバージはハンガリーにある大平原の名称、そしてパラチンタはパンケーキの意味だ。

Photo by Atsushi Ishiguro

鶏のひき肉に玉ネギ、トマトなどをパプリカパウダーと一緒に煮た具をシンプルなパンケーキに包んで、煮汁とサワークリームをベースとしたソースをかけてオーブンで焼いたもの。サワークリームの酸味とパプリカの風味がよく合っている。パンケーキとはいえ、厚めのクレープといった食感で、ソースとの相性がいいしボリュームもある。

ハンガリーではパプリカを使った料理が多い。ペスト地区の古い屋内市場では、生のパプリカにピラフを詰めチーズをかけてオーブンで焼いたものをいただいた。また、たくさんの種類のパウダーのものやチューブに入ったペーストなどが店頭に並んでいた。

その名もずばり 「クリーム」というケーキ

Ruszwurm は老舗のコンフェクショナリー。Pest-Budaのそばの路地にある小さな店だ。ここの名物はズバリRuszwurm krémes。“クリーム”と名付けられたパイは、200年続くレシピで作り続けられている。クリームと卵と牛乳の配合に秘密があるというのだが、店のホームページに材料と詳細な手順が、ハンガリー語だけで掲載されている。

一般的には泡立てた卵白を使ってふわふわとした食感を作るそうだが、この店ではホイップしたクリームを使っている。重いものになるかと想像したのだが、意外にもとても軽い食感ですっきりとした味わいだった。他にも様々なケーキがあるので、甘いもの好きには嬉しい店だと思う。

Photo by Atsushi Ishiguro

旨いフォアグラが安い

ハンガリーではフォアグラがよく食べられている。そして、他のヨーロッパの国と比較すると安く手に入る。伝統料理を出すレストラン、Karpatiaに出かけた。ここではソテーしたフォアグラではなく低温調理したものを、冷製で前菜として楽しませてくれる。ソースを使わないのでフォアグラそのものの思ったより淡白な味がよくわかる。バターで焼いてもいないんから、、フォアグラといえどもくどくない。厚めのスライス4枚が並んだ一皿を、平気で平らげることができた。

メインにはロールキャベツを、パプリカをつかったソースで煮込んだものを頼んだ。パプリカの少し香ばしい香りが食欲をそそる。こちらもホルトバージ・パラチンタ同様に、サワークリームがベースになっている。

家庭の定番料理グラーシュを作って食べた

パプリカを使った煮込み料理「グラーシュ」はハンガリーの定番料理。玉ねぎをしっかり炒めたら、牛肉を入れて表面を焼いて、スープとパプリカを入れてゆっくり煮込む。パプリカパウダーには2種類あって、ひとつはプレーンでもう一つはスモークしたもの。スモークしたものを使うと、より深いコクが生まれるので、しっかりとした煮込み料理にいいと思う。今回はパスタと一緒に食べたが、現地では「クネドリーキ」という蒸しパンのようにしっとりとしたパンを付け合わせることが多い。

Photo by Atsushi Ishiguro

街のどこかに、共産圏時代の遺産や雰囲気が残るブダペスト。豊かな食文化と現地の空気感を楽しみにでかけるなら、5月1日のメーデーを挟んだらもっと楽しいはずだ。


All photos by Atsushi Ishiguro

Pest-Buda Bistro
 

Ruszwurm Confectionery
 
Karpatia

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/